第30話 自由な空へ
まったくもって、集中できない。
僕は本を片手に、学校の屋上のフェンスの前でつぶやいた。
昨日の
「本当に、まじめにやってるんだけどな」
「
「雪乃?」
「ごめんなさい、読書の邪魔して」
雪乃はそういいながら、僕のほうへ歩いてきた。風がゆっくりと吹いて、彼女の髪が流れた。
「いや、今は読んでないよ、何か集中できなくてさ」
「そうなんだ」
雪乃は僕のすぐ横で止まり、校庭を見下ろした。
「サッカー部、今日も練習している」
雪乃はつぶやいた。
「今年も地区予選敗退、まじめに練習してるのにね」
「もし、今やっていることが無意味だとしたら、柏木君はどうする?」
「え?」
僕は雪乃の突然の言葉に不意を突かれた。僕も同じことを考え、そして雪乃のことを考えていたから。
「いえ、なんでもないの」
雪乃はそういうと、振り返ってフェンスに寄りかかった。
「ここにきたのは、
「弟君?」
「うん、啓介から、楓から聞いたんでしょ? 私たちのこと」
とっさのことで、なんて返せばいいのかわからなかった。でも、ごまかしたところでどうしようもない、それに、これがきかっけで、何か雪乃のためにやれることがあれば。
「ごめん、聞いた。僕にできることはない?」
「柏木君のその気持ちはうれしい、だけど忘れて、私は大丈夫だから、心配しないで」
大丈夫という雪乃の言葉は、僕に突き刺さった。雪乃は大丈夫しか言わない。楓が言ったように、雪乃はずっと、今まで同じ言葉を繰り返してきた。それが当たり前のように、決められたセリフのように何回も。
「雪乃……」
「なに?」
「つらかったよな……」
「……」
雪乃は無言のまま、うつむいた。そして。
「――つらいわよ……」
雪乃の声はとても小さく、そして少しかすれていた。
「なんで……死んじゃったのよ」
雪乃の声とともに、屋上のコンクリートの地面に雫が流れ、ほんの少し地面を濡らした。
「……どこか、一緒に遠いところへ行こうよ」
自然に僕はその言葉を発した。自分でも驚くくらい自然な気持ちだった。
「遠いところって、どこにいくっていうのよ……」
「わからないけど、誰にも知られないところ、そこでさ、一緒に暮らそうよ、僕、働くから」
「そんなこと……できるわけないじゃない……学校とかどうするのよ」
「……そうだよな」
僕から出た突拍子もない言葉に、雪乃は鼻をすすりながら、一つ一つ答えてくれた。もし雪乃がうなずいてくれたら、僕はきっと、多分、本当に。
「ありがとう、その言葉だけでうれしい」
雪乃はコンクリートの地面から、空へと視線を移した。
「もう終わらせないといけない、いつまでもこんなこと続けてちゃだめよね。今日あの人に伝える」
雪乃が
いつか憧れた、自由な空へと。
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