第二十七話 真実

 場面は十六年前の秋にさかのぼる。


 十月十日。この日、新たな命が誕生した。


 名は、影山冬也。後に木山蓮と名乗り、最強のゲームプレイヤーと呼ばれる人物だ。しかし、彼はこの後に起こる出来事によって、奇妙な人生を歩む事になる。



「冬也」


 一人の女性が赤ん坊を可愛がっている。


 名は、影山白。当時、二十五歳。クリスタルのように美しい瞳。同性ですらも虜にするであろう妖艶な面差しは、相手の男性を恨めしくなってくる。


 豊満な胸に華奢な体型とプロポーションも完璧。そのせいか、唯一の欠点であろう百五十センチも届いていない低身長もなんの支障をきたしていない。完全に非の打ち所がない人物だ。


 彼女はこの時点でシングルマザーである。


 離婚の原因は生まれてきた冬也。彼は本来生まれるはずのない人間だった。


 この命は白の一夜の過ちで偶然授かった。男性は産むなと言ったが、女性としては産みたかった。理由としては、授かった命を大切にしたいとうのもあったが、男性の事を愛していたから。二人の愛を形として残したかったのだ。


 男性の意見をふっきり、産むと決断した白は見限られた。


 よって、シングルマザーとなったのだが、経済的にも裕福ではなかった白は、自分だけの力では育てていくのが不可能だと思い、子供の将来を考えて養子縁組ようしえんぐみという苦渋の選択をした。


 そうして、冬也は木山家の子供となった。


 それが、十四年前の出来事である。


「冬也……」


 悩んだ末に覚悟は決めたはずだったが、女性は最愛の息子を忘れられなかった。そうして、昔と同じ過ちを繰り返してしまい……その果てに生まれた子供が──影山雪である。


 今度は男性に見限られることはなかったため、雪だけは自分の手で育てることができたのだが、ゲーム開発が完成した年──冬也が生まれてから十二年が経ったある日、一つのニュースが流れてきた。


 木山冬也、当時十二歳。酒気帯しゅきおび運転をしていたドライバーの信号無視による事故。幸いなことに死亡することも、後遺症が残るような怪我もなかったが、事故のショックにより今までの記憶を失った。それと共に名前すらも忘れてしまった。


 育ての両親が冬也という名前を教えてくれたが、その名を思い出すとひどい頭痛を訴えたため、両親はこの機に新しい人生を歩ませようと思った。


 その時に教えた名前が──蓮。


 こうして、木山蓮という偽りの人物が誕生し、彼はその人生を生きている。故に……本当の母親すらも知らないのだ。



 そして、時は蓮誕生から十六年の月日が経った現代へと戻ってくる。


 目の前には産みの親が倒れている。真実をレンは知らないが、影山白と言う女性は紛れもなく彼の母親だ。


 どれだけ強いスキルを持っていようが、本当の息子はたとえゲーム内であっても倒す事ができなかった。


 その差が今の勝敗を決めている。


「終わった……」


 このゲームの支配者を倒した事により、レンは一種の安堵を覚える。


 だが、まだ気は緩めず、やるべき事──ゲームの違法プログラムを止める事に意識を持っていく。


 今現在、ゲームの主導権を社長は持っていないが、大まかな設定は変えられていないと言っていたため、まだ間に合うという結論を出す。


 そう思ったレンは、女社長のふところを探り出した。


「何をやっているの?」


 レンの突然の行動にユキが不思議そうに問う。その言葉に、


「とりあえず、このアカウントを操作して矢澤を止める。じゃなきゃ、何されるかわからないからな」


 と、レンは自分が考えている事を話した。


 四獣降臨に、バーミリオンの突然召喚。これ以上、強力なモンスターを顕現させられて、苦労するのはまっぴらだ。


 プログラムの起動方法はわからないが、とりあえず手当たり次第に当たってみた。


「どう?やれそう?」


 レンの言葉を聞いたリンがそう言ってくる。


「いや、パスワードでブロックされてる。俺じゃ入れないっぽい」


 予想はしていたが、こうも予想通りだと笑いたくなってくる。こうなってしまっては、自力で矢澤を探して倒す他ない。そんな時……レンの耳に衝撃的な音が入ってくる。それは、レンだけでなく他の二人にも聞こえて……


「おに……い……ちゃ……」


 ユキが掠れた声で言葉を紡ぎ、力なくその場に倒れたのだった

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る