第30話 悲しさが脳裏に




 『それって‥‥どういう』



 あまりにも暗い雰囲気で話し始めたものだから、気になって聞いてしまった。



 「そうですわね‥‥一応、お話しておきます

 わ‥‥貴女たちもそのような状況に出くわす

 可能性がありますものね‥‥」



 金条さんは俯いて、しっとりと暗い声で語り始めたのだった。





ーーーーーーーー

ーーーー

ーー




 薄黒い空模様から、ぽつぽつと雨の滴る日。

 その日、わたくしは連盟のお偉い様へお会いする機会となっていました。

 まだまだ魔法少女を始めて一年余りのわたくしは、送迎中の車内で髪をかしていました。



 「綾音あやね様、もう10分程で到着致します。」


 「ご苦労様、しかし副会長様はいったい何

 の為に私を呼び出しますの‥‥?」


 「失礼ながら、我々には呼び出しの連絡の

 み伝えられており‥‥何も知らされていない

 状況となっておりまして‥‥」


 「そうですか、何事もなければ良いのです

 けれど‥‥」


 

 私は家柄の影響もあり、もうすぐで中堅クラスの魔法少女として認められる立ち位置に居たのです。

 車内の静けさの中、私は不安と不思議を胸に抱えて到着を待っていた‥‥その時でした。

 ポケットに忍ばせていたスマホが震える感覚が体に伝わりました。

 と、同時に、不安を極限まで引き上げるような警報音が車内に響きます。



 「な‥‥、何事ですの‥‥!」



 震えるスマホの電源を灯し、画面を凝視すると、通知には警告のしるしが在りました。

 震える手でそのマークに降れると、パッと画面は赤色に染まり、耳障りな警報音が更に強まりました。

 


 「綾音様! 如何なさいましたか‥‥!」


 「こっ‥‥これは何ですの‥‥!」



 その画面が映していたのは、地図と文字で記された場所でした。加えて、画面上部には‥‥




 [全魔法少女へ勧告します。

 付近の魔法少女は以下の場所への立ち入り

 を禁止します。近くに位置する魔法少女は

 早急に避難してください。]



 と、赤く点滅する場所が示されていました。

 


 「少し車を停めて下さいまし‥‥!」


 「承知致しました‥‥」


 

 動揺を隠せない私は車を停めるように言い、

記された場所を従者と共に確認します。

 動きの止まった車内でも、まだ警報音は鳴り

止みません。

 


 「綾音様! この場所‥‥ここから数十分の距

 離でございます‥‥!」


 「これは付近の魔法少女にのみ警告された情

 報ですわね‥‥一般人には関係の無いものでし

 ょうが、何か問題が起こったとしか考えられ

 ませんわね‥‥」



 このような事態は初めての経験でした、ですが何度か連盟の方々や同業の魔法少女たちとお会いしましたが、赤色の警告は〝最注意危険情報〟と言う人が多く居ました。

 私はその記憶の影響か、更に脈が上がるのを感じます。



 「何故でしょうか‥‥魔法少女に警告しておき

 ながら、魔法少女の立ち入り禁止とは‥‥」


 「連盟からの警告ですものね‥‥何か不都合

 が‥‥? いえ、それならこんな大層な警告

 などは‥‥」

 


 靄を抱えたままでいた私たちの耳に、今度は違う音が響きます。



 「着信‥‥? なっ‥‥綾音様! 連盟からでご

 ざいます‥‥!」


 「分かりました、貸して下さる?」



 同タイミングでのこの着信、私は何か関連があると信じて電話に出ました。



 「もしもし‥‥如何なさいまして?」

 

 

 私は耳を澄ましてその声を待ちました。



 「もしもし‥‥金条綾音様でしょうか」


 「はい‥‥金条ですわ」



 優しさの伝わる若い女性の声。

 しかし、彼女の告げた内容は生易しいものではありませんでした。



 「急用ですので端的に申し上げます。

 副会長、布刀玉に替わり連絡します。」


 「ふ、副‥‥会長!」


 「副会長の判断により、貴女の危険クラスの

 穢の撃退への協力を願います。」


 「何故‥‥! 私でも宜しいのですか?」


 「はい、副会長の判断で貴女には一定の実力

 が有ると判断されました。至急、警報に示さ

 れた場所へ向かって頂けると幸いです。」


 「えぇ‥‥承知致しましたわ‥‥」


 「ご健闘を‥‥お祈りしております」



 そこで連盟からの着信は絶えました‥‥。

 


 「綾音様ッ! 本当に行かれるのですか!」


 「えぇ、この場所まで送っ下さいまし‥‥

 尽くせる速さの限りで‥‥!」


 「り、了解しました!!」



 私は急いで従者に車を走らせ、警告のあった場所へと向かいます。

 どくどくと脈がまた更に激しくなり、不安と共に膨れていっていました。


 

 「一旦何だと言うのでしょう‥‥彼女にも連

 絡を‥‥」



 私は一応、1人の魔法少女の友人に連絡を取りました。その友人は私と同じ程度の実力で、同じく連盟からその場所へと向かうように指示されたようでした。

 今思えば、私もその友人も、連盟の指示を拒否していれば良かったのかも知れません。


  

 「副会長様も、この事態でお会いすること

 も出来ないのでしょう‥‥一体、どれ程の脅威

 と成り得るかしら‥‥」


 

 私はスマホの電源を切り、下に向けてその時を待ちました。





……………………



 

 空は更に黒さを増し、それでいて雨はしとしとと弱々しく降っており、一層不気味さを引き立てておりました。

 記された場所へと向かうにつれ、明らかに人の気配が消えていました。

 場所は道路の交差点付近であり、私は前持って近くの歩道で車を降りました。



 「ここです‥‥感謝しますわ! それでは」


 「綾音様! くれぐれもお気をつけて!!」


 「えぇ、未知数ですが‥‥尽力して参ります

 わ‥‥」


 「ご健闘を!!」



 従者の言葉を背中に乗せ、私はその交差点へと向かいました。



 「どれ程‥‥どれ程の脅威だと言います

 の‥‥!」



 私は少し震える足を早めて先を急ぎました。

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