第23話 上のつかひ


 

  

 「そうですか‥‥でしたら向かうのが良案です

 ね」

 

 「現地の魔法少女だけじゃあ危険に晒すかも

 しれないからねぇ‥‥アンタに任せるよ」


 「承知いたしました‥‥では、紫菖蒲しあやめ町に向か

 います。

 しばらくの時間は必要でしょうが‥‥」


 「いいんだ、黄藤町にも調べが必要だから

 ね。あっちの方にはあの子らに向かってもら

 うとしようかね。

  しかし、菖蒲ねぇ‥‥使いを送るにはちょう

 ど良い名前じゃないか‥‥」





………………………





  [ 次はーーー虹橋にじばし ]



 『あっ‥‥もう着くんか、んしょ‥‥』

 

 

 揺れ動く車内の中、前方の電子板の左側から黄色い文字がニューっと現れ、次の停車を知らせた。

 俺は席の右側にあるボタンを押して、財布の中から200円を取り出した。



 「んじゃ降りよ! でも‥‥せっかくの休み

 だってのに連盟も無理いうなぁ‥‥」


 「えっ、ちょっと‥‥私の財ふぅ‥‥?

 千咲ちゃん知らない!?」


 「んぇ? 知らないけど‥‥」


 「華‥‥右のそれは?」


 「!? あぁ! あったぁ~良かったぁ」


 「もぉー、おっちょこちょい」



 小栗ちゃんのそれに白石さんの微笑が響く。

 そんなことは気にしないかのように、笹山ちゃんと宇江原ちゃんはスタスタとバスの出口に向かっていた。

 ガサゴソと荷物をまとめている小栗ちゃんを置いてきぼりに、俺と白石さんも200円を払ってバスを後にした。



 「ねぇ満木君、もうちょい先の方でしょ?

 確か田んぼだっけ?」


 『あ、ハイ、多分あと5分くらい歩かないと

 いけないっすね』

 

 「んぇー、めんどくさ!」


 『まぁ、頑張ってくれよ‥‥』


 

 確かに、宇江原ちゃんのその気持ちはよく分かる。

 今日は7月中旬の土曜午後、気温も増してきたし休みの日だもんな。俺も正直なところ、マジで行きとうなかった。

 まぁ、それもそのはず‥‥今俺たちが歩き回っているのは紫菖蒲しあやめ町だったな。

 黄藤からは少し遠いその道をわざわざバスに乗ってここまで来たからな、休日に。




 「ご、ごめぇん‥お待たせ‥‥」


 「あー! やっと来たぁ〜!」



しかめっ面の宇江原ちゃんの言う通り、焦り顔で騒がしくも小栗ちゃんが到着した。



 「ちゃんとお金払ったぁ?」


 「そ、それはもちろん! ね、七奈美ちゃ

 ん!?」


 「え、それは‥‥知らない笑」


 「そぉんなぁ~!!!」



 悲しくも容疑を吹っ掛けられ、嘆く小栗ちゃんを加え、俺たちは連盟の指示する場所へのんびりと向かっていく。

 そんな中、俺の目を引き留めたものがあった。



 『あぁ‥‥そうか、もうこんな季節なんだな』



 見慣れない街角を歩いていると、電柱に張り紙が貼られているのが目に留まる。


 

 『紫菖蒲まつり‥‥今年もやるんだな』

 

 「本当じゃん! 今年もやるんだぁ!」


 「へぇ~本当だ、でも8月28日ってまだま

 だ先の話か‥‥」


 

 貼り紙にはここ紫菖蒲町の神社付近で毎年行われている大規模な祭り、紫菖蒲まつりについての宣伝がつづられていた。

 毎年たくさんの屋台が立ち並び、お祭りならではの食材が焼き上がる音や楽しむ人々の歓声で盛り上がる祭りで、この辺ではとても有名な催しとなっている。


 町の外からも多くの人々が訪れ、まつり囃子ばやしに思いをせるこの祭りでは、フィナーレに美しい花火が打ち上がる。

 日付的にも夏休みの最後の方だし、夏の終わりに相応しい祭りだ。


 

 「楽しみ~♪ ベビーカステラでしょ~、

 たこ焼きでしょ~、やっぱりかき氷も‥‥」


 「ち、千咲ちゃん食べすぎだよぉ‥‥」



 現役JKたちも足を止めて思いを巡らせるほどだ。俺も毎年行ってる訳じゃないけど、何回かは行ったことあるし、今年はクラスのやつ誘って青春するのもアリだなぁ!

 

 

 「おーい! みんな遅ーい!」


 「やっぱりみなみは元気だ」

 「はーーい!」

 「うわぁっ、はやいっ!」

 『ゴメーン!! 今行く!』



 祭りの幻想にもってかれかけていたが、一応要請があって来てたもんな、本題はこっちだ。

 俺たちは小走りで目的地の田んぼへ向かっていった。




……………………




 『えぇ‥‥? なんもないけど‥‥』


 

 目的地の田んぼについて早20分、目を凝らして見つめてみるが、それっぽいものは見られない。ホントにここで合ってんのか?



 「サポーターさん、こっちもダメですね‥‥」



 付近を調べていた笹山ちゃんが足早に帰って来る。やっぱ違うんじゃねぇの?



 「満木君~こっちもだー。あと華、元気出し

 て‥‥笑」


 「もうヤダぁ‥‥!」


 「あはは‥‥華ちゃん、同じバス乗れば大丈夫

 だよ‥‥!」



 他をあたっていた白石の方も何もナシ‥‥。

 あと小栗ちゃんがガン萎えなのは、さっきバスを降りるときに財布を置いてきぼりにしてきたらしい。

 


 『ごめんけど‥‥もう御愁傷ごしゅうしょう様としか‥‥』

 

 「はぁぁぁぁあ‥‥‥‥」


 

 底の見えないため息を見せる、色褪せた顔の小栗ちゃんはそっとしておいておこう‥‥。

 だが‥‥



 「これもう‥‥らちが明かないね‥‥」


 『そうですよねぇ‥‥』



 白石さんの言う通り、俺ももうダメだと感じてしまった。

 一応、午後1時と時間の指定があったもので来てはみたが、現在時刻は2時を回るところ。

 もしかして‥‥



 「あぁ‥‥多分何にもなかったんだね、これ」


 『そんなことあるんすか?』


 「今まで何回かはあったんだけどね

 まぁ、何事もないなら良かったと思う」


 『ホントに何事もなかったっすね‥‥』


 「じゃあ‥‥」 






 ながーい沈黙の中、全員の息が揃うのを感じた。




 「「「「『かえろーう‥‥』」」」」




 

 全員の真顔とやる気ない声音と共に、俺たちはその場を後にする。

 マジでなんだったんだ‥‥? アレは‥‥。





……………………





 「紫菖蒲町の件ですが‥‥特にといった脅威

 はありませんでした。」


 「そうかい、仕事が早いねぇ‥‥地理的にとう

 とう黄藤が怪しくなってきたか‥‥。」


 「ですが‥‥安直な判断は危険かと、彼方あちら

 意図しているのかもしれません」


 「まぁそうだねえ‥‥取り敢えずは待つとしよ

 うか。黄藤にはあの子らを送るつもりだから

 ね‥‥。」

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