第54話 神社で願うこと

 僕と雪乃ゆきのは電車とバスに乗り、とある神社に来ていた。バスは山道を登り、断崖絶壁の箇所を何度も走った。バスの中からその下を覗くと、腹部が締め付けられるような感覚がした。


 バスが神社に着き、降りて正面を見ると、何段あるんだというような階段があった。階段の上に鳥居があるようで、階段を登らないと入れないようだ。僕と雪乃は息を切らしながら階段を登った。ほかのルートで階段を登らなくてもいい道もあるようだが、その道だと鳥居をくぐらないようで、この神社はこのルートがもっともご利益を得られるルートということで、二人で登ることになった。


 鳥居の前で一礼をする。これがマナーのようだ。そして鳥居をくぐり神社へと足を踏み入れた。


 神社独特の張り詰めた感じと、厳粛な雰囲気が少し心地良く感じた。


 この神社はかなり広いようで、しばらく雪乃についていくように歩いた。


「ここかな、スノードーム制作体験」


 しばらく歩くと雪乃が本を見ながら僕に向かって言った。目の前には木造の社務所があり、その中の一室で スノードーム作成体験が行われるようだ。


「まさか神社とコラボするとは思わなかった」


 僕は目の前に建てられた看板を見ながら言った。その看板にはスノードーム作成体験と書かれていた。


「そうね、でも御朱印帳もアニメとコラボしている神社があるそうよ」


 この神社がコラボしたのは、先日僕が買った『スノードーム』という本だった。そして雪乃も興味を持ったようで僕が貸して雪乃も読んだ。


「あの小説の物語ってさ、最後二人とも死んじゃうじゃない」雪乃がつぶやいた。


「うん、でもそのあと、来世でまた出会って結ばれるって話だった。そのせいなのかな」


「ご利益は復活と再生か……。ここで作ったスノードームを病気や怪我をした人のお見舞いに持っていくと、ご利益があるって言われているの。作って楓に持って行ってあげたい」


 雪乃が作り笑いを浮かべて僕に向かって言った。


「そうだな、いいと思うよ」


 とは言ったが、正直僕は神様という存在にあまりいい印象はない。僕の『力』は神様の力と言われていて、これで僕たちの血族は代々大切な人を失ったりしているからだ。とは言うものの、雪乃にそういう考えを押し付けるわけにはいかないし、僕は僕で何かしたくて居ても立ってもいられなかったので、雪乃に付いて行くことになった。


 受付を済ませ一室に通されると、僕たちの他に数名の参加者がいた。参加者の中には、本を持っている人もいて、聖地巡礼といものをしている最中のようだ。


 席に座ると、道具が一式置かれていた。神社の刻印がされている土台に、半円形の透明なプラスチック、そしてスノーパウダーと中に飾る小物、神社らしく何かの神様をかたどったような形をしていた。そして小さな容器に入った水。


「スノードームって作るの結構簡単なんだね」


 僕は一緒に置かれているスノードームの作り方の説明書を見ながら雪乃に言った。


「本当ね」


 雪乃も僕が見ている説明書を見ながら言った。


 しばらくすると巫女さんが入ってきてスノードーム作成が始まった。


 作り方は簡単だったので問題なく作ることができた。作り終わった後に紙が配られた。その紙には願い事を書くようで、僕たちは楓が目を覚ますようにと書いた。


 書き終わると神社の本殿に案内された。そこで神主さんが祈祷をしてくれた。


 祈祷は全員分を丁寧にやったようで三十分ほどだった。つくり終わってそのまま持ち帰っていいと言われたらご利益が本当にあるのか疑わしいところだったが、しっかりと祈祷をしてくれて少し安心した。


 祈祷してもらったスノードームを受け取るとき、紙袋に入れられていて、その中にお酒も一緒に入っていた。お神酒というらしいがスノードームにお供えしてくれと言われた。祈祷したから神様が宿ったということなのだろうか。


「柏木君、神様の親戚だよね? このスノードームに神様宿ったの? 分かる?」


 雪乃がそんなことを聞いてきた。いくら僕でもそんな霊能者みたいなことは分からないし、雪乃は僕をなんだと思っているのだろうか。


 雪乃の言葉を聞いていた巫女さんは何やら怪訝な顔を僕に向けた。神職の前ではあまりそういうことを言うもんじゃないかもしれない。


 僕と雪乃は逃げるように社務所を後にした。


 社務所を出た僕たちは、休憩に出店で団子とお茶を買ってベンチに座って食べた。階段を登ってすぐスノードームを作り、そのまま祈祷と休んでなかったので甘い団子とお茶がおいしく感じた。


「楓が目を覚ましたら、みんなでもう一度お礼をしに来ようか。お願い事が叶ったあと、お礼をすると今後も神様が見守ってくれるんだって」


 雪乃が紙袋の中のスノードームを見ながら言った。


「うん」


 僕は雪乃の言葉にそれしか返せなかった。


 団子とお茶を食べ終わるころ、スマートフォンで時間を確認すると、バスの時間が迫っていた。空がいつの間にか厚い雲におおわれていた。もう少しで一雨くるかもしれない。僕たちは急いでバス停に向かった。



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