第40話 コーネル

「そうか、そうか、それを言ってくれるのは嬉しいもんじゃ。だがな、選択を急いてはならん。まだまだゆっくり悩むといい。精神安泰魔法はカイルが教えてやってくれ。発現のさせ方はもうワシは忘れてしまったからの」


「そうですね。今日から夕飯食べた後にでもちょっとずつやってみようか」


「はい!分かりました!頑張ります!」


「すみません!!!助けてください!」

1人の男性が女性を担いできた。女性の右の腹部から血が垂れてきている。


「リョウ、どうした?」


「母さんと二人で農作業してたら急にコーネルに襲われて……母さんの脇腹にコーネルの角があたって……さっきから血が止まらない!」


「分かった、そっちのベットに寝かせてくれ」

ギルが診療所の指揮をとる。


ラッサは痛みで顔をゆがませている。


「母さんもう大丈夫だからな!」


「リョウさんも落ち着いて隣の部屋のソファーで休んでいて下さい」


「ありがとう、カイル。頼んだぞ」


「ラッサさん、大丈夫ですか?」

カイルが呼びかけながら右手で彼女の体に触ると、眠るように彼女は意識を飛ばした。


その間にギルがラッサの傷口を見ている。

「これはギリギリじゃったな。内臓は傷つかずに済んでおる。とりあえず、筋層と皮膚を縫合しておけば大丈夫じゃろ」


「それなら、良かった。俺がやります」


「ああ、分かった」


「生食まだありましたよね」


「ここに少しだけ、明日もまたたくさん作らないと間に合わなさそうじゃな。じゃが抗生物質はもうない」


「仕方ないことです……」


カイルが生食を傷口にかけて洗浄してから、手際よく縫合していく。


「カイル、腕上げたな」


「ありがとうございます。ギルのおかげです」


最後に包帯を巻いて治療は終了した。






「リョウ、終わったよ」


カイルに呼ばれたリョウはラッサのもとに駆け寄ってきた。

「母さん!!大丈夫なのか?」


「今は眠ってるだけだから大丈夫だよ。明日、また傷を見せに来てくれ。それと、1日ぐらいは起きないと思うけど、これ、傷の治療に聞く薬草から作った薬だから、目が覚めたら飲ませてやってくれ」


「分かった、本当にありがとう!」


「お大事にな」


リョウはラッサを抱えて診療所を出ていった。




「今回はラッキーじゃったな」


「そうですね、内臓が傷ついてなくてよかった。大きい血管が傷つこうものならここじゃできることはありませんからね」


「ここでできることは限られてるが、ワシらにできることは精一杯やっていかなならん。おや、もう空が赤くなってきたの。ワシらもそろそろ帰ろうか」


「そうですね。メグミ、ごめんな。急にドタバタして」


「いえ、限られた道具で治療していくのが、なんというか……すごかったです」

我ながらとても幼稚な感想が出た。


「ありがとう」カイルが笑いながら答える。


「精神安泰魔法がここでは麻酔の役割になるんですね」


「そうだね、やっぱり麻酔を作るのが難しいっていうのもあるけど、コントロールを間違えると重大な事故につながる麻酔よりも、自分たちの魔法でどうにかした方が都合がいいんだよね」


「私も精神安泰魔法を使えたらここで人を助けられますか?」


「それは、頑張り次第かな」

「そうじゃな」

ギルとカイルは笑いながら答える。


「そろそろ帰ろうか」






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