第32話 過去のありがとう

待ち合わせのファミレスの前で麻美を待つ。

黒い帽子を深くかぶり顔を見られないように。

平日の昼間とは言え、ある程度の人はいる。


「お待たせ! 久しぶり、めぐみちゃん」

白いワンピースを着た女の子がこちらに向かって走ってくる。

小学校のころから会ってはいないものの麻美だと認識できた。

人の心を引き付ける輝く笑顔。

「久しぶりだね、会えてよかった」

「入ろっか!」


麻美が先に店に入り、そのあとをついていく。

「2人です!」


やはり店に客は片手に収まるくらいしか入っていなかった。

少しホッとした。


「お腹すいたね! 何食べようかな!」

「そうだね、お腹すいた」


誘導された窓際の席に座り注文が決まると呼び鈴を鳴らす。

店員さんがやってくると、

「ハンバーグセットお願いします!」

満面の笑みで注文する麻美。

「煮込みうどんお願いします」

私はできるだけ顔を伏せて注文する。

「は、はい。承知しました」

なんだ今の一瞬の動揺は。耳でも帽子から見えてしまったのだろうか。


そんなことを考えていたら店員さんはもう行ってしまったみたいだ。

「めぐみちゃん、どうして電話かけてきてくれたの?」

「えっと……久しぶりに麻美ちゃんと話したいなって思って……」

本心をストレートに言うのはやはりハードルが高い。

麻美は満面の笑みを向けてくる。

「ありがとう! そう言ってくれて嬉しいよ! 私も最近めぐみちゃん何してるのかなーって思ってたから気が合うね!」

そうだ、この子はこういう子だ。私のすべてを肯定してくれるかのようなこの感じ。

私にはどうしてもできないことなのだろう。

……でもやっぱり言うことは言わないと。

「あのさ……」

「ん?」

「えっと、電話を掛けたのはね、話したかったっていうのもあるんだけど、ありがとうって言いたくて」

「どうしたの?」

「小学校のときに友達もいなくていじめられてた私をたくさん助けてくれて、友達として接してくれたこと本当に感謝してて……でも、小学生の頃の私は全然そのありがたさに気が付いてなくて、麻美ちゃんに何の恩返しもできてなかった。自分はずっと一人で、それで十分だとさえ思ってた。ごめん、今になってそれに気づいてどうしてもありがとうって言いたくなって……その、小学校のとき助けてくれてありがとう」

つい話すことに夢中になって、ひたすらテーブルを見て話しをしてしまった。

ふと、麻美の顔を見ると2つの目から透明なしずくが零れ落ちていた。

予想もしていなかった反応に言葉が出てこない。






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