〜燦々の太陽と君を重ねて〜 プールサイド編

第38話 暑い夏には




 「今日の最高気温は34℃となっており‥‥」


 『うわ~エグいなぁ‥‥補習行きたくねぇ』



 もはやラジオ感覚で垂れ流しているテレビに目も向けず、ネクタイをゆっくりと憂いながら結んでいく。

 みーんみんと鳴り止まぬセミの逞しい声に反して、どんどんやる気が失せていく暑い今日。



 「続いてのニュースです。昨日午後未明‥‥」


 「行ってきまーす」


 『行ってらー!』



 妹はこの炎天下の中、部活へ行くらしい。

 確かテニス部だったか‥‥感心するわ。



 「ガードレールや電柱などの激しい破損も

 見られ、警察は事故の可能性‥‥」ピッ


 『‥‥‥‥行くか』



 今からあの視界が歪むような暑さの中で、夏休みにも関わらず学校目がけてチャリを漕ぐ。

 本当に何してんだろうと、俺含めきっとうちの学校の生徒は誰しも思っているだろうに。

 そんな浮かない気持ちに封をして、その表れのようにテレビを切り、そのまま玄関に向かってドアを開く。



 『うぅぅわっ‥‥』

 


 もわぁんと熱気が気持ち悪くゆっくりと玄関に流れ込んでくる。終わったw



 『いってきます‥‥』


 

 誰も居ない家に向かって声をかけ、鍵をかけて背を向ける。

 今のいってきますはいつも通りの意味合いだったことを願っておこう。

 



……………………




 『あァァ~ァ"ッ"!!』



 さすがの暑さにやられたのだろう。奇声を上げながら玄関で倒れ込む。

 無事‥‥終わったよ、1日が。ビシャビシャのシャツと引き換えに。



 『とりあえず‥‥シャワーを‥‥』


 

 そう思って、上がらぬ足を無理矢理して上げた時だった。

 最近はスマホがよく震える。



 『‥‥って、えぇ‥‥!?』



 が、震えたのは俺もだったようだ。その時は声を上げる程に驚愕した。



 『ぷ、プール‥‥ッだって!!?』



 驚愕の情報の送り主は、なんと笹山ちゃんであった。彼女の連絡先を持っていなかったのも相まって余計に驚く。

 彼女の送ってきた文章では‥‥


 

 サポーターさん! 友だち追加しました!

 早速ですけど、今度ゼラニウムのみんなで

 プール行くんですけど一緒にどうですか?



 とのこと。

 

 

 『な‥‥んだと!?』


 

 声を裏返したまま、もう一度彼女から送られた文章を読み返すが、どうやら暑さにやられているわけではないよう。

 健全な高校生からすれば、同級生の異性からプールのお誘いなど、飛び上がってしまうようなもの‥‥。

 どうする‥‥? どう返せば良い‥‥!

 あくまでサポーターだぞ、紳士的に振る舞うべきか‥‥? いや、俺にはそんな余裕が無い。

 現に今も画面をスクロールする指が小刻みにふるふる震えている。

 俺には両脇に女の子を連れて歩いたような経験は無かったから、こんな事を聞かれてしまうと挙動不審が止まらない。



 『あぁ‥‥! 嘘じゃなかろか‥‥!』


 

 信じられないのも当然、今までこんな事は無かったし、自分から誘った事も無かった。

 いくらサポーターとは言え、出会って1ヶ月程度のしかも男をプールに誘うものなのか。

 しかし笹山ちゃんが〝元気系〟なのも事実。彼女の影のないような笑顔からは、人をあざむくような暗闇は感じられなかった。

 というか待てよ‥‥? ゼラニウムの《みんな》とか言ってなかったか‥‥! 

 それすなわち他の子たちも‥‥ということ!?

 


 『ヨシ‥‥ここは焦らず紳士に‥‥な』

 

 

 取り敢えず、震える指先で申し訳程度の文章を電波に乗せて飛ばす。

 


 『はぁ‥‥アツすぎるな‥‥冷たいシャワーで

 も浴びようかな‥‥』


 

 たぶん夏のせいだろう。憂いと共にネクタイをほどきながら、彼女たちの夏の日差しのような笑顔が目に浮かぶ。




……………………




 「あっ! サポーターさんから返信きた」


 「えぇ!? ほんとに送ったのみなみ‥‥?」


 「なんでぇ!? みおうだって言ってきてた

 じゃんか!」

 

 「それはそういうノリかなぁって‥‥。それ

 よりみつ君は何て?」


 「えっと‥‥いつですか? だって」


 「まだ決まったことじゃないけどね、行け

 たらいいな程度だったのに。ていうか‥‥」


 「うん?」


 「この言い方だともう決まってる的な感じ

 じゃない‥‥? しかも出会って1ヶ月くらい

 の他クラスの男子をプールに誘うとか‥‥」


 「本当だ! やばいじゃん、色々‥‥!!

 てか、みおう地雷系なのに異性の扱いちゃん

 としてる‥‥!」


 「私がいったい何に見えてるの、それ‥‥。

 でも本当にヤバいなぁ笑 これだと男遊び

 慣れてる奴みたいじゃん笑」

 

 「知らないよっ! この前みんなが誘えって

 うるさいからやったんじゃんか!

 しかもなんで急にサポーターさん誘うとか

 いう発想が!?」


 「真に受けてた‥‥」ボソ


 「とっ、とにかく‥‥! ちょっと濁してお

 こう‥‥!」


 「よっ、男たらし~」


 「イジるなっ!」




……………………




 「あ、マジでやったんだみなみw」


 「凛どしたの?」


 「あぁ笑 前みなみにとーや君もプールに

 誘えコールやったじゃん?」


 「あぁ~ぁ、あれかぁ笑」


 「なんかガチで誘ったらしいよ笑」


 「えぇ~笑 さすがみなみだ」


 「しかもまだ決めてもないのにね、とーや

 君何て言うかなぁ~笑」


 「律儀だからなぁ満木君、丁重にお断りし

 てそう」


 「分かんないよ~! 年頃の男子じゃん?

 なんか興奮し過ぎて熱くなってそう笑」


 「それで断ったら酷いかもね‥‥笑」


 「まぁいいや、何かあったらみなみに責任

 取らせよ」


 「こればっかりはフォローしようがない‥‥」




……………………




 『んぶえっくしょッ!! ズズ‥‥』



 そんなに冷たいシャワーだったかな‥‥?

 しかも笹山ちゃんからの返信、何だよ。まだ細かく決めてないからまた連絡しますだって。

 というかプールに誘われた事より‥‥笹山ちゃんがそういうタイプの人間だったというのが驚きだ‥‥。

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