第4話 困惑、希望、回顧
数学の授業中。先生が教壇に立ち、話している。
だが、私にはその話を聞ける余裕がない。
昨日の出来事を理解しようとするのに精一杯で、先生の話を聞ける余裕のある脳の神経細胞なんて1つもない。
ノートの上に置かれた、カイルからもらった1か月後の約束のメモとにらめっこ。
教室のカレンダーに目をやる。今日は6月17日、昨日の一か月後は7月16日。
そして、カイルが言ってたこと一つ一つを思い出してノートに小さな字で書いていく。
シイム、魔法の世界に住む人々
キート、こちらの世界の人々、科学の世界に住む人々
ムンヤ、キートから生まれるシイム、私のこと
頭が爆発しそう…
でも、なんでだろう、孤独感から解放されたこの感じ。
私と同じように赤い目と尖った耳を持つ人の存在を知ることができて、初めて自分という存在が肯定されたような気がした。
いや、まだ疑った方がいいのかもしれないけど。
可能性があるってだけで今は十分。
ふと、昔の記憶がよみがえってきた。
小学校と中学校でこの容姿を理由にずっといじめられてきた。
小学校の時は、教科書には落書きされたり、帰るときには外履きが無くて靴下で帰る羽目になったり、分かるように悪口を言われたり、いろいろあった。
「キモイ」「悪魔」「その目でこっち見んな、病気がうつる」「呪われる」とかそんな言葉を浴びせられるのも日常茶飯事だった。
もちろん、しゃべったことのないような同級生や他学年にも好奇の目を向けられていた。
始めの頃は先生にも相談していたけど、正直なところ何か助けてもらったような記憶がない。子供ながらに、この人も私を気持ち悪がっているんだなとか、こうなって仕方がないとか、面倒くさいとかそんな風に思っているんだろうなって感じ取っていた。
お母さんにも最初のころは泣き付いたりして、たくさん慰めてもらった。
「転校してもいいのよ」とか「休んでもいいのよ」とか言ってもらったな。
でも、いつからかな、心配かけてるのが申し訳なくなって学校が楽しいと嘘をつくようになった。
人に頼るのはもうやめた。誰も助けてくれない、助けられないのなら一人で、できるだけ気にしないで耐えていればいいと思うようになっていった。
でも、一人だけ一緒に靴を探してくれたり教科書を見せてくれたり親切にしてくれた子がいた。名前は、深川麻美だったかな。そのころの私にとっては、彼女が唯一の救いだったような気がする。
中学校に上がると、物を取られたり落書きをされたりと直接的な嫌がらせは無くなったものの陰口というものは相変わらず続いていた。いわゆる一軍の女子たちを中心にわざと分かるように悪口を言われたり。
友達のいない私は勉強しかすることがなかったから、高校はいわゆる進学校に入った。そこでは、いじめっていうものはなくて過ごしやすい。
でも、みんな私を怖がっているのだろう、友達になろうとしてくるものはいない。
それでもいい、独りぼっちでもいい。
いじめられてるとき、何度も思った。
もしも私が普通の容姿だったら…
もしかしたら、今、友達と近くのカフェでケーキでも食べてたかな。
でも、カイルの言うシイムの世界に行けば、私の容姿が普通。
普通、ふつう、フツウ
向こうの世界には、あちらの人たちの暮らしがある。
その中にフツウとして溶け込むことができるのなら、平凡に生きることができるのなら。
冷静になればなるほど、自分はシイムの世界に行くべきなのだと感じ始めた。
考えてもきりがない、今は授業に集中しよう。
先生の話に耳を傾けた。「三角関数は、sinとcosとtanで表すことがで……
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