第17話 憧れ
「助けて!!!痛いよ!!!」
母親の背中の上で5歳ぐらいの少年泣き叫んでいる。
その少年は右足から血を流している。
「ラフィーさん!サリム君どうしたんですか!」
ベットにサリムを横たわらせる。
「今日、庭で遊んでいたら野犬がサリムに噛みついて来て!すぐに追い払ったのですが、サリムの足が気づいたときにはもう血まみれで!」
「なるほど……わしらでサリム君の足は治すから、ラフィーさんは外で休んでくだされ」
「分かりました。よろしくお願いします」
ラフィーは心配そうにサリム君を見ながら、外に出ていく。
「サリム君、大丈夫だからね」
カイルはそう言って泣きじゃくるサリムと右手で握手する。
すると3秒もしない間にサリムは意識を失って穏やかな顔で眠りについた。
サリムの足は血まみれで見ていられなかった。
「よし、まずは傷口を縫合してそこから抗生物質を念のため処方しましょう」
「いい判断じゃ、そうしよう」
カイルによる治療が始まる。
その様子をギルが厳しい目で見ている。
消毒液を傷口にかけて、針と糸で器用に傷口を縫合していく。
カイルの目はいつもの優しい目とは違い、真剣そのものだった。
一針一針丁寧に。
最後に薬草でできているであろう緑色の塗り薬を傷口に塗り、包帯で右足を巻いていく。
素早く、それでいて優しい手つきで。
あっという間に治療は終了していた。本当に一瞬のように早かった。
「すごい……」
目の前で起こっていることが心に響いた。
気づいたらカイルやギルには聞こえないほどの声が漏れていた。
ギルが診療所の外で待つラフィーを呼びに行く。
「サリム!!!」
「先ほど、精神安泰魔法で軽く眠らせたので今は眠ってますがもう少しで起きると思いますよ」
「よかった……本当にありがとうございます」
「今、傷口を糸で縫い合わせた後に薬草を塗って包帯を巻いてあります。傷口にばい菌がいると思うので、ばい菌を殺す薬出しておきますね。1週間必ず飲み続けてください」
「分かりました。本当になんとお礼を言ったらいいか」
「いえいえ、大事に至らなくてよかったです!」
そして、ゆっくりとサリムが目を覚まして起き上がる。
「サリム!!!」
ラフィーがサリムに抱き着く。
本当に心配していたのだろう。
ラフィーはうっすらと目に涙を浮かべている。
「サリム!先生たちが助けてくださったわよ!」
サリムは包帯でぐるぐる巻きになっている足を見て少し驚いた表情を浮かべたが
「ありがとうございます」
礼儀正しく頭を下げながらお辞儀する。
カイルはサリムに薬と水を差しだす。
「これ、足が痛いのを感じないようにするお薬と傷口のばい菌をやっつけるお薬だから飲んでね」
サリムは言われた通り薬を飲む。
苦そうな顔をするが頑張って飲み込んでいるようだ。
「頑張ったね」カイルはサリムの頭をなでながら、笑顔を向ける。
大きくうなずくサリムは嬉しそうに大きな笑顔を見せる。
ラフィーはサリムをおんぶして、安心した表情を浮かべながら診療所から帰っていった。
カイルとギルも優しい顔に変わっている。
あっけにとられていた私にカイルが気づく。
「診療所の仕事って結構面白いでしょ」
「いえ、なんていうか、すごかったです。」
我ながら語彙力がどこかへ行ってしまった。
嬉しそうにカイルは笑う。
「あ!!メイさん心配してると思うので帰ります!」
「そういえばそうだね。気を付けてね」
帰り道は、さっきの出来事のことで頭がいっぱいだった。
私もこの世界にいたらこんな風に誰かの役に立てるのだろうか。
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