2つの世界をつなぐ1人の少女
かおる
出会い
第1話 これが日常
私は何もこの世界のことを分かってなかった。身近な人のことでさえ結局何も見えてなかった。そんな人間に誰かを大切にすることなんてできないのだろう。
『私は何者になればいい?』
いつも目覚まし時計の音で目が覚める。
全身を痺れさせるような嫌な音。
しばらく天井をぼーっと眺める。
ああ、また一日が始まる。
ベットから鉛のような重い体を起こす。
洗面台で顔を洗う。
そして、自分の顔と向かい合う。
そこには、いつもと変わらない自分がいる。嫌いな自分。
人と違う赤い目、なぜか少し尖った耳。
今日もいつもと変わらない。
身支度を終え、階段を下りる。
いつもと変わらない制服にバック。
耳を隠すために下した髪、目を隠すために伸ばした前髪。
隠せるわけはないけど、ないよりはまし。
私の家族は母さんだけ。
いつも通り、母さんの声が聞こえてくる。
「めぐみ、おはよう!朝ごはんは?」
いつもと変わらない元気な声。
「いらない」
「そう、行ってらっしゃい!気を付けてね!」
「行ってきます」
朝の私と母さんのやり取りはいつもこんな感じ。
朝の7時30分、家を出て高校へ向かう。
駅まで5分歩く。電車で30分揺られる。10分学校まで歩く。
この時期はコンクリートの熱さが体にじわじわと伝わってくる。
道の両側にある高いビルから妙な圧迫感を感じる。
たくさんの生徒が校門に向かって歩く。
二人、三人で登校している。
そして、学校の玄関に近づくにつれて、だんだん大きなグループになっていく。
「おはよう」「今日、暑いね」「やばい、宿題やってない」
そんな、いつも同じ会話が聞こえてくる。
私は、誰からも話しかけられることなく、もちろん話しかけることもなく、一人進んでいく。
2年B組の教室、席は窓側の後ろから2番目。
授業が始めるまで、ぼーっと外を眺める。
授業が始まっても、休み時間に入ってもそんなに変わらないけど。
私は別にここではいじめられているわけではない。
ただ、誰ともかかわりたくないだけ。
1人のほうが楽だし、人なんて何考えてるのかわからない、信用できない。
所詮、他人だし、どうだっていい、私には関係ない。
授業が終わるとまっすぐ家に帰る。
今日も、必要以上に人と関わることなく帰路に就く。
家に帰ると、母さんとご飯を食べる。
何を話すわけでもない。
昔は母さんは「学校どうだった?」とかって聞いてきたけど、今ではめったに聞かれなくなった。
きっと、私がいつも普通とかまあまあとか、そんな答えしか言わないから、聞いても無駄って思っているんだろうな。
お風呂に入ってベッドに入る。
天井を眺めて、いつの間にか眠りにつく。
そして、1日が終わる。
いつも、こんなことの繰り返し。
変えたいとも思わなければ、この生活が好きというわけでもない。
ただただ、普通に生きている、それが義務かのように。
そして、これからも、続く、変わらない。
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