第35話 生暖かな風




 「流石に危険にさらす訳にはいきません‥‥」



 薄らと微笑みながら振り向く金条さん。彼女が扇を畳むと共に、彼女の高貴さ溢れる体からほわほわと光が蒸気のように逃げてゆく。



 『そうだ‥‥あの人、魔法少女‥‥!』



 あの時の緊張からか、忘れかけていた。

 前に金条さんが語っていた話の中では、自分は魔法少女だと明言していたはず。



 「お怪我はありませんこと?」


 

 彼女は傷一つ無く、気品溢れる落ち着いた声で、その場に座り込んでいた笹山ちゃんへと、体をかがませて手を差し伸べる。



 「あっ、ありがとうございます‥‥!!

 おかげさまでケガ無しです!」

 

 「うふふ、それは良かったですわ」



 ほんの数秒前まで受穢者を相手にしていたというのに、脅威がなくなるとすぐに仲間の安全を確認する辺り、彼女からすれば余裕綽々といったところなのだろう。



 「貴女方は力も有りそうですし、何よりも

 屈しない威勢がありますから、まだまだ伸

 びてゆくと私は思いますわ‥‥」


 

 金条さんの労いと応援の言葉に、俺たちは思わず黙り込んでしまった。

 どこかその言葉に評定するような雰囲気が混じっているからか、彼女たちは歯痒そうな表情のままにいる。

 が、そんな雰囲気も‥‥金条さんの余裕もこれまでだった。



 「くっ‥‥くく‥‥もう我慢できませんわ‥‥!」


 『‥‥え? 何何?』



 金条さんは小刻みにプルプルと揺れだし、口を少し曲げてニヤニヤし始める。

 うわ‥‥! 何だろ、言っていいか分かんないけど‥‥気持ち悪っ!



 『ち、ちょっと‥‥? 大丈夫ですか‥‥?』



 何だ‥‥!? もしかして体調を悪くされたとかか‥‥? だったらこれは痙攣!? ちょっとヤバいか? いや、だったらあのにヘラにヘラした(ちょっと気持ち悪い‥‥)笑いは何!?

 上の人の異常な状態を見ていると、こちらも不安になってくる。



 「ふへ‥‥へへへぇ~!」


 『うえッ‥‥!?』



 あかん笑、うえっとか言ってもうたw

 仕方ないか、さらにニヤリと口角の角度を増しながら不気味なまでに笑い、金条さんはゆっくりと歩き出し‥‥そして!



 「お姉さまぁ~ッ! 美しゅうッッ!!!」


 「げえぇっっ!?」



 野生動物もびっくりの速度で飛び出し、みおうちゃんへと向かって飛び付いていく。

 当のみおうちゃんも引きつった、口角のへの字に曲がる顔をしている。



 「えへェ~! お姉さま、可愛いかったし

 美しくて格好良かっですわ~!! ふふ♪︎

 10点ですわ!!」


 「うう"っ、ちょっと‥‥何!?」



 金条さんは気にしがみつくコアラの如く、みおうちゃんにべったりと引っ付き、10点のプラカードを掲げて頬をスリスリとしている。

 その光景からは見えないハートが、一方的に飛び散っているように見えた。



 「んふふ~♪︎ これも運命ですわね!

 むちゅ~!」


 「ううヴっ!? 離‥‥れてぇっ~!!!」



 そんな金条さんを必死の形相で引き剥がそうと検討するみおうちゃん。何コレw コント見せられてる?



 「ムギィ~ッ!」

 

 「ぐぐくぅ~っ!! ハァっ!!」



 モチのようにある種しつこくへばり付く金条さんを、みおうちゃんは無理矢理引き剥がす事に成功した。

 おぉ、マジで何見せられてんのコレ。



 「ふふ‥‥お姉さまも酷い人‥‥♡」


 「気ィm‥‥! もぉ何!?」


 「ハッ‥‥! これはこれはお恥ずかしい‥‥」



 もうお恥ずかしいとかのレベルじゃなかったですよ‥‥。何か裏切られた気分だ‥‥。



 『あのぉ‥‥、さっきからお姉さまって‥‥?』 


 「あっ‥‥えいや、その‥‥」



 俺の問いかけに対し、みおうちゃんは露骨に焦りながら遮った。


 

 「ち、ちょっと! 何か説明して‥‥」



 そのまま金条さんに弁明? を求めるように振ったが、当の金条さんは‥‥



 「すみません、私忙しいのでおいとま致し

 ますわ」



 スッと顔色を変えて、振り返って歩き始めてしまっている。その歩みの先には、いつから居たのか、両サイドにいた黒服の二人が待っていた。

 マジで何なん、この人。


 

 『あぁちょ、ちょっと!? 金条さん』


 「それでは皆様、ごめんあそばせ‥‥」


 『えェ!?』



 そのまま、黒服の人の迎えるまま、ゆっくりとリムジンを走らせて行ってしまった‥‥。



 『あ‥‥えと‥‥うん、みんなお疲れ様‥‥。』


 「「お、お疲れ‥‥‥‥。」」



 全員のやる気失せたお疲れが、より一層に、不完全燃焼なこの場を黙らせていた。






ーーーーーーーー





 『ふふふ‥‥♪︎ やはりお姉さましか勝たん

 ですわ‥‥!』


 「綾音様‥‥。」


 『まぁ、ちょっと興奮し過ぎてしまいまし

 たわね‥‥! 淑女の態度を保ちませんと‥‥』



 未だに胸の鼓動の高鳴りが止むことを知りませんわ‥‥。



 「綾音様‥‥質問なのですが‥‥」


 『あら、何ですの?』


 「先ほどのお姉さまというお方は一体‥‥?

 以前から面識があったのですか?」


 『うふふ‥‥まだ秘密ですわ‥‥!

 でも一つだけ、お姉さまは美しくてよ!』


 「‥‥そうですか、微笑ましい限りでございま

 す‥‥。」



 連盟からの指示で来てみれば‥‥やはり運命というものは信じるに値するかもしれませんわ!



 「それでは‥‥ゼラニウムの方々はどうでし

 たか‥‥? 私は今日まで名前も知らなかっ

 たのですが、著名な集団だったのですか?」


 『あぁそうね‥‥彼女たちの事も観察せねば

 なりませんから‥‥』


 「率直に、如何お思いでしょうか‥‥?」


 『えぇ‥‥それは‥‥』

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