第26話 実はの繋がり



  キ~ンコ~ン カ~ンコ~ン




 時計の短針が4、長針が7を指す頃、聞き慣れた音色に飽きない喜びと達成感を感じる今日の午後。

 


 『ヌぁ~あ! 疲れたァ~!』


 「桃弥ァー、後でコンビニ行こうぜ」


 『あーぁ‥‥スマン! 今日バイトなんだよ』


 「はぁ? マジか~お前バイト尽くしじゃ

 ね?」


 『まぁ‥‥最近忙しいんだよ』


 「しゃーねぇ、またなー!」


 『おー、じゃーな響ぃ!』



 残念ながら響の誘いを断ってしまったが、いつも通りに6限が終わり、清掃が次第に荷物をまとめて学校の階段を駆け降りていく。

 


 『茶道部って‥‥何でたよ』



 俺、満木 桃弥は今日バイトの筈なんだけれど、何でか学校の茶道部から呼び出されてしまった。

 ホントに面識ないからね、何かやらかしたっけ‥‥? 



 『ここか‥‥』



 気付けば一階の和室に辿り着いていた。

 最近の学校はだいたい和室の一つはあるみたいだよな。



 『し‥失礼します‥‥』


 「どうぞー」



 室内の返事を合図にふすまの溝に手を掛け、消え入りそうな声と共にゆっくりとその手を引く。

 サーッと襖の擦れる音に自身の心音がより大きくなって重なり、自然と目を瞑りかけ、恐怖からか首がカメのように縮こまった‥‥が!



 「あ~! やっと来た~桃くん!」

 

 「お疲れ‥‥」


 「おっそ~♡」


 『に"ょ!?』



 聞き慣れたその声と呼ばれた自分の名前に驚き、今度は安心したカメのように首がにゅっと伸びた。



 「え、ホントじゃん! マジびっくりなんだ

 けどぉー!!」


 「ほ、ほんとでしたぁ‥‥! あわわ‥‥!」


 「え!? みつ君も黄藤南だったんだ‥‥

 てかおな高の同級生!?」


 「サポーターさん! 灯台下暗しってヤツで

 すね!!」


 「はは‥‥なんか使い方違くない?」







 な‥‥‥‥んだと‥‥!?






 『えっ‥‥ど、どういう‥‥?』



 見慣れたゼラニウムの少女たちの顔、彼女たちは見慣れない制服を着ていて更に俺の頭を混乱させる‥‥あ、いや白石さんの制服は見た‥‥?

え、いやそれとも小栗ちゃん‥‥いや! 

 そんなことは今どうでもいい。



 「こっちがびっくりだよー! 満木君、まさ

 か同じ高校の後輩だったなんて」


 『んハァぁぁぁァ!?』



 開けっぱの襖を丁寧に閉めながら笑いかける白石さん。その口から告げられた衝撃の事実に、思わず驚きの声が裏返る。

 


 『ちょ、ちょっとそんなの!』


 「知らなかったよねぇ~サポータぁー♡」


 『ほ、ほんとだわ! というか藍浦ちゃん

 は2年なんだろ!? 何組?』

 

 「私、2組~! サポーターは?」


 『おっ、俺は5組なんだ! どうりで‥‥』



 我が学舎、黄藤南高校2年部は2階にあり、

その生徒が6組で分けられているが、その3・4組の間は階段で擬似的に分けられており、その壁は意外にも分厚いものだ。

 現に分けられた二つの世界が出来上がってきている、顔も知らない同級生がいるなんてざらなもの。

 だから知らなかったのかもな‥‥。



 「ちなみに私は1組です!」


 「私は3組、みつ君が他クラスの人だったな

 んて‥‥!」


 

 どうやら他の2年の二人も1~3組の住人ならしく、俺と関わりがある方が不思議だろう。



 「いいねー!! これでウチら何あっても

 大丈夫じゃん!」


 「そうだよね~連絡も早くなるだろうし、

 いい後輩が出来た~笑」


 「こき使ってやろ~笑」



 先輩のお二方はなにやら業務的に良かったのだろうか、悪そうな笑みも伺える。



 「まっ、とにかく今日呼んだのはぁ~♡」


 『ちょちょ、待て待て! 何でさらっと

 流してんの!? まだ聞きたいことが‥‥』


 「えぇ~たまたま、偶然でしょ~お?

 きょどきょどしてかわい~笑」



 ぷーくすくすと口に手を当て、目を細め笑う藍浦ちゃん。ホントこの手の天才か‥‥!



 『ぬうぅ‥‥』


 「うん、いい子いい子笑 それじゃあみん

 な、集めるよ~!」


 「「「「「「「は~い」」」」」」」

 


 座っていた子も全員が藍浦ちゃんの元へと集まり、何かを手渡す。

 あァ~? なんだぁ?



 「はいっ、サポーターこれ持っててね~!」


 『ライセンス‥‥? え、いいの自分らじゃな

 くて?』

 

 「うんうん、そっちのが早いしぃ~」

 

 『あ、そう? 分かった‥‥』


 

 ライセンスの左上に空いた小さな穴に、単語帳のリングみたいなものを通して束ねて渡される。なんか微妙に優しいかもな‥‥。



 「じゃ行くよ、みんな~」


 『え! 行くってどこへ?』



 白石さんの掛け声にみんな腰をあげているが、いつも通り会議室だろうか。



 「そっか! ごめん伝えてなかったよね‥‥

 今日はさ、ちょっと人が来るんだ」

 

 『はぁ‥‥、でも一体誰です?』


 「なんか連盟から呼ばれた子らしいの

 ちなみに会議室が待ち合わせ場所ね」


 『あっ! まさかこの前の募集ポスター見

 て来てくれたとか!』


 「あっ、違う違う。顔も見たことない子なん

 だけど、ちょっとよく分かんなくて。

 でも魔法少女の子らしいんだ。」


 『魔法少女ですか!?』


 「そうそう、しかもちょっと上の。

 連盟が言うには実力的にも信頼的にも」


 『だ、大丈夫ですかね‥‥俺になんか出来るこ   

 とあります? 何でも言って下さいよ‥‥!』


 「う~ん‥‥特に話すだけだと思うし、とりあ

 えず、遅れないようにしなきゃね♪︎」


 『‥‥‥‥ハイ』



 あぁ‥‥いつ聞いても鼓膜が振動してないような優しい接し方をしてくれるな‥‥。



 「はい、行くよ~!!」


 『ん早ッ!』



 はにかんだ白石さんの表情に魅せられ、ぽけ~としていたが、笹山ちゃんの鼓膜を震わす声にみんなが襖を抜けていく。



 『あ、あぁちょっと‥‥!』



 パタパタと鳴る受け取ったライセンスの束を持って、俺も急いで上履きを履いて襖を閉じた。

 あぁ‥‥もしかして俺、荷物持ちにされてるかもなぁ‥‥。

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