第26話 いってきます
チュンチュン鳴く鳥の声で目が覚める。
今日でもう行かなきゃいけないのか……
あたりはもう明るくなっていた。
ついでに体に何かが覆いかぶさっている。
モゾモゾと起き上がると体の上に乗っていたのはカイルがいつも来ているローブだった。
気温が下がり始めた今の時期に風邪をひくことなく眠っていられたのはこのローブのおかげなのだろう。
昨日の夜、カイルと星空を眺めながら眠りについてしまったことを思い出す。
そう言えば、カイルはどこへ?
いや、さすがに居眠りしてしまったのは私だけか。
独りぼっちでこの草原で眠りについていたのだろう。
ゆっくりと起き上がり、背伸びをして立ち上がる。
この世界に来てから目覚めがよくなったのは気のせいではないと思う。
とりあえず、ゆっくり家に帰える。
家に入ると中にはコーヒーを飲みながら本を読むカイルがいるだけだった。
他のみんなはいつも通り、畑や診療所に行っているのだろう。
「おはようございます」
「おはよう!いやー昨日の夜は寒かったね」
「これ、ありがとうございます。ローブのおかげであんなところで寝てても寒く無かったです」
「それはよかった。早く朝ごはん食べて、もうそろそろしたら出発しよう」
カイルの入れてくれたコーヒーとパンを食べる。
この3か月間、同じ朝食を食べてきたけど、しばらくは食べることがないのか。
家族の温かみを感じるこのお家にも、しばらくは帰ってくることはできないのか。
学校でできたお友達とも家族のみんなとも、しばらくは会うことができないのか。
いま隣で何食わぬ顔でコーヒーを飲んでいるこの人とも、しばらくは会うことができないのか。
そんなことを思っていると、涙が頬を伝っている。
鳴いているのをカイルに悟られないように、音を立てることなく涙を服で拭い、パンを口に入れコーヒーで流し込む。
「もう食べたのかい? それじゃあ、準備ができたら呼んでね。あと、部屋はまた来るんだから片付けなくて大丈夫だからね」
二階に上がり、準備をする。
とは言っても、向こうの世界からここに持ってきたものは何もないため、部屋を少しきれいにして出発することにしよう。
片付けなくてもいいとは言われたが、少しはきれいにしていこうと思う。
部屋をホウキではいて、気になる汚れを雑巾で拭きとる。
1人になってしまうとやっぱり寂しさがこころをむしばんでいく。
また目に涙が溜まる。こらえても勝手に頬を伝っていく。
悔しい、ここでもっと勉強したいことたくさんあった。
もっと恩返しがしたかった。
もっとみんなと一緒にいたかった。
カイルみたいに人を救える人になりたかった。
これは次に来た時のお楽しみにしよう。
涙のせいで汚れが見えず、なかなか拭き取れない。
ああ、もっとここにいたかったな。
掃除は思ったよりも早く終わった。
涙がばれないように目を冷やしてから、1階へ降りる。
そして、カイルと一緒に出発する。
しばらく歩くと、畑で作業しているトウヤとメイ、そして近くで遊んでいるサヤとライがこちらに向かって手を振っている。
「メグミ!ありがとう!また狩りに行こうな!」
「元気でね!必ず、また来てね!!」
「メグミおねえちゃん!また一緒に遊んでね!!」
叫ぶ三人とは対照的にライは小さく手を振っている。
「ありがとうございました!!また、来年!よろしくお願いします!」
叫んでも何とか声が届くくらいの距離。
しばらく手を振り合って再び歩き出す。
「ギルも見送りに行きたかったみたいなんだけど、診療所を空けるわけにはいかないし、長距離を歩ける体じゃないから来れなかったんだ。口には出してなかったけど、なんだか残念そうだったよ」
「私はここで出会いに恵まれましたね。本当に皆さんには感謝しかありません。もちろんカイルさんにも」
「楽しかったならよかったよ!みんなメグミが来て嬉しそうだったし、きっとみんなもメグミに感謝してるよ」
そんなことを言われると少し照れてしまう。
そんな私をカイルは嬉しそうに眺めている。
しばらく歩くと最初にここに来た時に見た商店街が見えてきた。
お別れのときはもうすぐのようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます