第2話 出会い

この日もいつも通りの1日になる。

違うと言えば、気温が35℃まで上がること。

家を出るときにテレビで言ってた。


それにしても暑い。

駅までの少しの徒歩がここまで苦痛だとは。


駅に着いた。

ホームも変わらず暑い。


電車が来るまであと5分。

後ろに誰かが立った。

みんな列を作って電車を待っているのだから、いつもなら気になることはない。

でも、なんか、今日は違う。

体が勝手に振り向こうするというか、振り向かざる負えないというか、なんだろう、この感覚。

私は、振り向いた。


そこには、ひょろっと細長い男が立っていた。

その男は、この暑い中、茶色のローブを羽織りそのフードまでかぶっている。

今時、ローブを着ていること自体珍しい。

おまけに、黒いサングラスまでかけているから、不思議に不気味が追加されたような感じ。


サングラスをかけているせいでどこを見ているのか分からないが、なぜか不思議と目があったような気がした。

私は、ぞっとしてすぐに前を向きなおした。


前を向いて、3秒にも満たない出来事のことを思い返していると、電車が入ってくる音がした。


電車に乗り込むと、できるだけ遠い席の車両の端に座った。

やっと涼しい空間にたどり着いた。

でも、さっきの男のことが頭から離れない。

その男は大体、車両の真ん中ぐらいの席に座っているようだった。


気になるとは言っても、5分後にはもうその男のことが気にならなくなった。

人は、十人十色、不思議な格好の人がいても、おかしなことじゃない。

私の容姿に比べたら、その男はいたって普通だろう。


学校の最寄り駅についた。

その男のことを意識から飛ばしていた私は、何も考えることなくいつものように、電車を降りて改札を通る。

隣の改札から大きな音が鳴った。いわゆる残高不足を知らせる音だ。

何となく音の方向を見ると、あの男が引っかかっていたようだ。

私は気に留めることもなく、学校へ向かった。


今日は月に一回の補講があって、帰りがいつもより遅くなった。

薄暗くなった空のもとで、駅から家までの帰路をたどっていた。


その時、後ろから声が聞こえた。

「ねえ、君、ちょっとついて来てくれないかい。」

男の人の低い声、優しい声だからこそ、恐怖心を掻き立てるようなそんな声。


おかしい、後ろにさっきまで人の気配はなかった。

恐怖で動かない体を無理やり振り向かせる。


そこには今朝の男が立っていた。

恐怖で固まりながらも、何とか首を横に振る。

男は続ける。

「そうだよな、普通は。すまないが、少し手荒な真似をさせてもらう。」


男は、私の頭にすっと触ると、そのまま歩き出す。

私は何が起きたかわからず呆然としていると、体が勝手に男の後ろを歩き出した。

助けを求めようと思っても声は出ない。

頭の先から指の先、呼吸までもがこの男に制御されている。

周りにはたくさんの人がいるが誰一人として、私のこの異常な状態に気が付いていないだろう。

『誰か、助けて。』

ああ、なんでだろう。やっぱり嫌な思い出がでできてしまう。


私はこれでもかというほど、歩きながらいや歩かせられながら、この男の目的を考えた。

身代金目的の誘拐か、強姦か、はたまた臓器売買か…

普通に考えて、赤い目をして尖った耳を持つ女子高生なんて近づくことさえ嫌がるだろう。

今思うと、今朝あったときもサングラスをしていてはっきりと分かったわけではないが、私の顔を見て驚く様子もなかった。

普通の人なら、腫物を見るような気持ち悪い芋虫を見るようなそんな顔で私見るのに。

私のことをもともと知っているの?

この男の目的は、いったい何?


いや、ちょっと待って、今の状況からして普通じゃない。

この前提を忘れる私は、明らかに冷静さを欠いている。


今の状況は、いったい何?

超能力? マジック? 魔法? どれも非現実的。

考えても無駄みたい。


あたりに人がいない路地に入り、小汚い建物の中に入る。その奥の部屋に通される。

少しほこりっぽい、長年使われていなかったかのようなその部屋には、真ん中に2つの二人掛けのソファーが向かい合った状態で置かれていた。

まあまあ広い割には、殺風景な部屋。

そのうちの一つに、腰掛けさせられ、やっと体の自由がきいた。

そして、男はサングラスとローブを脱ぎ、向かいのソファーに座った。


同類だった。


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