第11話 期待
「紹介します。こちら、メグミさんです。」
先生が私の紹介をしてくれた。
先生がこちらを見ている、きっと自己紹介を求めているのだろう。
大体20人ほどのクラスの視線が私に集まる。
でも、いつもと違うのは、この目線は奇妙なものを見る目ではなく、期待をもった目であるということ。
嬉しいという感情よりも、安心に近い感情を抱いた。
「初めまして、メグミです。私はちょっと遠い村から引っ越してきました。私の家族は旅をしていて、毎年この時期から3か月間この学校に通わせてもらいます。短い時間ではありますが、よろしくお願いします。」
教室から拍手が巻き起こる。
自分の顔が勝手に笑顔になっていくのが分かる。
「開いてる席は……」
「クムア先生!!私の隣、開いてます!!」
1人の女の子が大きく手を挙げている。
「そうね!メグミさんの席はルミさんの隣の席にしましょう!」
窓側の前から2番目の席の席に着く。
小さな声でルミが話しかける。「メグミちゃんよろしくね。私、ルミ!」
それに答えて笑顔で小さく会釈し返す。
クムア先生が話始める。
「はい!皆さん、新しい友達ができたからと言って騒ぎすぎないでくださいね!
今日もいつも通り午前中は教室で勉強して午後から外で魔法の勉強をしましょう!
まずは、物体浮遊術を使いこなせるように頑張りましょう!
そしたら、10分後から授業なのでしっかり席で準備しておくこと!」
クムア先生のお話が終わり、教室に話し声が響く。
クムア先生がこちらに近づいてきて、鉛筆とノート、それと教科書らしき白黒の薄い本を何冊か私の机の上に置く。
「メグミさん、これ勉強に使う道具だから大事に持っておいてね。きっと、あなたには簡単すぎる内容だと思うけどね。」
「分かりました。ありがとうございます。」
教室の反対側から先生を呼ぶ声が響く「先生!鉛筆忘れました!」
「リド君!またですかー」
先生は呼ばれてこちらから離れていく。
「めぐみちゃんって、そんなに頭いいの??もしかして、グラフ描けたり連立方解けたりするの?」
ルミはさっきの先生の言葉を盗み聞ぎしていたようで、不思議そうに聞いてきた。
「うん、解けるよ。」
「すごい!!どうやって勉強してたの??」
「えっと、前にいた学校がすごく勉強に力を入れててそのせいかな……」
「今度、勉強教えてよ!」
「いいよ!でも、私全然魔法使えなくて……だから、私に魔法の使い方教えて!」
「もちろん!!私、魔法結構得意だから任せて!!」
ルミと友達みたいな会話を授業が始まるまで続けていた。
初めての体験だった。
やっと、母さん以外の人と普通に話せた。
それがただただうれしくて、授業中はそのことで頭がいっぱいだった。
その後も、休み時間のたびにたくさんのクラスメイトが話しかけてくれた。
住んでいる場所、好きな食べ物とか、いろんな会話をたくさんした。
取り留めのない話だったけど、それが私にはこれ以上ない幸せだった。
でも、自分がムンヤであることは言わないでいた。
知っているのはこの学校の先生たちだけで、みんなに言っても言わなくてもどちらでも良いということだった。
ムンヤであるということはみんなと違うということ。
私はせめてこの世界では普通でいたい。
普通に友達を作って普通に勉強して普通の生活を送りたい。
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