第25話 隠し事
みんながそれぞれの部屋で眠りにつきだした頃、いったん最後の魔法の自主練に向かう。
目の前に並ぶ大小さまざまな石。一番小さくて10 cm、一番大きくて50 cm。
まるで、この3か月間の成長を現しているような光景で、勝手に余韻に浸ってしまう。
ここに至るまでどれだけの人に助けられてきたのだろうか。
ルミ、リド、クムア先生、クラスのみんな、そしてカイル。
感謝の気持ちを込めて、自分の脳にあるミーを右手に向かわせる。
一番大きな石が2 mぐらいの高さまで上がった。
自己最高記録だった。次は、トウヤみたいに空中で動かせるようになりたいな。
「ずいぶん上がるようになったね」
声の主の方に視線を向けると集中が途切れ、地面に大きな振動を与えながら石は地面に落下した。
「そんなにびっくりしなくてもいいじゃないか」
ヘラヘラと笑いながらこちらに歩いてくる。
「集中してて全然気が付きませんでした。てっきり、また家の中で本を読んでるものかと」
「ちょっと休憩だよ。それとこの前、俺の物体浮遊魔法見せられなかったからね」
「見せてくれるんですか?」
「ちゃんと見ててね」
「はい!」
カイルはそう言うと、右手を一番大きな石にかざし少しずつ上げていった。
それに続くように近くにあった何個かの石が上に上がっていく。
そしてそれらの石が円を描きながら、頭上3 mほどでぐるぐると回っている。
やっぱり、この人は自分と同じムンヤだった。
それにしても空を見上げてようやく気が付いたが、今日は星がよく見える。
徐々に石の高度を下げて地面に落ち着かせる。
こういう時、何を言ったらいいのだろう。言葉が全然見つからない。
「どうやって、何個も石を浮かせているんですか」
我ながら的外れな質問をしているのだろう。
「やり方は基本的には2つあって、今俺がしたのは一つの石から順番にミーをつなげていくやり方で、もう一つは初めからミーを分けて放出するやり方があるんだ。自分に合ったやり方見つけていくといいよ」
しばらくの沈黙。草木が風に吹かれてサラサラと揺れる音が聞こえてくる。
「なんで何も言わないの?」
「……なんでムンヤだって教えてくれなかったんですか?」
「どうしてだろうね…………俺はキートの世界が大嫌いで恨んでた。永遠と続くいじめや他人からの化け物を見るかのような視線。今でもあんなところ壊してしまいたいくらい憎んでる。それでもさ、最近思うんだよね。もしかしたら、俺が見ようとしていなかっただけで、俺を助けようとしてくれていた優しさや愛があったんじゃないのかなってさ。今更過ぎるけどね……俺はきっとキートの世界への嫌悪感とか、あったかもしれない希望を見捨てた後悔とかから目を背けたかったんだろうね。だから、ここにきて5年、本格的に暮らし始めて2年、俺は自分がムンヤだってことは忘れていたかったし、自分の下した決断から逃げたかった。メグミに自分がムンヤだってことを伝えると、嫌悪感と後悔が俺をつぶしそうになるから言えなかった。ごめんね……」
カイルが先ほどまで浮かせていた石が小刻みに震えている。
なぜだろうか、私の視界がぼやけていく。きれいに輝く星たちがぼやけてなんだか趣が増している。
ゆっくりとカイルに近づいて、右手でカイルの背中に触れる。
カイルの中に小刻みに震えるミーを感じる。
自分の中に流れるミーを流し込んで、カイルの震えるミーを落ち着かせる。
自分でも何をしたのかはよく分からないが、こうするのが正解なような気がした。
初めてあったときにカイルがしてくれたみたいに。
「ありがとう。メグミはキートの世界でも大事なものは見落とさないようにね」
「はい。この世界でみんなが私に大事なものの見つけ方を教えてくれたので大丈夫です」
「そう言えば、今日は星がきれいだね」
カイルの声がいつもの調子に戻る。
「そうですね。この世界の星はやっぱりキートの世界の星と似てますね」
カイルが地面に仰向けになって話す。
「俺もここに来た時そう思ったんだよね。オリオン座とか北斗七星とかそれらしいもの結構あるね」
カイルが右手でポンポンと地面をたたく。
こっちに来いという意味なのだろう。
カイルの隣に仰向けになって寝っ転がる。
「また来年の7月16日の9時にあの部屋で待ってるから、忘れないでね」
「忘れません。カイルさんこそ、また遅刻しないで下さね」
「ごめんごめん、今度は遅刻しないよ」
草木が風で揺れる音を聞きながら星を眺める。
さっき、慣れないことをしたせいだろうか。
意識が遠のいていく。
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