第51話 これからもみんなと一緒にいられたら
もらった海産物と買ってきた肉を十分に堪能した僕たちは、後片付けを済ませた。ここのゴミ捨て場には持ち込みのゴミも捨てていいことになっている。おかげで帰りはほぼ手ぶら状態で帰れそうだ。ありがたい。
身軽になった僕たちは、遊歩道を歩いたり、アスレチックで遊んだりした。時折、車が大きなエンジン音を鳴らして走っている音が聞こえた。走り屋というのだろうか。山の中にはたまに出現すると聞く。
僕は……本ばかり読んでいたせいか、こういうのは得意ではない。ほどほどにクリアして、無理そうなのは挑戦しないで避けた。
遊歩道をみんなで歩いた。草の匂いと土の香りが歩くたびに僕らを包んでくれた。途中で雪乃が綺麗な野草を見つけて、それを僕がスマートフォンで調べたり、楓が綺麗なキノコを見つけて調べたりした。毒キノコだったけど……。なかなか綺麗だったので持って帰るとか言い出したので全力で止めた。学年トップなのに、こんな時になんでこんな発想になるのか……。
一通り遊歩道を周り終えると、次は何をしようかとみんなで話し合った。
「なあ、この近くにもう一つ公園があるんだけど、最後に行ってみないか?」
祐介が言った。
「ライトアップされるっていう公園? まだライトアップされるには時間が早いけど」
楓が返した。
「雰囲気も落ち着いている公園だからさ、行って休もうぜ、さすがにちょっと疲れたし」
「私も少し疲れちゃったから休みたいかも」
祐介と雪乃が言った。
「じゃあ行こうか」と楓が返すと僕たちは別の公園に向かった。
公園はすぐ近くにあって、歩いてそんなにかからない距離にあった。
管理棟があり、道路をはさんで公園の入口があった。
公園につくと早速ベンチに座って体を休めた。その公園は桜の木がたくさんあった。春が来たら、お花見の客で賑わいそうな公園だった。また、鉄製と思われるオブジェクトがあり、四角形の枠の中にハートが形作られていた。どうやらそこがライトアップされるようだ。
「今日はいっぱい遊んだねえ」
「うん、疲れたけど、楽しかった」
楓と雪乃が言った。
「かなちゃんのおばあさんにもらった海産物もおいしかった」
「あれは最高だったな」
僕の言葉に祐介が返した。
「また、みんなで来ようよ」
「そうだな……」
雪乃の言葉に僕が返した。
凄まじい夏の日差しと、入道雲が僕らを眺めていた。青葉の香りとともに、蝉と山鳥の声が僕らを包んだ。
「ねえ、誰かなんか言った?」
楓がそんなことを聞いてきた。
「ん? みんなでまた来ようって話をしてたじゃん」
祐介が答えた。
「いや、そうじゃなくて……んー? なんか耳鳴りが凄いんだけど……」
「疲れたんじゃないか? 暑いから熱中症とか気を付けないと」
「そうなのかな。ちょっと飲み物買ってくるけど、みんなもなんかいる?」
「僕は大丈夫かな」
「私も平気」
僕と雪乃がそういうと楓は立ち上がり「じゃあ、ちょっと買ってくるね」と言った。
「あ、俺もなんか飲みたいから行くよ」
楓と祐介は道路の向かいにある管理棟の自動販売機へと歩いて行った。
僕と雪乃は、二人で残されてしまった。今日雪乃と二人だけになるのは初めてだ。というか二人だけになるのは久しぶりだった。
「今日、楽しかったね」
「うん、本当に楽しかった」
「今日の
「え……うん、ごめん、心配かけて」
「なら、よかった。柏木君があの時助けてくれたから。今日こんなに楽しい日を過ごせた。ありがとう」
「いや、僕のほうこそ、楽しかった。ありがとう」
「なんで柏木君もありがとうっていうのよ」
「いや、なんか僕もありがとうって言いたくなっちゃって」
僕と雪乃はお互いに笑いあった。こんな時間がいつまでも続いてほしかった。
「今、すごく幸せ」
「え!」
「みんなでこうやって一緒にいられて、これからもみんなと一緒にいられたらいいな」
「あはは、そうだよね」
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
僕と二人で一緒にいられて幸せと言われるのかと思って少し驚いてしまった。少し自意識が過剰だったかもしれない。それと同時に、僕は少し心が痛くなった。僕はこれからもずっと雪乃と一緒にいることができるのだろうか。
「ねえ、あれの写真とってくれないかな?」
雪乃は四角形のなかにハートが入った鉄製のオブジェクトを指さした。
「今度スマホを買うことにしたから、買ったら送ってほしいの」
「わかった。こんな感じかな」
僕はスマートフォンのカメラを起動してオブジェクトを映した。
「うん、いい感じ」
二人で一つのスマートフォンを覗き込んだ。思ったよりも雪乃の顔が近く、雪乃の息遣いが聞こえた。僕は思わず撮影ボタンをタップした。
「こ、これでいいかな?」
「う、うん……ありがとう」
雪乃の顔は少し赤くなっていた。
そのあとも別の角度からも何枚か撮影した。雪乃も何枚か僕のスマートフォンで撮った。雪乃の顔は楽しそうで、優しくて、太陽の光を反射させる真っ白な雪のように眩しかった。
そして僕らは写真を取り終え、一息ついた。
「楓たち、遅いわね」
「そういえば、ジュースを買いに行っただけだと思うけど、あっちも何かしゃべっているのかな」
「そうかも、桜井君、楓のこと好きなのかも」
「え! そうなの?」
「気づかなかったの?」
「う、うん……あ、帰ってきた」
楓と祐介は道路の向かいで何か話をしているようだった。
公園の入口には、小さな女の子とその父親と母親の三人が道路を渡ろうとしていた。
「ジュースのみたいー!」
女の子が、楓たちのほうに向かっていくように道路に飛びだした。
「だめよ!」
母親が叫んだ。
車の大きなエンジン音が近づいてくる。
僕はその車と女の子を認識した。そして。
ほぼ、反射的だった。反射的に僕の体の内側に集中し、右手を女の子に向けた。だけど。
「だめ! 結衣ー!!」
楓の叫び声が聞こえた。
その言葉を聞くが先か、行動が先か、雪乃は僕の右手をつかんだ。
「『力』はだめ!」
僕の視界の先で、楓が女の子を助けに行くように道路に飛び出した。
そして、車のブレーキ音と共に、衝突音が響き渡った。
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