第36話 比べてしまえば‥‥



 

 『頑張っている方だと思いますわね』


 「そうでしょうか‥‥」


 『あら、貴方も影でご覧になったでしょう』


 「はい‥‥ですが、綾音様には遠く及ばない

 と感じたのが正直な所です‥‥」


 『そんなのは仕方ありませんでしょう?

 わたくしにもそんな頃が有りましたし、彼女たち

 は他に比べれば良い方だと思いますわ』


 「左様ですか‥‥。でしたら、今回の派遣、

 綾音様は理由をご存じでしょうか? 我々

 従者側にはこれといった詳細が伝えられて

 いなかったものでして‥‥」


 『そう‥‥私もそこまで詳しくは伝えられて

 いません‥‥。上の方々が意図して行ったも

 のなのか、特に意図がないのか‥‥。』



 こんな偶然にお嬢様にお会い出来るとは思えませんもの‥‥。あ、でも私とお嬢様の運命なら有り得ますわね。



 『一応、上の指令ではチーム・ゼラニウム

 の観察及び指導、そしてこの地域にて出現

 する穢の調査ですわ。特に後者については

 細かな情報でも伝達して欲しいとの事でし

 たけれど‥‥。』


 「となると‥‥連盟の方々は、ゼラニウムの

 魔法少女の方々の指導というよりは、穢に

 ついての情報を集める方を重要視している

 のではないでしょうか‥‥?」

 

 『分かりませんわ‥‥、ただの考え過ぎかも

 しれません。中堅魔法少女の役割としても

 下級の魔法少女たちの指導は役目の一つと

 なりますから』

 

 「そうですか‥‥ですが綾音様はいくら連盟

 の方々が中堅と言えど、たゆまぬ努力と、

 確かな実力を兼ね備えております‥‥。」


 『あら? 何ですの?』


 「先程だって、ゼラニウムの少女を可憐に

 助けられていたではありませんか‥‥!

 我々従者も、綾音様のご活躍に鼻高い思い

 で一杯であります‥‥!」


 『ふふ、そう言われると嬉しく思いますわ

 ですが‥‥』



 ここは自分に言い聞かせる為にも、彼らへの尊厳的にも、言っておくべきですわね‥‥。



 『慢心はよくありませんわ‥‥。私も努力を

 重ねてはおりますし、数年の魔法少女活動

 経験があります。けれど、これも支え合っ

 てきた仲間や連盟の方々のお陰様です。

 あとお姉さまとかお姉さまとかお姉さま‥‥!

 それに‥‥』


 

 魔法少女というものをやっていて、つくづく思いますわね‥‥。

 


 『居ますから‥‥。

 私や失礼にもゼラニウムの皆様なぞ、彼女

 らに比べてしまえば到底、及ぶようなもの

 ではありませんわ‥‥。』


 「綾音様でもご謙遜なされるような方々‥‥」

 

 『えぇ‥‥私も多くは知りません。ですが、

 二度だけお会いしたことがありますわ‥‥。』


 「それは一体‥‥?」


 『そうですね‥‥一度はあの日、名も知れぬ

 ような脅威の穢。あの時、私たちを助けて

 下さったのは、恐らく上の方々‥‥。』


 「二度目は‥‥?」


 『二度目は、何故か連盟の本部に呼ばれた

 時でしたわ‥‥。』


 「もしかして‥‥あの脅威の穢の日から半年

 程の頃のでしょうか‥‥。」


 『えぇ‥‥そうです。結局、あの日はお話し

 があったくらいなのですが、その時ほんの

 数分だけお会いしましたの‥‥。よく覚えて

 はおりませんが、彼女のきりっと曇りない

 目付きからは情熱のようなものが伝わって

 きましたわ‥‥。』



 一体、あの人は誰なのか、名前もお聞きしておりませんでした。



 「そうですか‥‥我々も上の情報については、

 あまりお聞きする機会がありません‥‥」


 『まぁ‥‥そうでしょうね。きっとお忙しい

 のでしょう』


 

 私の地位がもっともっと上がってゆくのならば、いつか知りえるかもしれない‥‥。

 今はそう考えて精進するのみでしょう‥‥。



 『まぁいいですわ、それより今日の本題は

 あの人のことです‥‥』


 「えぇはい‥‥エリーナ様の事ですね。間もな

 く病院へ着きます。」


 『彼女の傷はもう完治したのかしら‥‥』


 「順調に回復し、リハビリを重ねている‥‥

 とはお聞きしましたが‥‥」


 『もぅ‥‥あの日の傷が癒えないまま、無理

 をし続けるから‥‥』


 「あの‥‥お言葉ですが、綾音様もだいぶ‥‥

 無理をなされていたと思いましたが‥‥。」


 『むっ‥‥! 知りませんわそんな事‥‥!』


 「4日眠っていたその次の日に、無理矢理

 病院を抜け出してエリーナ様の元へ行こう

 としていたではないですか」

 

 『いいんです! それは!

 確かに傷も塞がりきっていませんし、ボロ

 ボロでしたけど‥‥! 焦っていましたの!』


 「綾音様にここまで想われるエリーナ様

 が羨ましく思いますよ‥‥はは」


 『まったく‥‥あれは悪友でしてよ‥‥!

 現に、今もこうして見舞いに行くと伝える

 なり、彼女はお菓子と飲み物を持ってこい

 などと‥‥。』


 「心配していたこちらの身にもなって頂き

 たいものですね‥‥ははは」


 『まったくですわ‥‥!』



 あぁ‥‥思い出したら落ち着きませんわ‥‥あの女は‥‥!

 私も忙しい中、心配していましたのに‥‥!

 そうですわ! 今度お姉さまに愚痴を聞いてもらいましょう! お姉さまに会えば万病も治ると言いますからね。



 「お忙しい中とは思いますが‥‥綾音様の

 ご活躍を願っております」


 『そうですわね‥‥しばらくは忙しいかもしれ

 ませんわ‥‥』



 まだこの地域で遭遇した穢も、あの受穢者の一件のみ。これは夏休みも重なってしまいますわね‥‥。

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