第33話 悲しさ知らず





 「私は4日もの間気を失っていましたの‥‥

 今でもあの時の傷は治りきっていません‥‥」



 そう言って金条さんは高貴な制服の裾をめくってその腕を出した。

 


 『こっ‥‥これは‥‥』


 

 彼女の腕にはまだうっすらと線が入ったような傷痕が重なり合って残っている。



 「もう一年は経つといいますのに、不思議

 と綺麗に治りませんの‥‥。単なる深い傷と

 は思えませんわ‥‥。」 



 マジかよ‥‥一年近く月日が経っているというのに傷跡が消えていないのか。



 「それに‥‥きっとこの身体が、あの日の無

 力な自分を‥‥ただ地に伏すだけだった自分

 を忘れまいと、目に見えるよう刻み込めて

 いるのでしょう」



 そう言った金条の目は、うっすらと何かを睨み付けるような、決意しているような目をしていた。


 

 「だから‥‥同じ魔法少女として、貴女たちに

 は悲しい思いをして欲しくないのです。」

 

 『なるほど‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥って‥‥!?』



 話しの流れでみんなの方を向いた俺は目を疑った。いや、目が飛び出た。

 爪を弄る八重さん、スマホを弄る藍浦ちゃん、目が半開きで首が傾いている小栗ちゃん。

 じゃれ合っている笹山ちゃんと宇江原ちゃん、さっきのグミを食べながら話し込むみおうちゃんと瀬々木ちゃん。

 おい!! 人が話してんだぞ!? 何してんだこの子たちは!?

 真面目に聞いてたの白石さんぐらいだぞ‥‥?



 「上には上がいますから、あの時のように。

 今の私も偉い顔は出来ないのですけれどね」


 

 いやいや、両サイドに黒服のゴツい人が居てリムジン乗って来る人は偉い顔するやろ。

 微笑ましいこの人もこの人で、聞き流されてると分かってないのかい‥‥こっちは冷や汗が止まらんのだよ。

 


 「あら? 時間のようですわ。貴女たち、

 行きますのよ」


 「「「は~い!!」」」


 『ハイぃッ‥‥!!』



 俺の冷や汗をぬぐうように金条さんの携帯に連絡が来る。もはや数名返事してない奴らがおったけども、金条さんは先の話を真剣にしていたせいか、気にしてないのか気付いていないのか‥‥。

 どちらにせよ、こんな失礼バレたらしまいだ。





……………………




 「サポーターさん、なんか慣れてきてますよ

 ね! 最初は迷子のヒヨコみたいだったの

 に!」


 『今でもヒョっ子だよ‥‥さっきから心臓が

 重いんだから』


 「もー何でですか! まだまだですね~!」

 「ざこサポーターw 心臓よわよわ」

 「とーや君マジ猫背えぐいよw」



 あんた達のせいだよ、あんた達の‥‥。

 


 「てゆーか、金条さんひどいよ~」

 「先行ってるて何ぃ~もうマヂでぇ」

 「あ、あの人何の話してましたっけ‥‥?」



 まぁ確かに近いとは言え、あの人リムジンで行きやがっ‥‥行ってたからな。

 あともうやる気無いやんこの子ら、マジで。



 「この辺だよね‥‥金条さん居ないよ‥‥?」

 「あれ~おかしいな、満木君道合ってる?」


 『はい‥‥このへ‥‥うわっ!』



 噂をすれば何とやら、歩き着いた公園の木々生い茂る中に、べたっと黒々と張り付いているようなものが、それに‥‥



 「さぁ、貴女達の力を見せて下さいまし?」


 『かっ、金条さん!』



 横からふらっと金条さんは現れた。

 しかもこの人、戦う気無いな‥‥ということは



 「ウチらの実力見せよ!」

 「あんなの朝飯前です!」

 「もう昼過ぎだけどね‥‥」



 よし‥‥俺も、スマホでライセンスに付いてるQRで認証出来るようだからな‥‥‥‥こうか?

 俺は次々とメンバーのみんなの認証をしていく。



 「ありがとう満木君」

 「桃くんありがと!!」



 色とりどりの光をその身にまとい、彼女たちも次々と穢に向かっていく。



 「ふふ‥‥あのサポーター様も携帯認証をすぐ

 に覚えてくれましたわね。それにしても何だ

 かあの方、とても若々しいですわね‥‥」


 「はぁーっ!!」


 「おっと‥‥そんな場合ではありませんでした

 わね、ちゃんと見ておきませんと」


 「くっ‥‥こいつマヂすばしっこい‥‥!」


 『みおうちゃん‥‥!!』



 あの穢、大きさがそこまでないせいか、彼女たちの攻撃のタイミングに合わせて何度も避けてるな‥‥。



 「八重桜‥‥」

 「待って凛、金条さんのこと忘れてる?」

 「あ‥‥やば、ワンチャンあるかも、ナイス

 七奈湊!」


 「じゃあ私が‥‥! 華ぁ!」

 「はっ、はいっ!! 投与状態‥‥あっ!

 ちょっとぉ~!?」


 『やべぇ! あいつ逃げるぞ!!』

 


 穢はそのスピードを活かし、奥へ奥へと飛び跳ねていく。不味い‥‥ここは近くに住宅もあるし‥‥。



 「逃がさないよ~! キューティー・サンダ

 ー!!」


 「グぎゅぅうっ‥‥!」


 「ナイス‥‥千咲‥‥!」


 「残りは私が~♡ いくよぉ‥‥!」



 金条さんを被害範囲から外し、掲げた藍浦ちゃんのステッキは先から光を溜め込む。



 「リジェクション~!!」



 彼女の掛け声と共に、その光は一直線に落ち葉を散らしながら穢れに命中する。



 「ギゅうぅぅぅうツ!!」


 「ざぁ~こ♡」


 『おおっ‥‥!』


 

 穢は断末魔を上げながら、どろどろとその形を崩していく。

 これをチームプレーと言うのだろうな‥‥!



 「あら‥‥予想以上に出来る人たちですわね

 ですが、まだ客人が居るようでしてよ?」


 『なっ‥‥みんな! まだ終わってない!!』


 「おぉ? 何だぁテメェらは‥‥?」


 「ウソっ! マジ?」

 「まだまだこれからだよ!!」

 「ひぎゃあっ! うそぉ~!?」



 何だアイツ‥‥! 人間の男? 穢だってんのか? 



 「さぁ、これからですわね‥‥皆様。

 貴女方の実力、しかと見させて頂きますわ」

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