第20話 信じる

「なるほど!そういうことか!!」

「そう!こうやって、連立方程式は文字の前の数字を一緒になるようにすれば解けるよ」

「さすが!やっぱりメグミの授業は分かりやすいな!」


1か月前にリドに授業を頼まれてから、放課後は毎日こうやって授業をしている。

初めは数人に教えるだけだと思っていたが、回数を重ねるごとに人数が増えて今は結局クラス全員が私の授業を受けている。

それに初めは黒板の前に立って話すだけでも緊張したが、今では楽しく授業をしている。


みんなに頼まれるがままに数学のほかにも、国語や生物、化学、物理を教えていた。

歴史や地理はキートの世界とは違うため、どちらかというと私が教えてもらっている。

特に、地理は山に詳しい子がいたり川に詳しい子がいたりと、それぞれが生活の中で学んでいるという感じだ。


自分でもびっくりするほど勉強というものを楽しんでいる。

キートの世界にいたころは、部屋にこもって仕方なく勉強していただけだったが、みんなとわいわいしながら勉強するのがこんなにも楽しいとは。


クラスメイトがキラキラした目で授業を聞いてくれること、授業終わりに『分かった!』って嬉しそうにしてくれること、『ありがとう』って言ってくれること。

どの瞬間をとってもきれいな瞬間。

私はみんなの役に立ってているのだろうか。

少しはカイルに近づくことができているのだろうか。


そして、明日はテスト。

みんなの努力の成果は出るのだろうか。

私はみんなの力になれていたのだろうか。





そして翌朝。


自分の席について外をぼっと眺めていると、いつも通りルミが話しかけてくる。

「メグミ!いよいよ今日はテストだね!すっごい緊張するけど再テストならないように頑張るね!」


すると、リドも会話に入ってくる。

「俺、ぜってい過去一の点数取れると思うんだよなー」


「みんなでいい点数取れるように頑張ろう!私もみんなから教えてもらった地理と歴史すごく自信あるよ!」


リドが大きな声でクラスのみんなに呼びかける。

「みんな!!今日のテスト頑張ろうぜ!放課後あれだけ頑張ったんだから自信もってこうぜ!!」


「頑張ろう!」

「でもちょっと不安だな」

「リドには負けないようにがんばろー」

「点数低い方がおごりなー」

「きっとみんな再テストにはならないよ」


みんな思い思いの反応を返していく。


そんな中、クムア先生が教室に入ってくる。

「はい!皆さん!気合十分ですね!席について準備してください!」


みんな少し緊張した顔で机に向かう。

テスト用紙が配られて、クムア先生の掛け声とともにみんなの手が一斉に動き出す。

「それでは、テストはじめ!」


こうして午前中でテストが終わり、午後の魔法の授業の後にテストが返される。






緊張した面持ちで自分のテストが返却されるのを待つ。

返却された子たちの表情は次々と明るいものへと変わっていく。


その表情を見て私はそれだけでもう嬉しかった。

良かった―――――――――――――――――


全員のテストが返却された。


「皆さん!今回のテストは本当に頑張りましたね!今回のテストは全員再テストなしです!!そして最高点数はメグミさんでした!」


『お―――――!!!!!!!』

クラス中に歓声が響く。


「騒ぐのはまだ早いですよ!!」


次はクラスの注意が一斉にクムア先生に向けられる。


「なんと!今回のテストの平均点は86.2点で記録がある中で歴代最高です!」


『え――――――!!!!!!』


「皆さん頑張ったおかげですね!おめでとうございます!!それでは、今日はこれで解散です。気を付けて帰ってくださいね」


クラスが再びざわつく。

「マジかよ!」

「俺たちスゲーな」

「絶対、お母さんたち喜ぶよ!」

「勉強してよかった!」


その言葉が聞こえてくるだけで幸せだった。

これが今の私にできる恩返し。


ふと気が付くと、クムア先生が教室の外の廊下から手招きしている。

先生のいるところまで歩いていく。

「メグミさん!ありがとうね!みんなに勉強教えてくれて」

「そんな、みんな頑張ったからですよ」

「違うわよ、あなたが放課後に授業をし始めてからみんな目がキラキラしていたの。きっとあなただからできたこと」

「私はみんなの力になれましたかね」

「もちろん!それにあなた自身も変わったわね」

「え?」

「初めに会った時から比べたら大違い。あなたは人を無条件に信じることができるようになったわ」

「……そうですね。でも、これはこの村のみんなのおかげです」

「そうだ、そろそろ自分がムンヤだってみんなに言えるんじゃないかしら」

返事に困っていると、クムア先生は優しい笑顔を向けて廊下を歩いて行った。


きっとみんなは受け入れてくれる。










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