第20話 お姉さんの余裕





 『うおぉ‥‥すげ‥‥。』



 白石さんの一撃により、あの穢は確実に絶命した。証拠に、ヤツの動きは鎮まり、更には緑黒い体がどろどろと溶解し始めている。

 


 「ふぅ‥‥みんな大丈夫だった? ケガとか無

 い?」


 「ななみ‥‥ナイスぅ~!」


 「ひゃー! 危なかったぁぁあ! ありがと

 うございますー!」


 「良かった、満木君もありがとう。」


 『あ、ハイ‥‥! いえ‥‥こちらこそ‥‥。』


 

 微笑みながらこちらに視線を送る白石さん。

 焦り過ぎて動揺してるのはバレてないだろうか‥‥。



 「ふふっ! やっぱり律儀だね。」


 

 軽く丸めた左手を口元に当て、目を細めて笑う彼女の姿は、高校2年生の男子にはあまりにも魅力的で、ついうっとりしてしまった。

 あぁ‥‥年上の先輩って‥‥すごく、なんだろう‥‥美しい!

 

 

 「んじゃあ、帰ろっか。」

 

 「れつごー」

 「行きましょう!」

 


 あまりの秀麗さに、ぼーっとしていたが、突然その姿は視界から姿を消してしまった。

 そうか、用が済んだらもう帰らないと‥‥。


 

 「どしたの~満木君、遅いぞぉ~!

 早くしないと置いてくよ~?」


 「そーだそーだ~。」


 「走って帰りましょうよ!」


 『さーせん! すぐ行きます!』



 白石さんが今度はいたずらな表情で微笑んだ。さっきとは赴きの違うその笑顔に、またしても胸にかすめるものを感じてしまった、高2の春の終わりだった。





ーーーーーーーー





 「お兄ちゃん何か今日疲れてる?」

 

 『あー、うん‥‥そかも。』


 「やっぱり例のバイト? バレーチームのサ

 ポーターだっけ。」


 『いやぁ‥‥そんなキツくはないで‥‥。』


 「ふーん」


 

 あの後、結局は笹山ちゃんの提案で走って帰ることになってしまいました。

 もちろんビリで三人から笑われるを越して心配されてしもうたわ‥‥。

 正直、サポーターの仕事はと言うと、まだ初心者だからなのか大した事はしておらず、自分の存在価値を疑うレベルである。

 実際、穢と闘うのは彼女達の役目なのか、俺は何にも目立った活躍はしてない。次はもっと仕事がないか聞いてみないと‥‥。



 「お兄ちゃん、お母さんがPTAのプリント出

 せってキレ気味だったよ?」


 『あーまじか! 忘れとったわ‥‥後で出しと

 くわ‥‥。』



 そうかぁ‥‥忘れてたな。多分3日も前のやつやん。

 てか、急に眠くなってきたな‥‥。我が家の天使の顔が霞んで見える程だった。

 そう思って自室に戻り、課題無視の眠りを決め込もうとした時の事だ。



  ブブー



 ポケットのスマホが鳴った。

 眠いのでちょっとイラつきながら画面を確認すると、マインの通知で送り主は‥‥



 『ええ? 白石さん?』



 驚いた。年上の先輩からのマインということで、小さな歓喜と交代で眠気がどこかへ消えてしまった。

 なんだろ‥‥なんかすげぇワクワクするよ‥‥。



  [勝手に追加ごめんね、満木君、よろしく

  ~!]



 あ、そっか。まだ友達追加してなかった。



 『えーと、こういうのは第一印象が‥‥』



  [白石さんですね! 追加ありがとうござ

  います!]

  [今日は助かりました]


 

 第四印象くらいのコメントを打ち込み、最後にはアザラシのキャラクターのイラストで「感謝」と書かれたスタンプも送った。いいんじゃない?

 女の先輩とラインなんて初めてかもしれん!

 部活やってないからそういう機会も無いんだよ。

 胸の衝動を押えて無言でスマホをチラチラ確認していると、返信が来た。



  [いえいえ~こちらこそよろしくお願いい

  たします]


 

 というコメントと共に頭を下げたハムスターのシュールなスタンプも送られてきた。

 なんだか遊ばれてる感もあって悪くない‥‥!

 こういうところからもお姉さん感がかんじられるよ、すげぇ。



 その日はチキってそれ以上返信せずに、画面を閉じ、胸に広がる幸福を抱えたまま、風呂に入らないまま寝ていた。寝てしまった。

 ガチめの遅刻を決めそうになったっていうのは、また今度のお話‥‥。


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