第20話 好きな人へ見せる笑顔
家に帰った僕は本を読むのを早めに切り上げ、夕食の準備に取り掛かった。
今日は僕が夕食の当番だ。今日のメニューはホイコーロー。とはいえ、具は適当である。適当な具材を色々な調味料を調合したソースに合わせれば、それらしいご飯のおかずになる。ソースの分量さえ間違えなければ、だいたい何を具にしても美味しい万能ソースだ。
それを多めに作って小分けにして冷凍しておけば、次の日の副菜として活躍し、父さんのお酒のお供にもなる。
ポイコーロー万歳というよりはソース万歳といったところか。
その他にも、ソースさえしっかりと作れば具材はなんでもいいというような料理はいくつもある。
しばらくすると部活を終えた夏樹が帰ってきて、夕食が始まる。特に決めてはいないが夕食はみんなで食べるようにしている。今日は父さんが遅いので二人での食事だ。
さすがに父さんを待っていたら遅くなる。
「いただきます」
そういうと夏樹は勢いよくご飯を口に運んで行った。
さすがはスポーツ少女といったところか、大会を勝ち進み、日々の練習も厳しいものになっているようだ。そのぶん食欲も増している。
「足りなかったら、冷凍しているやつもあるから言ってな」
「うん、ありがと」
僕が運動していない分、夏樹のほうが食べる量が多いのではないだろうか。なんにせよ、中学最後の大会だ。後悔しないように頑張ってほしい。
夕食を終え、二人で後片付けをすると、あとは風呂に入ったり、ゆっくりと時間を過ごすことになる。僕はいつも通り本を読み、夏樹は自分のノートを見ながら、ユキがセンターはやっぱきついかな。とかつぶやいていた。
僕はふと、昼間の屋上でのことを思い出し、夏樹に聞く。
「なあ、夏樹」
「ん?」
「もしさ、男子に、笑顔が見たいって言われたらどうする?」
「え、なにそれ? どっかのハンバーガー?」
「いや、もしもの話で」どっかのハンバーガーってなんだよ。スマイル一つ!
「んー……。本気で言ってたなら、ちょっと気持ち悪いかも、どこの勘違いだよって感じ?」
「ああ、やっぱそうだよなあ」
雪乃に思わず言った言葉が頭の中で反響して、今となっては恥ずかしい。
「でも、好きな人にだったらうれしいかも」
夏樹はふと、何かを想像するように言った。
「好きな人かあ」
「お兄……。まさか好きな子に言ったんじゃないよね? あくまでも女子が好きな人からだからね。勘違いしちゃだめだよ。逆の場合は気持ち悪がられるだけだよ」
「いや、別に好きってわけじゃないんだけど」
「好きでもないのにそんなこと言ったの?」
「うん、ん? あれ? そうなるな」
少し考えたが、別に好きとかじゃない……気がする。
「お兄ってさ、たまに変なところあるよね。それに笑顔が見たいなんて言われて見せる笑顔って、その人のための笑顔だから、特別な人じゃないと見せてくれないかもよ?」
「え? そうなの?」
「あたしだったらそうかな、あとは笑っている顔だったら、友達と一緒の時の笑っている顔を適当に見てくださいって思うし。普段の笑っている顔と、好きな人に向ける女の子の笑顔って違うんだよ」
女子特有のことなのか、それとも男子もそうなのか、僕がそのことに関して何とも思ってなかっただけのだったのか、少し難しく感じた。
「そうなのか、何か文学的だな」
「そうかな? 一応、お兄の妹だし、それなりに本を借りて読んでるしね」
たまに本がなくなっていたりするのは夏樹が勝手に持って行ったりしてるからなんだけど、持っていくときは一声かけてほしい。読み返したい本がたまたま夏樹が持って行ってると探すことになるのだ。
「じゃあ、あたしはお風呂入ってくるね」
「あい」
好きな人に向ける笑顔か、でも
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