第21話 我はゲーマー

 朝の登校時、学校が近くなると祐介ゆうすけに出会った。


「おはよう、祐介」


「おう」


 祐介は夏服のシャツのボタンを上から二つ外し、あくびをしながら歩いていた。そういえば昨日は祐介が好きなゲームの発売日だったか。


「昨日は遅くまでゲームやってたのか?」


「ああ、ダウンロード販売だったからな、パソコンに入れて遅くまでやっちまったよ」


 彼は自分専用のゲーミングパソコンを持っていて、自他共に認めるゲーマーだ。僕もゲームはやるけど、ゲーミングパソコンは持ってないし、彼ほどではない。僕は本を読んでいることのほうが多いか。


「あ、この前買った本の上巻、読み終わったけど読む?」


「はや、もう読んだのか。んー……今はゲームしてるから、終わったら貸してくれ」


 僕は一週目は割と早く読んでしまう。そして二週目三週目は味読のような感じで、次に購入する本が決まるまでじっくり読むことが多い。


「そういうと思った。ゲームは面白い?」


「前作と比べたら面白いな、やっぱ統括メンバーを一新したのが大きいか。前作も総入れ替えだったけど、あれは失敗だと思うな。今回は前々作のメンバーも加わっているから、あの出来だったら、前作で離れたファンも戻る気がする。何よりも戦闘システムの一部を戻したのがよかった。前作ではなんでこうなったと思うようなシステムだったからな。会社が統合されていいとこ取りをしたかったみたいだけど、会社は統合しても、システムは統合すべきではなかったな。統合した相手の会社は口を出すべきではなかった、日本が世界に誇るゲームになんとか手を出したかったみたいだけど、開発は元のメンバーだけでやらせるべきだったんだ。例えるならサーロインステーキと、うな重を同時に出されてうれしいか? 俺はどっちか一つだけで十分なんだよ」


「お、おう。そうだな……」


 なんか変なスイッチを押してしまった。しばらく祐介の前ではゲームの話はやめておこう。それに僕はサーロインステーキとうな重を出されても美味しくいただく自信がある、夏樹も喜んで食べ始めそうだ。


 しばらく祐介と話をしながら学校へと向かい、学校の下駄箱で上靴に履き替える。


「おは! よお!」


 かえでが声をかけてきた。彼女はショートカットで薄い茶色に染められた髪を軽くなびかせながら、僕の肩を軽くたたいた。


「お、おはよう」先に声をかけたのは祐介だった。


「おはあ」楓は祐介に向かって挨拶を返す。


「おはよう」僕は少し遅れて楓に挨拶を返した。


「小テストの勉強、ちゃんとやった?」


 楓がいつもの明るい声で聞いてきた。


「本を読んでて、忘れてた」


「ふふふ、出そうなとこ、まとめたからノート見せてあげようか? といっても必要ないかな?」


「いや、お願いします!」


 楓は学年トップの成績で、出そうなとこ、というのも楓なりに根拠があるようだ。実際、的中率は高い。休み時間に見せてもらって暗記すれば何とかなる。暗記は自信があったりする。


「早坂! 俺にも見せて!」


「桜井君も勉強してないの? 珍しいね」


 祐介もトップとはいかないまでも上位の成績だ。楓の中ではちゃんと勉強している人なのだろう。


「祐介は昨日ゲームしてたんだよ」


「あんたたち、二人して相変わらずね」


 祐介と楓、そして雪乃ゆきのは小学校中学校と一緒だ。そして楓は雪乃と一緒にいるのをよく見る。この三人は、いわゆる昔からの仲なのだろう。そして僕と祐介は同じ作家が好きということで意気投合し、楓とは親戚で、親同士が従兄弟いとこにあたる。幼馴染のような感じだ。雪乃とは最近少し会話するようになった程度なんだけど……。


「なあ、楓」


「ん?」


「雪乃の笑顔って見たことある?」


「……なにそれ? ちょっと気持ち悪いよ」


 だよね、これちょっと今のなしってことにしてもらおうかな。


「……そんなの見たことあるに決まってるじゃん」


 楓は少しだけ雰囲気が変わったような気がして、なんだか少し寂しそうな感じがした。


「まあ、雪乃は男子の前では笑わないよな、中学の時、鉄仮面なんて男子に言われてたりしてな、すぐ消えたけど……」


 祐介がそんなことをつぶやいた。


「あれは結衣に告白してふられた男子が腹いせに言い出したことよ。くだらないわ本当に、あのあと女子たちでその男子を公開処刑にしてやったのよ」


「あれ、早坂が首謀者だったのか……」


「人聞き悪いわね、言っておくけど、結衣って女子にも人気あるからね。あの件で怒ったのあたしだけじゃないわよ」


 何をやったのか聞きたいところだけど、聞いたら今後楓に逆らうことができなくなりそうなのでやめておこう。


「なあ、ハルと早坂って仲よかったの?」


「ん?」楓が祐介の問いに返した。


「いや、仲よさそうだし、もしかして付き合ってる?」


「付き合ってないけど、一緒にふろ――」


「だー! 親戚なのよ、親同士が従姉弟いとこで小さいころから遊んだりしてたのよ」


 楓は僕の言葉をさえぎった。嘘じゃないのにな。


「そ、そうか親戚だったのか」


「親戚っていっても遠いからな。わざわざ言うことでもなかったし」


 僕の言葉に祐介はそうかそうかと目を細めた。細めたせいでつむっているように見える。


 教室に入ると、雪乃はすでに自分の席に座って、女子たちと話をしていた。楓は雪乃の笑顔を見たことあると言っていたが、雪乃は僕が見ている間、笑顔を見せることはなかった。




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