第14話 which
いつものように家を出る。
そして、診療所の前を通りかかるとちょうど診療を受けた患者さんたちが出てきた。
「この村にこの診療所があってほんとによかったねー」
「そうね!右利きのお医者さんたちには感謝しかないわね。」
やはり、右からミーを出すというのはシイムの世界の人たちにとっては、普通のことではないらしい。
でも、だからと言って、嫌われたり好奇な目で見られたりするわけではなさそう?
人と違うことは必ずしも悪いことじゃないんだよね。
午後の魔法の授業の時間になった。
「メグミさん、ほら今日も頑張って!」
昨日までミーを全然出せなかった私を気にかけてクムア先生が話しかけてきた。
隣では、こちらを少し心配するような目でルミが見ている。
二人の視線の中、私は目を閉じて頭の中のミーに意識を集中させる。
昨日の夜と同じようにミーを感じた。
このミーを右に流す?それとも左?……
もしかしたら、左に流せるかもしれない。
淡い期待とともにミーを左に流してみる。
しかし、左肩でミーは頭に戻っていってしまった。
目を開けると残念そうな顔でこちらを見るクムア先生とルミが目に入る。
「ほら、メグミさん、もう一度頑張って!」
もし、右手でミーを出して石を浮かしたら?
みんなに変な目で見られてしまう?
また前みたいに独りぼっちになってしまう?
『人と違うっていうのは悪いことばっかりじゃないと思うけどな。』
『右利きのお医者さんたちには感謝しかないわね。』
この世界の人たちならもしかしたら……
再び頭に集中してミーを感じる。今度は右肩へ、右肘へ、さらに右手へ。
右手を伸ばして石に近づけ、石にミーを流し込む。
そして、目を開けて石をゆっくり浮かせる。
腰くらいまで上げたところでミーが切れて下に石が落ちる。
ふと、周りを見てみるとみんなが私に注目していた。
「おめでとう!メグミさん!」
「すごい!!メグミちゃんおめでとう!!」
拍手が周りから起こる。
「メグミさん、右手でできるならそう言ってくれればよかったのに!右手で石を上げる生徒は5年ぶりよ!」
「すごーーい!右手の上げ方今度教えてよ!!」
「私にも!」「俺にも!」クラスのみんなから声が飛ぶ。
「みんな、盛り上がってるところ申し訳ないけど、右手で石を上げる子は数年に一人だけたまに現れるけど、両手使える子が出てきたら史上初だと思うわよ。」
「え―――――――」残念そうな声が周りから響く。
みんながうらやましそうにするのがどうしても理解できなくてルミに聞いてみる。
「右手で上げるの変じゃないの?」
「そんなことないよ!みんなと違っててかっこいいしうらやましい!」
純粋にうれしくて、思わず笑みがこぼれる。
「ありがとう!」
今日の帰り道は足取りが軽かった。
診療所の前を通るとちょうどカイルも帰るところだった。
「カイルさん!学校で魔法使えました!」
「おお!よかったね!」
「カイルさんのおかげです!ありがとうございます!」
「僕のおかげじゃないよ。メグミちゃんが頑張ったおかげだよ。それに、人と違うっていうのも悪いことじゃなかったでしょ?」
カイルはいたずらっぽい笑顔で笑っている。
大きくうなずいて二人で帰路に立つ。
やっと自分という存在を認めてくれる場所を見つけたようなそんな感じがした。
ここの世界は心地いい。
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