第19話 チームワークとはこのこと




  ぽわぁ‥‥



 「‥‥! きたっ!」


 「みつ君‥‥、なぃす‥‥。」


 「これで闘える!」


 「うん‥‥速くいこ!」

 



……………………




 『やべっ、俺も行かなくちゃ‥‥!』



 いくらサポーター就任と言えど、実際の所はほとんど分かりきっていない。

 今見えたのは、きっと彼女たちの言う穢‥‥。

今更ながら、あんなモノは非現実的。

 ましてや彼女たちはあんなモノと戦おうとまでしているのだが‥‥、分からないものは、自分の目で確かめる他ない。

 俺も足早に穢の方へと向かっていく。



……………………



 『みおうちゃん‥‥! 笹山ちゃん‥‥!』



 そこに居た二人の姿は、見慣れないものであった。

 笹山ちゃんは緑のジャージに短パンを模した、ちょっぴり可愛らしい装飾を施した姿をしている。

 いかにも運動が出来そうなその姿は〝元気〟を連想させるものであり、いつの日か物陰から見ていたときと同じ衣装と思われる。

 そして、みおうちゃん‥‥そうか、なるほど!

彼女は薄い青紫のヒラヒラが付いた衣装を着ていた。

 黒のリボンに黒のスカート、そして黒の厚底ブーツ。更には先まで短かった髪も何故か長く伸びており、束ねて二つに結んだツインテールが完成していた。

 


 「サポーターさん! そこで見ててください 

 ねっ!」


 「‥‥‥‥‥」



 笹山ちゃんの言葉と共に、みおうちゃんから手のひらを向けられた。

 意味はすぐに分かる、危ないと伝えてくれたんだろう。

 俺は未だに何の理解も及んでいない常人だ。

サポーターの身だけれども‥‥ここは彼女たちの指示に従うべきだろうな。



 「‥‥グフ‥‥‥‥ヴぅひぃェ?」



 しかし、こちらにも見慣れない姿有り。

 これが穢の姿‥‥。



 「私からっ‥‥!」


 「‥‥フひぃいい!」


 「がんばれ! みおう~!」



 みおうちゃんは腰の横から何かを取り出し、構えつつ穢に向かっていく。

 対する穢だが、にたりと無駄に歯並びのよい口角を上げ、その場でこちらを見つめ続けている。


 

 「はあっ‥‥!」

 

 「ううううぅぅうんん!?」



 声と共に彼女は手を横に振りかざし、持っていたモノで穢に向かって攻撃を仕掛けた。

 穢のどうは、彼女の手の動きと同じように切り裂け、ビシャッ! という音と共に、少し緑がかった黒い体液が地面に飛び散っている。


 

 「くっ‥‥見かけよりも固いんだけどぉ‥‥。」



 大怪我を負わされた穢は動きが俊敏になり、暴れようとする。

 すかさずみおうちゃんは後ろに跳び、立て直す。

 今の彼女の跳躍力は凄かった。感覚だけど、後ろ飛びにも関わらず、同級生サッカー部のやつの幅跳びよりも跳んでいたように見えた。


 

 「今度は私っ!」



 すると今度はスタートが切られたかのように笹山ちゃんが緑のジャージをひらつかせ、穢の方へと飛び出した。



 「ぐぅううううぅんん!!」


 

 しかし、穢もその体躯に似合わぬ細長い一本の腕を縦に振り回して対抗する。

 あんなスピードで振り回してるわけだ、当たれば大怪我じゃ済まないはず‥‥。

 まずい‥‥当たるぞ!


 

 「よっ‥‥ほっ‥‥!」


 

 と思われたが、笹山ちゃんはいとも簡単に横にすらりと躱すと、再び距離を詰めて穢に接近する。

 彼女の穢との距離は、もはや目の前。



 「はあっ!」



 先のみおうちゃんが付けた傷口に向かって、彼女は腕を振りかざす。

 


 「ハートフル・ショック!」

 

 

  バシンッッ!!



 「うブぅぐふぶふうう!!!」



  グチゃ‥‥ぴとッ‥‥ポトッ‥‥。



 『あ‥‥あぁ‥‥すごい‥‥。』



 笹山ちゃんの強力な鉄拳技がクリーンヒットした。と、同時に穢の体液が傷口から溢れ出し、ポタポタと流れ落ちてゆく。



 「ふぅーう、よしっ! どんなもんです!」


 

 彼女は手に付いた体液をぱっぱっと振り払いながら、振り向いてこちらに笑顔で向かってくる。



 「ぐふぶきひひぃひいぃ!?」



 彼女の一撃を受けた穢は横に倒れ、もう長くないことがよく分かる。

 恐らく彼女の一撃は決定打だったのだろう。

うめきき声を上げながら、のたうち回っている。きっとすぐにでも絶命するだろう。

 と、思われた次の瞬間。



 「みなみ! 危ないっ!」


 「えっ‥‥?」



 突然にみおうちゃんの声が響く。

 みおうちゃんは真顔になって不思議そうに振り返る。

 あぁ‥‥ダメだ、俺にだって分かる。

 


 『笹山ちゃん! 危ないっ!』


 

 あの穢の長い長い腕が、彼女の背中に向かって伸びていく。

 その速さは凄まじいもので、命を刈り取るには有り余る程であった。

 え? あいつ‥‥生きていた‥‥?



 「きゃっ‥‥!」


 

 笹山ちゃんは振り向くと、反射的に小さな悲鳴を上げた。

 距離にして、もう1mも無いだろう。

 


 『く‥‥そっ‥‥!』



 急いで手を、足を伸ばした。

 けれど、その速さではあまりに遠すぎた。

 ダメだ‥‥ダメだ! 絶命にダメだ。そんなのサポーターとして許されない‥‥‥‥。



 「みなみっー!」



  


  ヒュッ‥‥‥‥ザシュッ!




 

 「ウグゥっ!?」

 


 

 その刹那、鋭い何かが突き刺さると共に、笹山ちゃんに向かって伸びた腕が視界から消えた。いや‥‥。



 「はあっ!」 



 その腕が千切れると共に、代わりに視界に入

ってきたのは‥‥



 『し、白石さん‥‥!?』


 「ななみ!」

 「七奈湊先輩!?」

 


 何故‥‥なぜ白石さんが‥‥。

 と、思うのもつかの間。白石さんは手に持つ短刀を握り、狙い定め、投擲とうてきの体勢を取った。


 

 「はーあっ!」




  ビシュッ‥‥‥‥ザグッ!!




 「ヴぐぅ‥‥う‥‥。」




 みおうちゃんに付けられ、笹山ちゃんに広げられた傷口に、彼女の短刀が真っ直ぐに突き刺さる。

 その威力は派手さこそ無かったが、確実にヤツの芯を捉えていた。

 その証拠に、白石さんの投げた短刀は穢の体を貫いている。



 「もう大丈夫かな‥‥。」



 彼女の言う通り、ヤツの動きは止まり、その体はどろどろと形を崩していく。

 

 

 台詞とともに髪を耳に掛ける仕草。

 そんな〝お姉さん〟の余裕ある姿と確かな実力に、俺は尊敬と感謝を抱かずにはいられなかった。

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