第5話 出発の朝
目覚まし時計の音で目が覚める。
今日は目覚めがいい。
布団の中で少し思考を巡らせる。
今日はシイムの世界に行く日だ。
でも、今更だけど冷静になってきた。
普通に考えるとこんなことあるわけない。
何なら、だまされてるって考える方が自然だと思う。
少し怖くなる。
だけど、このままこうやっておびえながら暮らすくらいならいっそのこと。
いろいろ考えたけど、シイムって言う世界があると私は信じたいのだろう。
もう1か月前からそこに希望を持ってしまっている。
理性は行くなという。本能は行けという。
1階から母さんの聞こえる。
「めぐみ! 起きなくて大丈夫?」
仕方ない、仮病を使おう。心配をかけてしまうかもしれないけど。
時々仮病を使って学校を休んでいるが、やはり母さんは気づくものがあるのだろう。
次の日は必ず「学校楽しかった?」と聞いてくる。
またいじめられているのではないかと心配しているのだろう。
「頭痛いから、今日学校休む。」
「あら、また? 大丈夫?」
「大丈夫。心配しないで。」
「そう、朝ごはんテーブルの上置いとくから食べれそうだったら食べるのよ。
それじゃ仕事行ってくるから。」
玄関の閉まる音がする。
母さん、心配しなくても大丈夫だから。
しばらく布団から出ずにボーとしていた。
8時になってゆっくり起き上がる。
支度をして1階に降りると朝ごはんが用意してあった。
隣には風邪薬が置いてある。
いつもなら食べないことの方が多いくらいだけど、今日は。
なんでだろう、急にこの家が母さんが恋しくなる。
こんな気持ちになるのは小学校の時の宿泊合宿ぶりかな。
懐かしいな、この感じ。
「いただきます。」
「ごちそうさまでした。」
よし、行こう。
集合時間の9時よりも少し早く着いてしまった。
カイルに言われたとおり手ぶらで来た。
1か月前に連れ込まれた建物の前で突っ立っている。
この光景を2か月も見ないのか。
私と同じ人たちの世界に行ける。
複雑な気持ちだけど楽しみが若干勝っている気がする。
我ながら異常だと思う。
腕時計を見ると、5分過ぎていた。
やっぱり騙されていたか。
そうだよね、もう一つの世界なんてあるわけない。
そうだよ、何勝手に舞い上がってたんだろ。
バカバカしい。
自分が恥ずかしい。
帰ろう。
いや、もう少し待っていたら、遅れてるだけかも。
何をいまさら。
再び自分が恥ずかしくなる。
もう帰ろう。
家の方向に向かって2歩歩いたとき、後ろから声が聞こえた。
「めぐみちゃん! ごめん! 遅くなった!」
振り向くとカイルが走って来ていた。
7月にもなってローブを着ているから分かりやすい。
なんでだろう、ちょっとホッとしてしまった。
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