第48話 みんなに会いたくて
僕たちは今、バーベキューができる公園に来ていた。僕と
話は二日前の金曜日にさかのぼる。
「ハル、試験の合計点どうだった?」
休み時間に前の席の祐介が僕に目を細めながらにこやかな笑顔で聞いてきた。細めた目がつむっているように見える。祐介本人は見えているのだろうか。
「まあ、いつもどおりって感じかな」
僕はそういいながら、返された全ての解答用紙を机の上に出した。祐介は机に出した僕の解答用紙をじっと眺めている。点数の計算をしているようだ。
「ぎりぎりかよ、お前、勉強してないのによくこんな点数取れるな」
「いや、夏休み前の試験はさすがに勉強するよ、それに今回は……」
「ま、お前と雪乃と早坂の三人で勉強してたしな、俺もたまにまぜてもらったし、ほれ」
そういいながら祐介は自分の解答用紙を僕の机に出した。
計算しろと? 恒例の祐介からの挑戦状みたいなものなんだけど、仕方ない。
「二人とも、試験はどうだった?」
僕の暗算は楓の声にかき消された。
「へぇ、桜井君が五点勝ってるじゃん、点数も高くて、二人とも頑張ったじゃん」
楓の計算処理能力は異次元だった。きっと楓は異世界転移をして世界を救って帰ってきて、現実世界で無双中なのかもしれない。ウェブ小説でそんな物語を読んだことがある。楓のデコピンには注意が必要だ。なんでデコピンなのかは僕の心の警報機がそう言っている。
「桜井君、そういえば昨日、女神様が――」
ほらやっぱり、異世界といえば女神様だ。てか祐介もかよ。
「そこはしっかりレベル上げないと後々困るし、クリアできなくなるぞ」
なんだゲームか……。いや、ゲームの世界で無双しているのかも……なんのこっちゃ……。
「みんな、点数どうだった?」
雪乃が自分の解答用紙を持って僕たちの席に無双しにきた……いや席に来た。
「僕はいつも通りかな、雪乃はどうだった?」
「私はいつもよりいい点とれた」
そういうと雪乃は自分の解答用紙を僕の机に広げた。
「結衣、頑張ったからね」
雪乃が見せてくれた解答用紙に書かれた点数は、僕たちより少し低いくらいだった。ていうかこれ、そのうち抜かれるんじゃ……。
「みんなが勉強教えてくれたから」
雪乃はそういって笑顔を作った。
思えば僕たちが通う高校は、そこそこの進学校だ。家庭環境が良いとは言えない状況で雪乃はこの高校に入ってきたわけで……。環境が整った今、気を抜いていると本当に抜かれるかもしれない。
「今回の試験、少し難しかったみたいだぞ、点数が前と変わってないなら、順位は上がってるかもな」
祐介がそんなことを言った。
「そうなんだ、じゃあ僕も少しは順位上がってるのかな」
「春人も頑張った甲斐あったじゃん」
「そういう楓の点数は?」
「あたしもいつもどおりかな」
どうせ、異次元だ……。
「まあ、早坂は今回も一位だろうな」
「まあ、そんな感じかな」
裕介の声に楓が返答した。この時点で一位とわかるような点数だろう。
「なあ、打ち上げしないか? いい場所見つけたんだ」
祐介がそういいながらスマートフォンを取り出し、ウェブサイトを表示して僕らに見せた。表示されていたのはバーベキューができる公園だった。
「ちょっと高くない?」楓が言った。
「手ぶらコースが高いんだよ、持ち込みができて、炭とバーベキューコンロのレンタルは安いから、食べ物を持ち込んで行こうぜ」
裕介はスマートフォンを持ちながら器用にサムズアップした。値段を見せてもらったが、高校生の僕たちが簡単に出せる額ではない。
「うーん、結衣は、どうする?」
楓はどうするか迷っているような感じで雪乃に聞いた。
「日曜日だったら大丈夫かな、土曜日は
「そっか啓介君、退院なんだ」
「うん、日野先生も退院するみたい」
日野先生と啓介君はあの事件以来入院していた。やっと退院できるようだ。
「結衣がいくならあたしも行こうかな、春人は?」
「日曜日だったら行こうかな、土曜日はちょっと」
土曜日は母さんの命日なので、予定は入れられない。夏樹も少し調子悪いが、明日なんとかなるだろうか……。
「そっか、明日だったわね」
「うん」
楓に僕が声を返した。
*
そして、母さんの命日が過ぎた日曜日、電車を乗り継いだ僕たちは、バーベキューができる公園に来ていた。
僕は今日、とても来る気分にはなれなかった。だけど何故か、みんなに会いたくなった。夏休みにはいる直前の日曜日で、月曜日と火曜日に学校に行けば夏休みだ。
日曜日じゃなくても、みんなに会える。予定が入ったと言って家にひきこもって、過去三回の『力』の使用は本当によかったのかとじっくりと考えたかった。そして納得したかった。または本でも読んで気を紛らわせてもよかった。だけど、会いたかった。
親友、幼馴染、そして……雪乃。
もしかしたら、あと会える回数は限られているのかもしれない。その限られた回数を大事にしたかった。そして、あの学校の屋上で見せてくれた笑顔をもう一度見たかった。
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