第23話 狩りへ
ポコポコと駆けるウイマの振動が全身に伝わる。
涼しい風が吹き抜ける。
日は沈み山から見える日の光の残りだけがこの村を照らしている。
トウヤの後ろにしがみついてウイマに揺られながら森へ向かう。
「どうだ?たまにはウイマで走るのも悪くないだろう!」
「そうですね、風が気持ちいいです」
「きっと狩りも楽しいからメグミもやってみたらどうだ?」
「私にできますかね」
「何事も挑戦してからだな!」
「……やってみます!」
「おお!頑張れ!」
思ったよりも早く森についた。
しばらく歩くとシカが休んでいた。
気づかれないように足音を立てず小さな言葉で会話する。
「ほら!あそこのジカをこの弓矢で撃ってみな」
「はい、やってみます」
「失敗しても俺が仕留めるからな」
トウヤがそう言うと袋に入っていた5つの尖った石が宙に浮く。
弓矢を思ったように構えてみる。
「もっと思いっきり引くんだ」
「はい!」
弓矢を操るには思った以上に力が必要なようだ。
「いい構えだ!行け!」
トウヤの掛け声と同時に矢を放つ。
―――――――――――――――
放った矢はシカこの世界でいうジカの背中をかすり、驚いたシカは一目散に逃げていく。
シカが走り出した瞬間……
宙に浮いていた尖った石がジカの体に刺さり、ジカは地面に倒れこんだ。
一つが頭を射抜き即死のようだった。
「……すごい」
「惜しかったな!初めてならこんなもんだ!」
「今のは何の魔法ですか?」
「これはただの物体浮遊魔法だぞ!俺にはカイルと違って物体浮遊魔法しかないからな!」
「物体浮遊魔法にこんな使い方があったんですね」
「練習は必要だが誰でもできるぞ!」
「私もできるようになりたいです!」
「まずは浮かせたものを動かせるようになってからだな!」
「はい!頑張ります!」
ジカをウイマを置いた位置まで運び、空が薄暗くなっていたため持ってきていたランプに火をつける。
捕ったジカをトウヤは手際よくさばいていく。
そして、何一つ残さずすべて持ってきていた麻布に入れる。
「全部持ち帰るんですね」
「そうだぞ!毛皮も骨も内臓も俺たちが生きるのにはどれも必要なものだからな!それに、このジカの命は無駄にしてはいけない。全部俺たちの命につなげないとな!そろそろ帰ろう、みんな喜ぶだろうな!」
帰りは私がジカをもって馬に乗り、トウヤはウイマをひく。
気分がなんだか高揚している。
そうだ、私たちはこの世界でも向こうの世界でも命をもらって生きてるんだ。
改めてその循環を目撃した。
そんなことを考えていると、トウヤが私たちの家ではない一軒家に向かっていく。
「どこに行くんですか?」
「狩りの後はたいていおすそ分けに行くんだ!」
トウヤが着いた家の扉をたたく。
「ごめんください!!」
『はーい!』
返事の後に顔を見せたのは年老いた老夫婦だった。
「ラウルさん、ロゼンさん、お元気そうで何よりです!今日の獲物のおすそ分けに来ました!」
「久しぶりじゃな。トウヤ君」
「あら、そちらの子はどなた?」
「初めまして、メグミです!」
「メグミはムンヤの子で今、俺たちの家で暮らしてるんです!」
「そうかそうか、もうムンヤの子がくる年になったのか。メグミちゃんもこっちに残ってくれると嬉しいのー」
「そうね、でも自分の好きにするのが一番いいわ」
「ありがとうございます。でも私、この世界結構好きです!」
「そう言ってくれるのは嬉しいわね。でも、大事なものはどこにあるのか分からないものよ」
優しく微笑むラウルとロゼンを見るとなんだかモヤモヤした。
キートの世界にもいいことがあると言いたいのだろうか。
「これジカの肉です!それと、お孫さん生まれたと聞いたのでこの毛皮で服でも作ってみてはどうでしょう」
トウヤは大きな肉と大きな毛皮を手渡す。
「あら、ありがとう!丁度作ろうと思ってたところなのよ」
「いつもありがとうな、気を付けて帰るんじゃぞ」
優しい老夫婦の感謝の言葉を聞きながら再びウイマに乗り移動する。
その後も3軒ほどまわった。そのたびに優しい笑顔と感謝があった。
家に帰るころには袋の重さも元の半分になり、空はもう暗くなっていた。
「今日はありがとうございました」
「狩りは面白いからな!また来年も一緒に行こう!」
「はい!」
家の扉を開ける。やっぱりこの家はどこか落ち着く。
『ただいま』
『おかえり』
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