第9話 殻に閉じ込められている少女が見る景色は
一時間ほど車に乗り、途中のパーキングエリアで休憩をとることにした。駐車場にはすでにたくさんの車が停まっており、週末で遠出をする家族で
「
「なんですか?」
「柏木君と
日野先生の声はいつもとは違い、
「多分、先生が思っていることは合っています。楓も『血族』の一人です」
「そうですか……でしたら……」
日野先生の声は、今にも消えそうな
「先生も気づいていますよね。楓は『力』を使うことはできませんから、心配しなくても大丈夫ですよ」
「はい、早坂さんから『力』は感じません……でも柏木君は……」
日野先生の声は少し震えていた。彼女は『力』を宿した一人だ。しかし、彼女の『力』は、本体の『力』の存在を感じ取ることができる受信型。そして僕にはその本体の『力』が宿っている。日野先生とは血筋をたどると、どこかで同じ人物に当たるようだ。とはいえ親戚全員がそれを宿すわけではない。楓のように『力』を宿していないのが普通だ。宿す者がいない世代も珍しくはない。受信型に関しては近くに本体の『力』を宿す者がいないと、自分に『力』があるのかすら分からない状態で、入学式そうそう日野先生に呼び出され、何者扱いされたことには驚いた。
「僕のことは心配いらないですよ、ちゃんと分かっていますから」
日野先生は僕の言葉を聞いて一呼吸すると、何かを決心するようにうなずいた。そして表情を笑顔へと変える。
「そうですよね、えへへ、先生心配しちゃいました」
日野先生は首を
(アインシュタインはそんなもの残してないから!)
楓の声が聞こえた気がした。
「では、私は少し休憩してきますので、適当に戻ってきて下さいね」
立ち去る日野先生の瞳は太陽に照らされて少し輝いて見えた。
僕も飲み物を買うため建物に足を向けた。建物の中に入ると入口から土産屋になっており、その奥がフードコートになっているようだ。土産屋を見て回った。地元の品だけでなく隣町の物まである。現地で買い忘れたらここで買えばいいというわけか等と、一人で納得した。
土産の中にスノードームを見つけた。それは一人の少女が空に向かって手を広げていた。雪を降らせると少女は雪に向かって手を広げているように見えた。その少女はロングの黒髪で、その表情にはどこか
しばらく見て回っていると飲み物を見つけた。しかし会計所が混んでいたので外の自販機で買うことにした。自販機を見るとコーヒー牛乳とカフェオレが並んでいた。よくよく考えてみるとこの二つは一体何が違うのかわからない。しばらく思考にふけりたい気分になったが、僕はカフェオレを一本買って足早に車へ戻った。
車へ戻ると雪乃と日野先生がすでに戻っていた。日野先生は新しく買った缶コーヒーを飲んでいた。雪乃は車の中に入っており、窓を開けて外を
僕は日野先生に戻ったことを伝えると車に乗り込んだ。雪乃は特に何も買わなかったようだ。かすかな風が開けられた窓から入ってきて、雪乃の長い黒髪が優しく流れた。彼女の表情はどこか寂しげで儚かった。
少しすると楓も戻ってきた。楓が車に乗り込むと同時に日野先生も車の中に入った。
「さて、ここから一気に目的地までいきますよ!」
日野先生は少し気合を入れ、運転を再開させた。
「結衣、これあげる」
楓はカフェオレを雪乃に差し出した。
「私、お金持ってないけど」
「あげるって言ったでしょ、おごりよ」
雪乃は「ありがと」と言うと、カフェオレを受け取った。
「なあ楓、コーヒー牛乳とカフェオレって何が違うの?」
「ん? わかんない、どうでもいいじゃないそんなこと」
楓はそう答えると、自分用のカフェオレの
「気になるんだよなあ」
「……私もちょっと気になるかも」
雪乃は両手でカフェオレのペットボトルを持ちながら呟いた。
「結衣?」
「ん? なに?」
「いや、めずらしいなって思って……」
「え? ……そうかも」
雪乃は何かを考え込むように外へ視線を移した。二人の会話の意味はわからない。かといって僕からあれこれ聞くのも変な気がした。だけど先ほど雪乃はお金がないと言っていた。なんか違う気がするけどそれくらいなら……。
「お金忘れたなら少し貸そうか?」
「春人は黙ってなさい!」
「なんで!」
「景色でも見てなさい」
「……ものすごい速さで流れて見れません」
「もっと遠くを見て! 高速道路よここは!」
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