第27話 わたくしですわっ?



 

 「だ、大丈夫そ? てか連盟からって、やっ

 ぱりヤバいんじゃね‥‥?」


 「大丈夫ですよ凛奈先輩! 私たちは何にも

 やってないんですから!」


 「で、でもぉ~サポーターさん大人じゃない

 んですよっ‥‥!」


 「いけるっしょ‥‥ライセンスも全預けした

 し、とーや君は背低くないし!」


 「そうですっ! ニコニコしてればいける

 よ華ちゃん!」


 「そ、そう‥‥? みなみちゃん‥‥?」


 「‥‥‥‥大丈夫! その時はその時っ!!」


 「うわぁ"ぁ"ぁ"あん!!! 終わりだ

 ぁ"~!!」




……………………



 「満木君‥‥大丈夫?」


 『‥‥‥‥‥‥‥‥‥。アやッ、大丈夫っすよ?』



 というのは建前に、さっきから胃がキリキリしている‥‥。すんません白石さん。

 なんだろう‥‥すごく‥‥嫌な予感だろうか?

もうすぐ酸っぱいのが上がってくるわ‥‥これ。

 それに、多分俺だけじゃない。この会議室にいる皆が口数を減らしているのが分かる。



 「んふふっ笑 声が裏返ってるよ」

 

 『ちょ‥‥バレました?』

 

 「大丈夫だよ、別に私たち何にもしてない

 だもん。これでも正義のヒロインだし。」

 

 『そ、そうですよね。』

 

 

 余裕気に笑うその姿に、こちらまで気が軽くなるようで頼もしい。



 「うぎぁ"ぁ"ぁあ! 来ましたよ!

 多分あれですっ! あの大きな黒い車ぁ!」

 

 『ズコォ!』

 

 

 突然、青ざめた顔で頭を抱え、部屋の窓から駐車場を見下ろす小栗ちゃんの声は俺の鼓膜を震わす。

 せっかく人から貰った安心をぶっ壊してくるなあの子は‥‥! 



 『もう来たんだな‥‥ってオイ! 

 マジかよ!』


 「あわわわぁ‥‥!」

 


 俺は目に入る光景に目を疑った。これには口を開けっぱにしたまま震える小栗ちゃんの気持ちもよく分かる。

 なぜならば‥‥!



 「うわっ! ちょっとマジ!? あれめっち

 ゃお金持ちが乗るヤツじゃん!?」


 「あれ‥‥終わった‥‥??」



 驚く俺達の声に釣られ、八重さんや瀬々木ちゃんも愕然としている。

 確かに、その駐車場に停まったのは黒く細長い車体。リムジン‥‥だっけか? 富と権力の象徴のようなアレを見せられては怯まずにはいられない。

 そんなに偉い人なのか‥‥? 今からお会いする人というのは‥‥。あんなんテレビでしか見たことねぇぞ!?



 『お、オイオイ‥‥ちょっと待て!』


 「大丈夫です! サポーターさん!

 ちゃんとお菓子もお茶も用意しました!」


 『そうか‥‥! ナイスだ笹山ちゃん!』



 そう言ったもんだから机の方を見てみれば、ペットボトルのミルクティーと外国っぽいデザインのグミが置かれている。オイw 何してんねん!



 『アホかっ! そんなん用意するやつがどこ

 にいるッ!! なんだこの即席で集めた感

 は!』


 「でもおいしいですよサポーターさん?」


 『いや、おかしいおかしい! こんなん

 礼儀のレの字もないだろ!』


 「えぇ~! せっかく出したのにぃ~」


 『宇江原ちゃん! あんたか!

 よく見たらグミもミルクティーも食べかけ

 飲みかけ!』


 「アッハハハハw! ウケるぅ~!!」


 『笑ってる場合じゃないっすよ八重さん!』



 マジで! ほんとにどうすんだよ!

 もう来ちゃうだr‥‥‥



   

  コンコンコン‥‥!




 『あっ‥‥‥‥‥‥!』


 「「「「「「「「あっ‥‥。」」」」」」」」


 『どうぞ‥‥‥‥。』




 終わった‥‥最悪です。

 その場の空気が凍りつき、全員の口に鍵か掛かったように、誰1人として声を発しなくなった。

 とりあえず、動かない頭でかろうじてグミとミルクティーは隠した。



 「失礼します‥‥‥‥」



 掛け声と共に黒服を来た、従者のような背丈が高く無愛想でガッシリとした男性が入室してくる。それも二人。

 ごめん、これ言っていいか分かんないけどさ

ヤ◯ザの人とかじゃない? 俺死ぬ?

 だが、俺もチームのサポーターとして、開かない口を頑張ってこじ開ける。



 『どうぞ、お‥‥』



   

 

  ダッダッダッダッ‥‥!




 掛けくださいと、言おうとした時だった。

 階段を駆け上がるような、軽快な足音が聞こえた‥‥まさにその時だった。




 「お姉さまぁぁぁーっ!!」




  バゴォン!!




 わざわざ黒服の人が丁寧に開けかけていた扉を、バゴォン! と勢いよく開いて、誰かが入って来た途端。

 

 


 「う"っ!!」



 みおうちゃんが引きつった顔で声を上げる。

 そんな彼女へ向かってその人は一直線、両手を大きく開いてみおうちゃんに抱きついた。

 早すぎてよく見えなかったぞ!?


 

 「う"ぐぅっ!!」



 息が詰まってるタイプのガチトーンのみおうちゃんの耳元で、その人は言った。



 「うふふっ! 会いたかったですわぁー♪

 お姉さまぁーーー!!!」


 「う"‥‥はな‥‥れて」


 『うぇ!? ええぇぇぇ!?』


 

 窒息しかけたみおうちゃんにしがみついて、ブンブンと方を振っているのは、短めの髪を綺麗に揃えた、女の子であった。



 『なっ! ちょっと誰です!?』


 「あは‥‥これは失礼致しましたこと‥‥!

 初めまして、チーム・ゼラニウムの皆さま」



 瞬時にその女の子はみおうちゃんから一歩離れ、持っていた扇をバラッと見事に広げて口元で構え、微笑と共にスカートを持ち上げて頭を下げた。

 切り替え‥‥早くない?



 「わたくし、このたび貴女方、チーム・ゼラニウム

 の監査兼調査委員として連盟より派遣されま

 した‥‥金条かなじょう 綾音あやねと申します。以後、お見

 知り置きを」


 『え‥‥あ、ハイ‥‥‥。』




 ?




 その女の子は金条と名乗った。

 どことなく感じるお嬢様口調、整った顔立ちと、なんかよく分かんないけど凄く麗しい制服、極めつけはその扇!

 さっき窓から見えたリムジンと二人の黒服。

それらを混乱する頭のなかで総合し、2つの答えが導き出される。



 

 やばい人‥‥か、ヤバい人‥‥だッ‥‥!!




 「は、初めまして~、本日はどういった

 ご用件で‥‥」



 白石さんが急な出来事にも関わらず、口を開いてくれた。

 さすがに白石さんもヤバいと思ったのか、顔が引き気味の笑顔になっている。

 いや、多分頭おかしい人だと思ってるか?


 

 「えぇ、本日はご挨拶をしに参りましたの」


 『と言いますと‥‥?』


 「本格的な調査はまた日を改めてご連絡致し

 ますわ。今日は一度、お顔を合わせておきた

 かったのです。それに‥‥」


 「ギョっ‥‥!?」



 金条さんはみおうちゃんに細めた目線を向け、扇の奥で隠した口角を上げた。

 それに対してみおうちゃんは不味そうな顔を隠さなかった。

 なんかお姉さまだとか、みおうちゃんに言ってたけれど一体‥‥。



 「また今度お会いした時は‥‥ゆっくりお茶

 でも致しましょ‥‥ねぇ、お姉さま‥‥!」


 「な、ナンのコトだか‥‥!」


 「ふふ‥‥何はともあれ、皆さん良い顔色でし

 て良かったです。それでは皆さま、ごきげん

 よう」


 

 一言、扇を閉じて金条さんはお辞儀をした後に、黒服の人たちの厳重な警戒のもと、会議室を後にしていった。

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