第39話 計画中?
「あら? それなら私でもいいんですよ、
副会長さん?」
「お前には近々大きな仕事が出来るかもし
れない、それに‥‥お前の力では有り余って
被害が出かねる」
画面越しに聴こえる言葉は、いつもと同じく冷涼な声に乗せられて届けられる。
今年の夏も、この人の声が暑さを冷ましてしまう様に。
「ふふ‥‥ごめんなさい♪︎ この前は夏休み
に入るからと機嫌が良くなっちゃって」
「気にかけるものではない‥‥ただ、やり過
ぎには注意しなさい」
「‥‥了解致しました♪︎」
てっきりお咎めとも考えていましたけれど、冷たい声音のこの人は、やはりどこか暖かさも感じますね。
「連絡は以上だ」
「はい、わざわざ有り難うございます‥‥
それでは失礼致します」
画面の赤い電話マークに親指を触れ、あの人との会話が終わる。
「ふふ‥‥残念ねぇ、私も
思っていたのだけれど‥‥」
大きな仕事って何なんでしょうね、どの道、私は暇を持て余してしまいそうです。
「先日、事故と見られた紫菖蒲町の交差点
では、血痕などが見られず、被害報告も無い
ため警察は情報提供を急いでいます」
テレビ報道の不謹慎な
私もどこか、暇さえあれば泳ぐなりしたいものです。
「脇に倒れています、事故車両と思われる
車は、原型が分からない程にひしゃげ曲が
っており、衝突したと思われる電柱も根元
から崩れ折れてしまっています」
「ふぅ‥‥」
リモコンを手に取り、テレビの電源を消す。
そうですねぇ‥‥誰か誘って海やらプールやらにでも行こうかしら。
にしても、副会長さんから注意されてしまいました。
「ちょっと、やり過ぎてしまいましたね」
……………………
「えぇ~でもさーマリンワールドだとお店
もあるよ?」
「千咲‥‥食べたいだけでしょ? アイスと
かならウォーターランドにもあるし‥‥」
「アイスだけじゃないもん! 夏スイーツ
だってあるんだから、ゆいだって食べたい
でしょ?」
「お祭りじゃないんだから‥‥それにこっち
は流れるプールがあるから‥‥!」
「はいはい、そんなに急がなくてもプール
は逃げないから」
「そーゆーななみちゃんはどうなの!」
「私はみんなで行けたら何処でもいいから」
「うッ‥‥大人!」
「それに、二人で決めちゃダメでしょ?
華はどこがいいとかあるの?」
「うえっ‥‥!? で、でも私泳げないし‥‥
同じ水なら温泉とかどうです‥‥? はは笑」
手を頭の後ろで擦りながら、華はえへへと言わんばかりに微笑む。
「脚下‥‥」
「論外!」
「ヒドィィッ!?」
「あはは‥‥熱中症で倒れそうだけどなぁ」
「うぅ‥‥聞いたのそっちじゃないですか!
ていうか何で急に藍浦先輩、プール行こう
なんて‥‥」
「ね‥‥、何でだろ‥‥」
「ん? 噂をすればって感じだね」
まるで丸聞こえであったかの様に、部屋のドアからコンコンという音と共に、薄っらと奥の方から楽しげな声が聴こえている。
次第に賑やかさを増すその声の元はもうドアノブを捻っていた。
「おはよ、早速だけどこれ見て!」
「おぉっ何々、こはね」
「例のプールの場所、色々考えてここって
なったから」
挨拶も飛ばす勢いで、右手に持った何かをひらひらとさせながら注目を集める小羽に、七々湊が駆け寄る。
「場所はここ、紫菖蒲スプラッシュタウ
ン!」
「ちょっと! 小羽早いってば!」
「そうだよー! 一年ぽかんとしてるし!」
「勝手に決めちゃった‥‥ごめん笑」
先頭の小羽に続き、来ていなかった他の全員がやって来る。
「お店は!?」
「流れるプールは‥‥!」
「温せ‥‥」
「勿論、今だけのスイーツも流れるプール
もあるから!」
「「おぉ~!!」」
一人を除いて眼を星にして輝かす一年生。
しかし、続けて小羽は言う。
「そして‥‥じゃん!!」
「えっ! それってチケットだったの?」
小羽が右手でちらつかせていたのは、紛れもない、紫菖蒲スプラッシュタウンの入場チケットであった。
これには七々湊も驚きを隠せない。
「あれ、小羽それ4枚くない?」
「そう! 問題はそこなの‥‥!」
「ど、どういうことっ?」
「予定日はまだ打診中だったでしょ?
そしたらこの前、連盟がその候補の日に、
スプラッシュタウンに行ってほしいとか言
いだしたの!」
「そ、そしたら‥‥?」
「連盟ったら! 候補の日だったから一応
サポーターに聞いた方がいいかもって断ろ
うとしたら、チケットあげるからお願い的
な事を言ってきたの!」
「んじゃ何で4枚なのさ」
「それが分かんない‥‥。半分は連盟の言う
仕事をしろって事‥‥じゃない?」
「なにそれ意味分かんないんだけどぉ!!」
これには凛奈も憤慨である。
「最後に仕事が上手くいけばうんたら言っ
てたけど‥‥4枚しか届かなかったから」
「今から決めるってことね」
割って入ってきたみおうからは既にバチバチとしたオーラを感じる。
「でも取り敢えずみなみは確定ね、はい」
「え、何で?」
「行くもんねぇ~誘ったからにはww」
「嬉しいような嬉しくないようなぁ‥‥!」
目尻に雫を垂らして、みなみはそっとチケットを受け取った。
「はーい、じゃー残り3人決めるから!」
「ちょっと待って! マジでやんの!?」
「そ、そーだよ! みんなで行かなきゃ!」
「うん‥‥むごいよ‥‥」
「何かっ、何か方法がぁ‥‥」
「はいうるさーい、じゃーんけーんっ‥‥!」
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