第18話 潜ムモノ



 とある日曜日の昼下がり‥‥。

 ボールを追いかけるちびっこ達や休憩所でお弁当を食べる家族連れ、ジョギングをしている年配の方々で賑わいを見せているここは、黄藤町のそこそこ大きな公園だ。

 まだまだ6月半ば、何かするにはもってこいの場所であろう。

 そして、ここにもしようとしている者が二人‥‥‥‥。



 「ふわぁ~っ‥‥‥ねぇ、みつ君? ほんとに

 ここで合ってる?」


 『え‥? あぁ‥‥ちゃんと言われた通りに来

 たんだけどね‥‥。』


 「あーあ‥‥私だけなんだぁ‥‥さみし。」


 『うーん、まだ来てないだけかも?』


 「‥‥そぉ、じゃあ何かあったら教えてね。」



 そう言って画面バキバキのスマホを弄り始めた彼女は〝地雷系〟魔法少女、みおう。

 持っているバック‥‥? らしきものはピンクに黒のライン、きらきらとした装飾が施されており、いかにもと言った感じです。



 『‥‥‥‥はーい。』


 「‥‥‥‥‥‥‥‥。」

 


 気まずいなぁ‥‥。

 まだまだそんな仲じゃあないから、仕方ないけれど。


 

 「あっ、みなみから連絡きた。」


 『お? なんて?』


 「もうすぐ着きます‥‥だってぇ。」


 『そうなんだ~。』


 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」


 『‥‥‥‥‥‥‥‥‥。』



 うーん‥‥やっぱり会話のラリーが続かない。

 まぁ、こういうのは少しずつだな‥‥。



 『ねぇ、何か好きなものってある?』



 いや、コミュニケーションは大切。

 自分から行くべきだ!



 「う~ん‥‥こぉいうの。」



 そう言って彼女はきらきらバックから長細いピンクのアルミ缶を取り出した。

 カシュっと炭酸の抜ける音と共に、彼女はストローを缶に通す。

 そうだね、これは‥‥人気のエナジードリンクだね‥‥。いかにもそっち系の人が飲んでそうなやつ。

 てかストロー要る? なんかリボン付きで飲み辛そうだよ?



 「‥‥‥‥‥ゴク。」


 『‥‥‥‥。』



 すんごいチマチマ飲むなぁ! それ、飲めてんの? 絶対ストローの要らんて‥‥。

 と言うかエナジードリンクが好きなのかな?

 味は炭酸だし、何か美味しいとはおもうんだけど‥‥こう、体に悪いとか聞くしなぁ。

 

 

 『‥‥‥‥。』 タプタプ

 


 おぉ、地雷系 エナドリ で検索したらいっぱい出てきたわ。

 そういう美学‥‥なのかな?

 ふと彼女に目を向けたが、いわゆる地雷系な見た目ではない。

 髪はちょっと長め? グレーのパーカーにスニーカー、それに膝丈くらいのズボン。いくら持ち物やらがそれっぽくても、そんな風には見えないよなぁ。

 



 「おーい! みおう! サポーターさー

 ん!」

 

 「あ、来たぁ~。」



 ムッ? 俺が変な疑問を抱いている間に‥‥

篠山ちゃんが来ておったわ。

 


 『こんちは。』

 

 「あ、こんにちわ!」


 『来てくれたんだ、ありがとうね。』


 「はい! そうですね~もうほかは来れないっ

 ぽいですし。」

 

 「そぉそぉ、多分もうみんな忙しくて。」


 「なんか人も少なくていてたからね~。」


 『えぇ? そんなに人いなかった?』

 


 おかしいな‥‥日曜の昼だし、けっこう賑わいを見せていたと思うけど。



 「ほんとに?」


 「うん、だ~れも居なかったよ? 今もそう

 じゃない?」


 『えっ、本当だ‥‥。いつの間に‥‥?』



 確かに、さっきまでこの公園にいた人々の姿は見当たらない。

 誰もいない公園に、寂しさだけが置き去りにされている。



 「まぢ? ちゃんと当たってたのかも。みつ

 君、これ‥‥」


 「私も! お願いします!」


 

 二人はおもむろにライセンスを取り出し、持っとけと言わんばかりに俺に手渡してくる。

 とりあえず受け取ってはおくけど‥‥。



 『うえっ? あぁ、ライセンスね。いや‥‥な

 んで?』


 「なんでって‥‥まぁ、勘?」


 「近くに居るかもね‥‥!」



 居る‥‥? そうか、けがれ‥‥?

 やはり連盟からの連絡は正しかったっぽいが、まだ確定したわけじゃない。

 そう思い、ぐるっと辺りを見回す。



 「う~ん‥‥単に人いないだけかなぁ。」



 ふと、少し前に俺の背中に怪我を負わせた、あの化物のことを思い出した。瀬々木ちゃんのおかげで今ではすっかり綺麗に治ったけれど。

 墨汁を垂らしたようにどす黒く、不規則な体躯たいくに無数の手足と

 きっとあれも彼女たちの言う穢だったんだろう‥‥。



 『‥‥‥‥‥‥‥‥‥。』



 目を凝らして似たようなビジュアルを探したが、そんなもの見当たらない。

 諦めかけて、首のりをほぐす様に回した瞬間‥‥。

 

 

 「ねぇ、みおうちゃん‥‥あれ‥‥!」


 「‥‥うん、行こぉ。」



 何か言っとるなあ‥‥。

 ぐりぐりと首を回していたもので、ちょっと何を言ってるのか分からん。


 

 「みつ君! お願いね。」


 「いってきまーす!」


 『あぁ! ちょっとぉ!?』



 彼女たちは一直線に走り出す。

 いまだ状況を理解りかい出来できていない俺は、とりあえず彼女らの目線の先に目を向けた。



 『‥‥っ!』



 二人が走って向かった先に見えたのは、こんなにのどかな公園には相応ふさわしくない風貌であった。

 どろどろと黒くにごり、知り得る生き物のどれにも当てはまらないような形。

 大きなまぶたを細く開き、その斜め左下辺りには小さながギョロっと見開いている。

 そうか、あれが‥‥穢。



 『頼む‥‥二人とも‥‥!』



 本能的に、ゆっくりだが体が動いてくれた。

 勢いよく、二人分のライセンスを承認して、彼女たちの姿を見上げなおす。


 

  [ 承認されました ]



 二人は緑と青紫の光をまとい、化物へとさらに速度を上げて向かっていく。

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