第24話 晩餐
捕ってきたジカをメイと一緒に料理していく。
とは言っても、メイにシイムの世界の料理を教えてもらっているという方が正しいかもしれない。
向こうの世界でも小さい頃はよく母さんと料理してたな。懐かしい。
でも気づいたころから、一緒に料理をすることもなくなっていった。
きっと母さんには私の容姿のせいで迷惑をかけていたことだろう。
私が初めからこの家族に生まれてきていたら、母さんにはもっと楽させてあげられていたのだろう。
確か小学生高学年に上がったころから少しずつ母さんと距離が遠くなっていった気がする。
シイムの世界のことは嫌いでも、やっぱり母さんが何をしているのか気になってくる。
……いや、向こうの世界は時が進んでないのか。
そんなことを考えながら、ジカの肉と一緒に煮込む野菜を切っていく。
ふと、家の中を見回す。
横にはジカの肉を切っているメイ。
コーヒーを飲みながら本を読むカイル。
おもちゃで遊ぶサヤとライ。
二人と一緒になって遊ぶトウヤ。
その三人を優しい目で見つめるギル。
これが俗にいう幸せな家族というものなのだろう。
初めこそためらいはあったものの、今ではこの家族の一員になれたような気がしている。
「どうしたの、メグミ?」
「いえ……なんというか、ここに来れてよかったなって」
メイがこちらをニコニコした顔で見ている。
なんだか、カイル達からも視線を感じるが恥ずかしくてそちらに目を向けることができない。
「ありがとう!そう言ってくれて嬉しいわ」
何事もなかったかのように作業に戻るメイ。
みんなからの視線も感じなくなった。
私も何事もなかったかのように作業に戻る。
何とも言えない空気が家に流れているような気がするが……
「サヤもメグミおねいちゃん来てくれてうれしいよ!!!」
本人は意図せずであるだろうが家の何とも言えない空気が少し軽くなる。
「ありがとう!私もサヤちゃんと会えてうれしいよ」
そんなこんなで料理が出来上がりみんなで鍋を囲んでご飯を食べる。
「うまい!!やっぱりこの時期のジカはうまいな!」
トウヤの元気な声につられて、みんな口をもぐもぐさせながら大きくうなずく。
自分で捕った動物の肉を食べる。自分で殺めた命を食べる。
改めて自分が生きていることを実感した。
シイムの世界で食べる肉よりも固いし獣のような臭いもする。
でもやっぱり、今まで食べたどの料理よりも生きていることを実感する味だった。
鍋の中身が半分くらいになったころ、ギルが口を開く。
「メグミ、ここに来てみてどうじゃった」
みんなの視線が一気に自分の方に向けられる。
どこに目を向ければいいのか分からず、器のスープに浮かぶ具材たちを眺めながら答える。
「……初めこの世界に来たときは、みんな私と同じ尖った耳と赤い目をもっていて、やっと私も普通になれるって安心した気持ちになりました。でも、やっぱりムンヤの私はキートの世界にいたときみたいに、異物扱いされるんじゃないかって心のどこかで思ってました。それでもみんな、すごく暖かくて、よそ者の私を快く迎えてくれて……私はこの世界にいてもいいんだなって今は思ってます。それに、私もみんなみたいに暖かくて愛のある人になりたいって思いました。私、本当にこの世界に来れて幸せ者です。ずっとここにいたいくらいです」
目頭が熱くなっていき目の前がぼやけていく。
「メグミがそう言ってくれて嬉しいぞ!」
「そうね、ずっといてもいいのにね」
「サヤもメグミおねえちゃんにずっとここにいてほしい!ライもそう思うでしょ」
「……僕もメグミおねえちゃんと遊びたい」
「ねえ、カイルおにいさん!メグミおねえちゃんずっとここにいたらダメなの?ねえ、いいでしょ?」
顔をあげてカイルのことを見ると、表情一つ変えないで鍋をつついている。
「それはできないよ。メグミにはまだ向こうの世界に待ってる人がいるだろうから」
隣でギルもうなずいている。
「ほら、サヤ、わがまま言わないの。また1年後に来てくれるんだからその時にまた一緒に遊んでもらったら?」
「……分かった。絶対帰って来てね!」
「うん!ありがとう!」
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