第12話 気合い入れてくぞ




 

  ピピピピー! ピピピー!


 『んぁ‥? ‥あぁ!』


 耳にさわる不快な音色で目を覚ます。

 妙にスッキリと冴えた感覚‥これは‥!

 

 『やべ‥! ちこ‥』


 すかさずスマホの画面を確認。


  [ 月曜日 7:04 ]


 『くしてない‥よかった‥。』


 今日は月曜日、要するに学校に行かねばならない日。

 俺が通っている高校は8:50に朝のホームルームが行われる。したがって俺は遅刻ではない、ヨシ!

 てか全然間に合ってるよなぁ~。


 『‥‥起きよ‥。』


 むくっと体をベッドから離脱させる。ここのスピードが平日二度寝の命運を大きく左右するわけだ。

 一昨日おとといシャトルランしてから筋肉がむせび泣いていたものだから、日曜日はみんなの為を思ってキツいメニューを避け、俺は早く寝た。以上!

 だからスッキリ目が覚めてのか‥、てっきり寝坊したものかと。

 

 『おはよ‥‥』


 「あ、お兄ちゃんおはよう~

 私、もう行くから鍵閉めといてね。」


 『あ、そうなの‥いってらっしゃ~い』


 「いってきまーす」 パタン‥


 中学生の出勤時間早すぎない? 俺にもそんな時代があったのだろうか。


 『今日は‥月曜だから‥』


 メモ帳を取り出し、午後のトレーニングに誰が参加するか確認する。

 

 『笹山ちゃん、宇江原ちゃん、瀬々木ちゃ

 ん‥‥。』


 今日は少ないなぁ。

 月曜日はみんな忙しいんだろうか。


 『俺も頑張らないと‥』


 床に腰を落とし、やや曲げて腹筋の体制を取る。


 『1‥‥2‥‥3‥‥4‥‥』


 腹にくる重圧感、じわりとひろがる苦痛。やはりシンプルかつキツい‥‥。

 こんなことをして彼女たちの為になるとは思えない‥けれど‥!


 『38‥‥39‥‥40‥! がぁっ‥!』


 思い切り手足を叩きつけ、苦しみから解放される。

 くそ‥あの子らには軽く60やらせてたクセに俺というやつは‥。


 『あぁ‥もう行かねぇと‥』


 なんだかんだでもう出勤時間だ。

 こういうのは継続が大切だっていろんな人が言ってるんだ。無理はしないでおこう‥!

 

 『今日は‥地理あるな。』


 リュックに地理の教科書とノートを詰めこんだ。これでOK‥。


 (地理の課題って明後日までか‥なら間に合

 うか‥)


 そんなことを考えながら制服のボタンをとめ、ベルトを締める。

 現在時刻は8時10分、そろそろか‥。


  ガチャガチャ‥


 『いってきまーす‥』


 家の鍵を閉め、ポケットにしまい込んで今度は自転車の鍵を取り出す。

 この自転車は前のバイトで貯めたお金でスピードの出るやつを買ったんだ。今では頼りにしているが、買ったときは諭吉が数名死亡してさすがに泣いた。


 『おはようございまーす‥』


 「おはよう‥」


 近所でたまに会うおばあちゃんと挨拶を交わす。

 そういえば今日はあくびが出なかったな。

 よっぽど良く寝ていたんだろう‥。




……………………




 『はーい、一旦休憩! おつかれさーん』


 「「「は~い」」」


 『これ飲んで休みな~』


 「ありがとうございます!」

 「ん‥ありがとう」

 「やった~! さんきゅー!」


 『おうおう! いっぱい飲みたまえ~』


 この間、好評だったドリンク渡し作戦を再度試してみたが成功だろう。

 調べてみたんだが、この手の仕事ではコミュ力がある程度必要だそうな。だからこうして少しでもみんなと関わる機会を自分から作っていこうではないかということだ。


 「サポーターさーん」


 『お、どうした?』


 いいぞ‥向こう側から話しかけてくれるなんてなぁ。


 「サポーターさんは何でこの仕事やってる

 んです?」


 『あぁ、前のバイトを首‥ではないけど辞め

 ることになってな。』


 「なんかお金貯めて買いたい物でもあるん

 ですか?」


 『あ‥いや、家庭の事情でな‥。』


 「あっ‥す、すみません‥。」


 『ハハ! いやいや、別にそんなヤバい訳

 ではないから大丈夫! 普通に学校行って

 るしな。』


 「そ、そうですか‥なら良かったです‥!」


 確かに経済的な理由でバイトをしていたんだが、この仕事は高収入だしな‥少し贅沢しても全然許されるだろ。

 お給料なぁ~! 何に使おうか! 少しなら自分で使っていいでしょ~。

 なぁ‥‥‥お給料‥‥お給料?

 待て‥。もしや俺‥!


 『モ、モラッテない‥! オレ、お給料モラ

 テナイ‥?』


 「えええぇ~!! 働いてるのにお給料貰

 えてないんですか!?」

 

 『ウン‥‥(泣)』


 「なんでですか!」


 そうだ‥その通りだ‥誰がどうやって俺にくれるんだ!?

 一応、仕事はして‥るけども! 

 スズメの涙‥いや! フン程度でもいいから頂けないものか!? それとも俺は傲慢か?

 どうしよ‥このままでは無賃労働だぞ‥。


 「桃弥くん! その件だけど~」


 『どうした! 宇江原ちゃん!』


 「こはねちゃんが‥えーと‥‥」ガサゴソ


 宇江原ちゃんがファイルの中から何か取り出した。


 「これ! 渡しといてって。」


 『んん~?』 


 受け取ると、なにやら茶封筒のようだ。

 何が入ってんだ~?

 

 『おお‥ナニコレぇ?』


 中身を見てみると‥これは?


 『カード? と手紙?』


 手紙‥か、開いてみるか。


  [ サポーターへ


   無能なぁ♡ サポーターの代わりにぃ♡ 

  ライセンス出来たっぽいので受け取って

  おきましたぁ~。

   連盟に口座番号教えればお給料振り込

  んでもらえるってぇ♡

   ざぁこ♡ がんばれ♡ 

      

          藍浦より ]


 あ、これサポーター用のライセンスか!

 これでお給料を貰えるのか‥。これはでかいぞ‥! ありがとう藍浦様‥。

 

 『これで人生バラ色だな‥フフフ』


 射幸的な幸せを噛みしめ、愉悦に浸っていると気持ちの悪い笑みが零れてしまう。


 「これで正式雇用らしいよ!」


 いやぁ~そんなに褒めてくれるなよ~!

宇江原ちゃん! 

 いいなぁ正式雇用なんて‥格好付くなぁ。


  ブーブー!ブー!


 そう思っていた矢先、俺のスマホは鳴り出した。

 お? 早速給料入るのか?


 『はい、もしもし』


  [もしもし、チーム・ゼラニウム様でしょ

  うか?]


 『あぁ、はい。そのサポーターです。

 いかがなさいましたか?』


  [そうでしたか、あなた方へ要請が出てい

  ます。至急、向かうようお願い申し上げ

  ます。 

  承認機器に場所を示しておきますので、

  宜しくお願いいたします。

  それでは、ご健闘を‥‥!]


  プツン‥


 ありゃ? なんか強引じゃね?

 すると部屋のすみに置いていたレジ打ち君に通知が来た。


 『ここから2kmぅ? また走れと‥?』


 え‥また化物みたいなのが沸いてきたの?

 

 『そんな‥‥。』


 はっきり言って何をすればよいか分からない。だからと言って、また足手纏いで居るのか?


 「そんなに時間はかからなそう‥行こう、み

 んな‥。」


 瀬々木ちゃん‥。


 「「うん‥!!」」


 笹山ちゃん‥宇江原ちゃん‥。


 「ほら! サポーターさんも早く!」


 『あ、あぁ! 今度こそは‥。』


 そうだ、今度こそは‥。このままでは居られない‥、俺の居る意味が無いじゃないか‥!

 俺の足は勢い良く進み始める。





 だが‥この先、平気で血が流れるようなことになるとは思いもしていなかった。

 


 

 


 


 




 


 


 


 


 


 



 

 


 


 



 





 


 


 


 


 


 


 




 


 


 




 


 


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