第39話 純文学とは?
カフェを出ると、僕と
「
「うーん……」
正直に言うと、僕が好きな本を紹介しても雪乃に合うのか分からない。だた、啓介君に貸した本を気に入った雪乃は、文学系が合うのかもしれない。ちなみに啓介君に貸したのは芥川龍之介の文学作品だった。
「純文学の本なんてどうかな? 啓介君に貸した本を面白いと思ったなら、面白く感じると思うよ、でも、芥川龍之介って癖の強い文学というか、個性的だから物足りなく感じるかも……」
「純文学か、難しそうと思っていたけど、啓介に貸してくれた本も純文学だったのね、芥川龍之介って純文学の人なの?」
芥川龍之介の作品をすべて純文学だと言ったら、賛否がありそうだけど、ざっくりなら純文学に入れて大丈夫なはず。あまり深く言うとひかれそうな気がする。
「すべての作品を目の前に持ってきて、一つ一つ純文学かって聞かれたら違うものもあるような気がするけど、純文学の人ってイメージでいいと思う。それに純文学かそうでないかって、結構曖昧で、書き手が純文学だって言えばその本は純文学なんだよね」
まさかエンターテイメントに振り切ったような物語を書いて、これは純文学ですと言い切る作家もいないだろうし……。
「そうなんだ、なんだか難しいのね」
雪乃はそういうと書店の本棚に視線を移した。視線の先には現代文学が並んでいた。純文学云々の話はその手の界隈と話をしたら戦争が起こるので注意が必要だ。
「これは?」
雪乃は一冊のハードカバーの本を手に取った。その本は先日僕が買った本だった。
「スノードーム?」雪乃がタイトルを読んだ。
「その本を書いた作家は僕が個人的に好きな作家なんだけど、今までとは違う作風なんだよね、この作家はすっきりした感じで終わる作品が多いんだけど、この作品だけなんか人を選ぶというか、少しモヤモヤするんだよね」
「この本は純文学なの?」
「いや、この作品は純文学ではないんだけど、どこか文学的な要素をいれたような、少しだけ自分で考える必要があるんだ。なんで急にこんな作品を書いたんだろ……」
「そうなんだ、少し難しそうだけど、これにしようかな」
雪乃はそういいながら本を両手で持った。
「その本だったら、僕も持っているから貸そうか?」
余計な心配だったかもしれないけど、雪乃の家はまだ家計の問題があるので、少しでも何かの力になれるのならなりたいと感じた。
「いいの? 啓介も借りているのに」
「うん、いいよ、それにこれがきっかけでこの作家を好きになってくれたら僕も嬉しいし」
「ありがとう、じゃあこの本は借りようかな」
「うん、月曜日に学校に持っていくよ」
雪乃は本を戻した。本を戻すときの顔が、どこかうれしそうな表情をしているように感じた。
「もうちょっとだけいいかな?」
雪乃は少しだけ申し訳なさそうな表情で僕に言った。「気にする必要なんてないよ」と言おうとしたけど、その表情を見たら言葉が詰まった。
「う、うん、いいよ」
少しだけ、声がうわずった。雪乃の今の表情を見たら何故か緊張してきたようだ。
「どうしたの?」
雪乃の表情が少し優しくなったように感じた。
「な、なんでもない、次のところに行こう、次は何を選ぶの?」
僕は緊張を隠すためによくわからないテンションで声をだした。
「面白いものじゃないかもしれないけど……こっちかな」
雪乃はそういうと歩きだした。
着いたところは参考書のコーナーだった。確かに面白いものじゃないかもしれない。
「今まで、ちゃんと勉強できなかったから……」
雪乃は参考書を手に取った。
「そっか、大変だったもんな」
雪乃は高校に入学してすぐアルバイトを始めたようで、それからろくに勉強ができなかったようだ。
「僕も何か力になれるなら手伝うからさ、あ、でも
「うん、でも楓って、わからないことがわからない、みたいなところあるから柏木君にも教えてもらうことがあるかも」
「確かにそうかも、困ったら言ってよ」
「うん、これ買ってくるね」
雪乃はそういうと参考書を両手で持ち、少し微笑んでレジへと向かった。
僕は雪乃がレジに行っている間、大学入試の過去問をしばらく眺めていた。
ここは大型書店だけあって数多くの大学の入試の過去問がある。もちろん僕が狙っている大学の過去問もある。そろそろ準備だけでもしとくかな。
「雪乃はどこにいくのかな……一緒の大学に行けたらいいけど……」
「柏木君お待たせ、ごめんね、待たせて」
「うん、大丈夫……あれ?」
「どうしたの?」
「いや、今なんか大事なことつぶやいたような」
「私が?」
「いや、僕?」
「なにそれ?」
「いや、分からないんだけど……」
何か、無意識に大事なことをつぶやいたような気がするけど……。
「疲れちゃったかな? 休む?」
雪乃は心配そうに僕の顔を見つめている。
「いや、大丈夫、次の場所に行こう。アレ、買うんでしょ?」
「うん、付き合わせてごめんね」
「いいよ、気にしないで」
僕たちは、今日ショッピングモールに来た目的のために、次の場所へと向かった。
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