第16話 サポーターなりに



 

 

 『よーし、みんなそろそろ行ける~?』


  …………


 ありゃりゃ?

 いつも通りの黄藤スポーツセンター、トレーニング室。俺の問いかけに対し反応する者はおらず、外からかすかに降りしきる雨の音だけが響いている。


 「やばーい‥‥まぢで死ぬ‥‥。」


 『どした!?』


 「づがれだ~!!」


 『うおっ‥!?』


 へにゃりと倒れ込む彼女の名はみおう。

 〝地雷系〟魔法少女らしいが俺自身あまり関わりが無く、正直なところ彼女のことはよく分かっていない。

 しかし、俺はサポーター‥‥もっとみんなの事を知っておくべきではないだろうか!


 『どうした‥‥? どこか悪いのか?』


 「ううん、別に‥‥最近疲れてて、今日は特

 に。まぢぴえん‥‥。」


 『そう‥なのね‥。』


 良かった‥‥特に調子が悪い訳ではないようだ。そうだよな、だって平日だもの。学校終わってからだもんなぁ‥‥。


 「うぅーん‥帰りたい‥‥つらたん‥‥。」

 

 「そーだそーだ! もう休みにしよう!」


 『なんでぇ!?』


 突然、部屋のドアが勢いよく空き、大声と共に笹山ちゃんが入場してきた。

 なんで居るんだよ!?


 『あの‥‥笹山ちゃん? 今日は来ないんじ

 ゃ‥‥。』


 「忘れ物したんで取りに来てました!

 ついでに寄ってきたんです!」


 もう俺がいちいち聞き回って表まで作ってみんなの予定調べたのに‥‥意味ないやん。


 「あー! みなみぃ~! もう動けないんだ

 けどぉ~!!」


 「どしたのみおう!?」

 

 「もー疲れたぁ~! なのにみつ君、心

 配もしてくれないの!! まぢ病む‥‥。」


 「ハッ‥! そうなんですかサポーターさ

 ん!?」


 『いやいや!! 決してそういう訳では!』


 「どーせ私のことなんて‥‥ううっ‥‥。」


 分かりやすく崩れ落ちるみおうちゃん。

 え? なにこれ?


 「ひど~い!! サポーターさんが泣かせ

 た~!! どうせ調子悪くないから良かっ

 たとか思ってるんだぁー!」


 「‥‥‥‥ww」プルプル


 『ない! 違う! そんなんじゃない!』


 絶対ウソ泣きだろ! もう笑いかけてるやん!


 「ただいま‥‥ってうええっ!?」


 あかんタイミングでお手洗いに行ってた小栗ちゃんが帰ってきた。

 

 『違う! これは違うんだッ小栗ちゃん!』


 そして引きつった顔で一言‥‥


 「えぇ‥‥サポーターさんはそういう人だった

 んですかぁ‥‥。」



 ‥‥‥‥‥‥‥‥ぴえん。




……………………

 


 

 『はい‥今日皆さんに集まっていただいたの

 は‥‥。』

 

 今日は土曜日、ここはいつぞやの会議室。

 今、俺は八人の少女らの前で話をしている。

 

 「なんか満木君が改まってる‥。」

 「ぶーぶー! まぢ革命求ム!!」

 「あぁ‥なんと哀れなサポーターさん‥!」

 「何したの‥‥。」

 

 そう、チーム・ゼラニウムの魔法少女たち。


 「あわわ‥‥サポーターさん、やっぱり‥‥。」

 「なんかとーや君が泣かせたってw」

 「えぇー!! 本当に? 怖ぁ‥‥。」

 「最低♡ 最悪♡ サポーター失格~♡」


 『たがら! それは違うッ!』


 俺の信頼とイメージが崩れてゆく音がするよ‥。


 「で? どしたのとーや君?」


 『えー、このたびは‥‥サポーターにも関わら

 ず、そぐわしくない行為を‥‥じゃなくて!!』


 なんで謝罪会見みたいになってんだ!

 俺が言いたいのはこういうことじゃなくてだな‥‥。


 『みんな‥‥正直‥‥大変でしょう?』


 「「「えぇ?」」」


 数名は腑抜けたように聞き返した。


 『ほら‥‥学校もある訳だし、とくに白石さん

 や八重さんとか受験生だし! それに~疲れ

 ちゃうだろ? 各々、やりたい事もあるだろ

 うし‥‥。』


 「え‥まぁ。」


 不思議そうな声の白石さん。


 『だから‥‥土日祝日や長期休みはオフにしな

 いか?』


 そう、俺は今だいぶ凄いことを提案している。


 「えっ‥じゃあ練習とかどうするの‥?」


 今度は瀬々木ちゃんだ。


 『それは大丈夫‥! こんなことを言ったま

 でだ‥‥平日はずっと俺がここで待ってい

 る、だから来れる人が来るってスタイル

 にするってのはどうですか‥‥。』


 「でもっ‥! そしたら今度はサポーターさ

 んが大変なんじゃあ‥‥?」


 ありがとう小栗ちゃん‥‥だが‥‥。


 『大丈夫! だって俺、暇だから‥‥!』


  ………………。


 しーんと静まり返ってしまった。

 そりゃそうか、サポーターとは言え急にこんな事言い出して、自分勝手だろう。


 『思ったんだ‥‥、俺は何にも出来てない。

 だから‥‥! せめてみんなにらくして欲しい。

 少しでも君らの生活に自由を増やしたい、そ

 れが今の俺にできる事だと思ったんだ‥‥!』


 そうだ、きっかけはみおうちゃんが疲れてたからだけど。

 帰ってからも、その次の日のトレーニングの時にもずっと考えていた。

 みんなだって俺と同じ学生、俺でさえ普通に学校行くだけで疲れてしまう。

 この子たちはきっと忙しい今を生きている。

 だから‥‥もっと苦労を減らしてあげたかった。


 『‥‥どうですか。』


  ………………。


 「ふっ‥‥やっぱり律儀だ。」


 少し間が空いて、白石が口を開く。

 

 「ほんとそれw とーや君マジメっしょ?」


 「あれ‥‥みつ君、いいの?」


 八重さん‥‥、みおうちゃん‥‥。


 「いいんですか? やっぱりサポーターさん

 も大変じゃないですか?」


 「そうだよ‥‥毎日来るなんて大変だと思うけ

 ど?」


 笹山ちゃん‥‥、宇江原ちゃん‥‥、でも‥‥!


 『大丈夫‥‥。君らの苦労に比べればこんな

 のかゆくもない。だから‥‥』


 「いいんじゃな~い、サポーターもそう言っ

 てるみたいだしぃ~。」


 「そ、そしたら余裕も持てますしぃ‥‥。」


 「うん‥‥考えてくれて嬉しい‥‥。」


 藍浦ちゃん‥‥、小栗ちゃん‥‥、瀬々木ちゃん‥‥。


 「んじゃ、そうしよっか。 みんな賛成?」


 「「OK~!!」」


 白石さんがみんなの賛成を確認してくれた。

 みんな‥‥! こんな俺の提案を‥‥。


 「だってさ、満木君? さて今日はどうする

 の?」


 白石さんがこちらを向くと、みんなの視線もこちらに集中する。

 今日は土曜日、よし‥‥。


 『はい解散! みんなゆっくり休んでね!

 俺も帰って寝るわ~!!』


 決断と共に荷物をまとめる。


 「ふふっ‥‥なんか満木君らしい。」

 「私は自主トレします!」

 「元気だ‥‥。」

 「とーや君も走れよ~!」


 『いやっw 勘弁です!』


 「小栗ちゃーん、この後コンビニ行こー!」

 「ふえっ! 千咲ちゃん? う、うん!」

 「まぢ!? 私も~!」

 「行く行く~♡」

 

 いいな‥‥きっとこういう幸せだってあるはずだ。

 そうそう、まだ俺らは学生。こう在るべきだよ。


 「なに? コンビニ? ウチも~!」

 「じゃあみんなで行こうよ。」

 「走って行こーう!」

 「ほんとに元気だ‥‥!」


 みんな‥‥仲がいいんだな。よし、じゃあ帰ろっと‥‥。

 そう思い、歩き出した時。


 「あれ? みつ君も行こうよ。」


 『うえっ?』


 不意にみおうちゃんの声に引き留められ、思わず振り返った。


 『な、なんで?』


 「なんでって‥‥んもう‥‥!」


 じれったく、彼女の手が俺の手を引き寄せる。さすがに少し気恥ずかしい。


 『あぁ! えっ、ちょ!』


 「ありがとね‥‥みつ君‥‥。」


 顔は見えなかった、けれど。

 彼女の口からそう聞こえた気がした。

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