第22話 知らないところで
とある火曜日の夕暮れ時。
その名に似合わないまだ青い空の下に、ゼラニウムの数名は人通りの少ない黄藤町の小規模の公園に向かった。
『リジェクション~♡』
「ウグゥゥぁあああヴぅ‥‥!」
『凛奈! そっちは!?』
私が相手をしていた穢にトドメの一撃を入れ
ちょうど私が目を向けた先、凛奈は刀を
凛奈は刀を軽く振り払い、穢の体液を飛ばした
「おけおけ! 全然大丈夫だから!
てか、そっちは大丈夫なん?」
彼女は笑いながらこちらを振り向いて問いかけた、その後ろで崩れゆく穢には目もくれずに。
『せっかく人集めたのにぃ~、ざこばっかり
なんだけどぉ~♡』
「それな、今日は楽だわ笑
あーでも、他は?」
凛奈のその言葉に私は、まだ戦いが終わっていないことを思い出し、二人して仲間の方に首を傾ける。
「うぎぁぁあ! ちょっとぉ~!?」
『「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」』
私たち二人は呆れ顔で言葉を失った。
ぎこちなくガニ股で逃げ惑う華の後ろでは、殺めるのが惜しいほどに弱々しそうな小さな穢れが頑張って跡を追っている。
「なにあれカワイイんだけど~!」
「ぎぃゃあぁぁぁ!!」
半泣きの華を横目に、凛奈は目を輝かせてニッコリとしている。
確かに、なんとなくタレ目な感じのビジュアルには魅力があるかも?
「んもー、凛奈先輩! そんなこと言ってな
いで~!」
「さっさと片付けてよぉ~」
そこにみなみ、みおうが駆けつける。
二人はそれぞれ拳を、短剣を構えて応戦する。
「うわっ! なにこれ小さっ!」
「う~ん、ごめんね~!」
無慈悲にも、これは連盟からの要請なので、二人は各々の掛け声と共に手をつき出した。
「いくよ‥‥ハートフルショック!!」
「うきゅぅぅぅう!」
みなみの拳は穢の芯を突き、その小さな体躯がぐにぃと曲がる。
続いてみおうが‥‥
「
「うぎゅうううぅ…!」
両手の短剣を交差し斬り付ける。
見事に彼女の持った二つの短剣はバツの字を絵描き、その小さな穢の絶命の一手となる。
「ひぃーん‥‥!!」
「もーぉ! 華ちゃん、もう居ないから!」
「えぇ‥‥? あ、ほんとだ‥‥」
小さな穢は力なくその場に倒れ込み、数秒の間にぼろぼろとその体を亡きものとしていた。
華の振り向く頃には、どろどろと濁った液となり消え失せている。
『これで最後みたいね、本当にざこばっか
り♡‥‥』
「さすがにもう良さげっしょ? 帰るー!」
手応えの無さに呆れた凛奈がその場に背を向け、公園を後にしようとしていたその時だった。
「凛奈‥‥ちょっと待って‥‥」
結は彼女を呼び止め、近づきその場に
「ここ‥‥ちょっと傷になってる‥‥」
結の下ろした目線の先は、凛奈の左膝であった。先の戦いせいか、結の言う通りに凛奈の左膝には切り傷が見られた。
「もぉ~これくらい大丈夫だってぇ~笑
ほっとけば治るっしょ!」
「だめだよ‥‥ちゃんと治しておこ‥‥?」
「うぇ? あー、うん‥‥」
凛奈の膝の傷は大怪我と言うには小さいサイズ、調理中のケガ以下かもしれないものであり、彼女が断って放っておく気持ちも分かる。
しかし、持ち前の優しさか、既に結は患部に手を添えている。
「手当ノ
「あは‥‥ありがと‥‥。」
照れくさそうな凛奈の表情と共に、彼女の膝の傷が癒えてゆく。
凛奈の言いきる頃には、もうその傷は完治し綺麗に元通りとなっているが、加えて結が口を開く。
「それに、まだ終わりじゃない‥‥」
「あーぁ‥‥アイツねぇ‥‥」
治療が終わり立ち上がる結と凛奈は、目線を合わせて少し遠くの滑り台を見つめている。
私もつられて同じように目を向けたが、やっと二人の言う意味が理解出来た。
「ぶぬ遨繧?ゅうぅぅぅi?」
「まぁ‥‥ちょっと強めかも‥‥?」
「だいじょーぶ笑、10秒くらいね!」
滑り台に
ただ‥‥うちの〝ギャル系〟魔法少女は臆する素振りすら見せず、腰に備えた鞘から刀を引き抜こうと構える。
「華ぁ! 今日なんもしてないでしょ!
アイツ、ちょっとの間止めといて!」
「え!? うえぇ? えと、えとぉ‥‥」
「じゃあ‥‥いーち‥‥」
やる気満々で急な要求を投げる凛奈、それを受けて慌てふためく華、そして凛奈の言葉を真に受けてカウントを始める結。
なんの統制もなくして、相手からは隙と見えたのだろう。
奴は滑り台から離れ、距離を詰めに来る。
「さーん、しーい、ごーお‥‥」
「うぅぅ‥‥! 投与状態異常・鈍化!」
華は今まで出番の無かった腰のステッキを手に取り、穢に向けて言い放つ。
すると、ステッキから放たれる桃色の光はその穢を包み込み、同時にその体躯はまるでブレーキでもかかったように急停止した。
「いいじゃん華ぁ! それじゃ‥‥」
「ろーく、しーち‥‥」
それを確認した凛奈は続け様に、刀の持ち手を握り締めて姿勢を穢に向けてやや倒す。
「八重桜‥‥」
「はーち、きゅー‥‥」
「早々・八分咲!!」
公園の草が生えかけた地面は凛奈の右足の踏み込みにより、砂を散らして抉れる。
コンマ数秒先、踏み込みと同時に抜いた凛奈
の刀がその体躯を斬り裂く‥‥!
「?ぎうぅゅェ繧薙d繧るるえぇぇ!!!」
「ヒューう!」
耳障りな断末魔と共に、黒く濁った噴水が立ち上がる。
それと同時に、凛奈のやったぜ感のある声からは、今回の勝利が感じられた。
「うわぁ‥‥! 凛奈先輩すごぉ‥‥」
「いいじゃん~ナイスっ!」
これにはみなみとみおうも称賛の声を上げていた。
「どぉ!? マジ良かったでしょ!? 」
「12秒‥‥」
「ムキィーッ!! うるさい!」
凛奈は不服だったか知らないけれど、あの大きな穢はどろどろと身体が溶けだし、黒く濁った蒸気を上げる。
今回の要請はこれで終わりだろう。
『すごぉーい凛奈~♡ 最強♡ 天才♡』
「でしょ! こはねは分かってるわ~笑」
彼女の顔は少し、明るさを取り戻した。
「じゃー! 帰りましょーう!
もうすぐ暗くなるし!」
「あ、ホントだ」
「うわぁ! 課題明日だったぁ~!」
「ふふ‥‥急いで帰ろう‥‥」
やっと夕暮れの名に相応しい赤さになった空の下、みんなで背を向けて公園を後にする。
が、しかし‥‥
「ねぇ‥‥こはね?
とーや君、どーすんの‥‥?」
『‥‥っ!』
「「「「あっ‥‥」」」」
私は‥‥いや、みんなが顔を青くすることになってしまった。
「正規雇用とか言っちゃったけどさ‥‥
どうすんの‥‥未成年アウトってこと‥」
『そうね‥‥早めに手を打たないと‥‥』
寒気すら感じる今日の夕暮れ。
それは初夏のせいだからか、いや違う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます