第11話 先輩のお誘い


 





 「んふふ~! おーいしい!やっぱカロリ

 ーだわ~!」


 『そ、そーっすねぇ‥!』


 おいしそうにバーガーを頬張る八重さん、ご満悦のようで何よりだ。

 立ち込めるいい匂い、ポテトの揚がる音、そう、ここはバーガーショップである。

 なぜ俺がここに居るかと? それはさかのぼること数分前‥‥。



……………………

 

 

 「ねね! とーや君、今からヒマ? ちょ

 っと付き合ってよ。」


 『え‥な、何ですか!?』


 「いいから、いいから‥笑」


 (つ、付き合う!? えと‥これはどういう意

 味合いなんだ‥?)


 抱いてはいけないタイプの期待が胸をよぎる。


 「うち、お腹空いちゃったんだ~、だか

 らぁ‥とーや君もどうかな~って。」


 あ‥やっぱり‥そんなもんだよ。

 

 「ね~ね~、奢るから行こーよー!」


 『あ‥はは‥そうですねぇ‥。』


 これはアレだ‥先輩からのお誘いだ‥!

 断る訳には‥。


 

 ……………………



 という訳で今に至る。

 だが、来たはいいんだけれど‥。


 「なんか静かじゃん? 遠慮せずに食べな

 よ?」


 『あ、ありがとうございます‥』


 満木みつるぎ 桃弥とうや 十六歳 生まれてこの方‥

 彼女0ッ! 交際経験0ッ! 

 したがって‥俺は急に年上の、しかも異性の先輩と話せるような実力は持ち合わせていない。

 正直、今も緊張して冷や汗が出るレベルである。 


 「なにぃ~笑 とーや君、緊張してん

 の?」

 

 図星ィィッ!

 どうしよ‥何て会話すればいいんだろ‥。


 『はぃ‥ちょっとだけ‥。』


 「ふふっ‥ウブで可愛い‥。」


 『っつ‥!』


 揺れる金髪、少しからかうような笑顔、この人よく見たらけっこう美人‥。

 不意打ちにドキッとしてしまった。恐らく、というか確実に俺の頬は赤らんでいるだろうに。顔が熱い‥。


 「はははw 顔赤いよ? もーそんな

 緊張しなくていいのに~!」


 『あっはは‥! さーせん、変ですよね。』


 目線がポテトにれていく。

 は、恥ずい! 経験無いのがバレバレじゃないか‥。

 

 「そーいえばとーや君、もう仕事慣れた

 ~?」


 『まだまだですね‥シャトルランもしょぼ

 かったですし‥。』


 「マジそれなw 死にかけだったじゃんw

 それにサポーターの本業じゃないしww」

 

 また笑われてるなぁ。

 ちなみにあなたが言ったからやったんですですよ、八重さん?


 「ふふw でも面白い子は好きだよ‥。」


 『えっ‥! あ‥!』

 

 妙に色気のある笑み。

 どくどくと血が回る感覚、もしかしてこれがトキメキってやつなんだろうか‥。


 「かーわいいw‥‥」


 すかさず眼を逸らす。

 やばいな、顔まで熱くなってきた。


 『あ、ははは‥!』


 即座に飲み物を口に運ぶが、飲んでも飲んでも口が乾いているようだ。

 加えてさっきの八重さんの笑顔が頭から離れない。もぉ~どぉしよォ‥。


 「ごちそうさま~! とーや君~早くし

 ないと置いてっちゃうぞ~笑」


 『なっ! あぁ、待ってください~!』


 「やーだよーw べ~w」


 『くぐ‥‥急げ‥‥ゲホッ! ゴホッ‥! ゴホ

 ッ!』


 「wwwww」


 今度は膝に手をついて笑われている。

 あぁ‥‥サポーターなのに1ミリも格好ついてないや‥。マジ萎えるって感じだな‥ハハ‥。




……………………




 『ご馳走さまでした。すいません、奢

 って貰っちゃって‥。』


 「あー、全然おけ! 誘ったのうちだし、

 こっちこそありがとー!」


 店を出て、ぼちぼち歩き始める。


 「それに立派なサポーターともお話できた

 しぃ~!」


 『いえいえ‥そんな、俺はまだまだで

 す‥。なんもしてないクセに助けてもらっ

 てばかりで‥。』


 本当に。

 まだこの仕事始めて一週間の身だ。

 一瞬、あの時の藍浦ちゃんや瀬々木ちゃんの顔が浮かべてしまう。


 「でもアレじゃん、頑張ってくれてた

 し、私は嬉しいかったけど?」


 『え‥、なんで‥。』


 「だって始めたばっかでしょ笑 誰だっ

 てキツいじゃん? その割にとーや君いろ

 いろ頑張ってんじゃん! あと、面白いw」


 『‥‥‥!』


 「だからさ、なんてゆーか‥これからもよ

 ろ! って感じ!」


 『あ、ありがとうございます!』


 「ふふっw やっぱ律儀、ウケるわ~w

 じゃーまた今度、バイバイ~!」


 『はいっ‥‥!』


 手を振りながら振り返る八重さん。

 歩き出す彼女の髪は金髪のせいか、夕暮れの今には一際輝いて見える。

 焦がれているのは日の方か俺の方か、嬉しさで知るよしもないようだ。




ーーーーーーーー

 



 「あっ! ななみ~?」


 『えっ、りんじゃん! どしたの~?』


 珍しい、コンビニでりんと会うなんて。

 まぁ、さっきまで一緒にトレーニングしてたんだけどね。


 「ちょっととーや君と話してきたー!

 やっぱあの子律儀だわ~w」


 『ふふ、やっぱり? まぁ、礼儀正しい

 ってことだよ。 

 でも何で? 知り合いとかだったっけ?』


 「あー別に、ちょっと話してみたいと思っ

 ただけ~」


 『そっか、なんだかんだりんって面倒見い

 いよね~。いつも新しい子に声かけてる

 し、今回はサポーターだけど。』


 「そんなことないわ~、てかななみもでし

 ょ~〝お姉さん〟だしw」


 『はいはい』


 「ぜーったい思ってないじゃんww」


 『はいはい笑』


 りんはこう見えて優しい。

 置いてきぼりみたいなのを無くそうとするタイプなんだと思う。

 きっと満木君のことを元気づけて来たに違いない‥、あの子はちょっと落ち込んでいたから。


 「うちらも、ちゃんとした後輩が増える

 と安心だわ~! 受験生だし~。」

 

 『そうそう、その分お勉強しましょうね

 ぇ~。』 


 「げっ‥! そうだわ‥w

 じゃ、うちこれから塾だから、バイバイ

 ~!」


 『またね~!』


 りんは大きく手を振り帰っていく。

 同じ先輩として頑張らなきゃ‥。そうだ、私も満木君と話してみよう。

 少しでも支えになれたらいいな‥。

 



……………………



 「ぶえっくしょん!! あーあ‥。走りすぎ

 たか‥? もう寝よ‥‥‥。」





 




 


 

 

 

 


 


 


 

 

 

 








 

 

 

 

  

 


 


 


 


 

 


 


 





 

 

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