第26話 雪乃啓介
外へ出ると、暑い空気が纏わりついた。
「
「話は終わった?」
「うん……」
少しだけ空気が重く感じた。何を話したのかわからない、だけどなんとなく居心地が悪い、話はあとで楓から聞こう。
ベンチの横にある自動販売機でカフェオレを買った。
「楓、なにがいい?」
「え、いいの?」
「うん、コーヒー牛乳とカフェオレ、どっちがいい?」
「……その二択なの?」
この自動販売機にはコーヒー牛乳とカフェオレが並んでいる。ほかにもお茶とかスポーツドリンクとかあるけど、何となく二択にしてみた。
「いや、なんでもいいんだけど」
「じゃあ、カフェオレかな」
「なんでもいいんだよ?」
「カフェオレで!」
そんなやり取りをし、楓にカフェオレを渡した。重い空気が少し和らいだ感じがした。
「
「え、俺もいいんですか?」
「うん、コーヒー牛乳とカフェオレ、どっちがいい?」
「またその二択なの?
楓がそんなことを言った。
「じゃあ、コーヒー牛乳でお願いします」
「え、カフェオレ?」僕が冗談半分で聞き返すと。
「こ、コーヒー牛乳で!」と、返した。
「コーヒー牛乳とカフェオレって何が違うの?」
僕は雪乃弟にそんなことを聞きながらコーヒー牛乳を渡した。
「……わかりません」
てっきり何か違いがあって、こだわりがあるのかと思った。だけど雪乃弟はコーヒー牛乳を一口飲むと、そのコーヒー牛乳をじっと見つめた。雪乃弟の膝の上には本が置いてあった。
「それ、現代文の教科書だよね」
「はい、さっきまで読んでて」
僕の問いに雪乃弟は答えた。
「こんなところでも勉強してるんだ。すごいね」と楓が言う。
僕の予想が正しければ、勉強ではなくて……。
「いや、俺、本を読むの好きなんです。売っている書籍はあまり買えないので」
中学や高校になると、学校の教科書にいくつかの文学作品が掲載されている。僕は教科書を渡された日なんかは、その作品に目を通したりする。そんなことをしている人は少ない。雪乃弟にちょっとした親近感がわいた。
「僕、結構本を持っているから、よかったらなんか貸そうか?」
「え、いいんですか?」
「うん、どんなのがいい?」
「少し昔の人の作品が好きで、芥川龍之介とか川端康成とか」
「しぶいの好きなのね、春人もさすがに持ってないんじゃない?」
「あるよ」
「あるのかよ!」
「たまたまだけどね、僕もその二人の作品好きなんだ」
その後も少しだけ話をして、僕たちは帰ることにした。
帰り際に雪乃弟は「また、ここに来ますか? よかったら来てください」と言った。
「啓介君、楓お姉さんに惚れたかな?」
雪乃弟はそんな楓の言葉に「違いますよ!」と返し、コーヒー牛乳を一口飲んだ。
コーヒー牛乳を飲んだ雪乃弟の表情は幸せそうだけど、何故か寂しげで、どこか雪乃を思わせた。
帰り道の途中、楓に雪乃弟と話したことを聞いたが、教えてくれなかった。楓が言うには、頭の整理がしたいとのことだった。あとは歩きながらじゃなくて今度ゆっくり話すということのようだ。
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