第31話 彼女が思い描いた結末は

 放課後、僕とかえでは日野先生に生徒指導室に呼ばれた。


「失礼します」


 楓は生徒指導室の扉をノックして開けた。


 中へ入ると日野先生がすでに椅子に座っていた。日野先生は考え込んだ様子だったが、僕らの方に視線を移すと、いつもの笑顔に戻った。


「帰ろうとしているところを悪いですね、今日は重要なお話があって呼びました。とりあえず座ってください」


 僕と楓は日野先生と向かい合うように椅子に座った。


「先生、話ってなんですか?」僕が日野先生に尋ねる。


「えっとですね、驚かないで聞いてほしいのですが、先ほど警察の方から連絡がありました。雪乃さんの現在のお父さんのことです」


「先生、結衣ゆいが事件に巻き込まれている可能性があるって、いったい何に巻き込まれているんですか? 今のお父さんが何か関係して……」


 楓が心配そうな表情で尋ねた。


「それはわかりません」


「わからないって、警察からの連絡って」僕はつぶやくように日野先生に尋ねた。


「警察の方も、まだ教えることができる段階ではないということでしたので、詳しくは教えてくれないんです。ただ、明日には逮捕状が出るとのことでした」


「逮捕状!?」楓は大声を出した。


早坂はやさかさん、声を小さく! これは内緒の話です。警察の方も万が一の混乱を避けるために私たちにだけ伝えたのだと思います」


「す、すみません」楓は自分の両手で口をふさいだ。


「楓、なんか思い当たることないか? 雪乃ゆきののお父さんについて、僕も色々聞いていたけど、まさかこんなことになるなんて」


「あたしだって、まさかこんなことになるなんて思わなかったわよ」


「二人が雪乃さんを心配して、何か動いていることはわかっていました。だけど、あとは警察に任せてください、間違っても、雪乃さんの家に行って、刺激することのないようにお願いします」


 雪乃は、この結末をどう思うんだろう。昼休み、彼女はもう終わらせないといけないと言っていた。彼女が思いえがいた結末はどのようなものだったのだろう。


「先生」


「なんですか?」


「刺激することがないようにってどういうことですか?」


 楓は日野先生に尋ね、日野先生はそれを聞くと、ほんの一瞬だけ目を見開いた。


「先生、僕たちになにか隠していることはありませんか?」


 日野先生は、ふうっと息を吐いた。


「だめですね、先生こういうの苦手で」


 日野先生はそういうとさらに言葉をつなげた。


「警察の方からは本当に詳しくは伝えられていません、しかし、雪乃さんのお父さんは非常に危険な状態であると言われました。それが何を意味するのかは教えてくれませんでした」


「危険な状態って……」楓は右手を口の近くまで持っていき、考え込んだ。


 さらに日野先生が続ける。


「逮捕状は、明日出ることになっているので、雪乃さんにも余計な情報を与えずに今まで通りでいてもらうことにしました。そのほうが雪乃さんにとっても安全だと思いますので」


 僕は、それを聞いて嫌な予感がした。今まで通りにいれば大丈夫、だけど、雪乃は今日、もう終わらせないといけないと言っていた。それがどのような結果になるのか、とても胸がざわついた。


「先生、楓、聞いてほしいんだ。今日の昼休み、雪乃が言っていたんだ――」


 僕は昼休みで雪乃と話したことを二人に話した。


「先生、これって」楓が言う。


「わかりません、でも……今ならまだ話していないと思います。雪乃さんにも説明しないといけませんが……それによって何かが起こるよりは」


 日野先生は、雪乃のこと、今回の件をどこまで知っているのだろうか。雪乃の家族のことや、雪乃が今までやってきたこと。もしかしたら僕なんかよりずっと知っているのかもしれない。


「楓、雪乃の携帯にかけて話してくれないか?」


「それが、結衣、携帯持ってないのよ」


 そういえば、この前にボランティアで雪乃が携帯をいじってるところを見ていない。


「二人とも、今日は解散にしてください、雪乃さんのところにはわたしが行きます」


「先生、あたしもいきます! あたしは結衣の親友なんです! こんなとき何もしてあげれないで親友なんて言ってて、もし何かあったら、結衣の顔なんて見れません、お願いします」


「先生、僕もいきます。雪乃は僕に話してくれたんです。そして僕は背中を押した。こうなったのは僕の責任でもあるんです」


 日野先生は僕たちをじっと見つめると、少し気を抜いたように「本当に、あなたたちは仕方ないですね」と言った。


「すぐに行きますよ」


 僕たちは、先生の車で雪乃の家に向かった。




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