最終章・天上世界編
第三十二話 史上最高の悪夢(たたかい)
矢澤薫が移動させた都心の街に、最悪のモンスターが現れた。
四獣。『DEO』で最強の冠を持っている魔王の契約獣だ。
一体、一体が規格外の実力を持っており、世界ランカーですら苦戦する化け物。しかし、その化け物が今は三体同時に出現している。その光景は、悪夢という言葉以外では表せないものだ。
この状況を作った肝心の主犯格──矢澤薫は、ビルの屋上で高みの見物をしている。
「リン!俺を奴の場所まで飛ばせ!」
「でも……」
「奴を叩けば、コイツらと戦う必要はない。お前のスキルならいけるはずだ」
レンは正々堂々と戦わない方法を画策するが、仕方のない事だった。
一体ならなんとかなったかもしれないが、三体同時はレンでも厳しい。もし、何かの
レンは託された。もう、自分だけのためにゲームをすればいい立場の人間ではない。
「わかったよ」
リンもレンの意見を汲み、スキル発動のためにレンの背中に触れようとするが……四獣の一体──ボロが急に動き、リンを阻んだ。
ライオンのような立髪のあるモンスターだ。
体型も十メートル近くあり、パワーも相当のものだと推測できる。
「この子は私が!」
ナナが矢を放ち、ボロを別空間へと移動させる。
「ナナ!」
「前に一度やりあってるでしょ。だから、その時の借りを返したい」
初めてクエストに行った時に乱入してきたモンスター。あの時は、プログラムの都合で勝つ事ができなかった。その時の事をナナは根に持っていたらしく、自分から引き受けると言ってくれた。
「あぁ、ナナなら勝てる!絶対だ」
「うん、ありがとう」
「じゃあ、今度こそ!」
リンがレンに触れ、ユニークスキル──『
一気に目標のカオルの所まで飛んでいき、銃を構えて発砲したが……カオルには届かなかった。代わりに、鷹のような見た目をした四獣──ヘスが銃弾を受け止める。しかし、ダメージは一切ない。
傷がつかなかった事に
勢いよく落下していく時の浮遊感を覚え、気持ち悪かったが、このままでは落下時の衝撃で核もやられてしまうため、衝撃を殺そうと地面に銃弾を撃とうとする。
レンを無事着地させないかのうように、ヘスは空中で動ける特権を利用して、追撃を仕掛けてくる。
レンはヘスの鋭いくちばしで腹を打たれ、更に落下速度が加速していく。
着地まであと一秒ほど。だが、レンに触れたヘスは『
この隙を突かない手はない。レンは自分にかかる重力と鋭い感触を必死に堪え、持っていた銃を急いで地面に五発発砲。勢いはかなり落ちた。
その後剣に変換させて地面に突き刺し、滑らかな身のこなしでヘスの背中へと飛び乗った。
幸いにもこのモンスターは二十メートル近くの巨体だ。背中に乗って
背中に乗られ、ヘスも怒っているが、レンには関係ない。
卑怯だが、ガラ空きの背中に剣を突き刺し攻撃していく。大きく暴れ出し、レンも振り落とされそうになるが、必死に堪えていく。
このまま一気に
「キュァァァ!」
鼓膜を破るくらいの
バランス感覚を失ったレンは、ヘスの背中から振り落とされる。
耳鳴りもし、
一方、リンは龍の見た目をした四獣──ドラと戦闘していた。
この中で唯一、飛び道具を使用してくる四獣で、『
ドラが羽を広げ、空へと飛び立つ。しかし、この中で一番大きい個体のモンスターのため、たったそれだけの行為で、強風が吹き、リン達の動きが封じられる。
「結局、コイツらとやりあわなきゃいけねぇって事か!」
「そうみたいだね」
レンの言葉に隣に並んだリンが答え、同時にナナも二人の元へと並び、
「でも、戦える!私達も確実に成長してるから」
自信満々にそう言い放つ。
「あぁ、そうだな!」
目の前にそびえ立つ三体の悪魔を見て、レンは力強く発する。
「じゃあ、突破してみなよ。絆の力ってやつで!」
屋上に座っているカオルが三人を見下ろしながら、四獣に命令を下した。
ボロがナナを、ドラがリンを、ヘスがレンに一斉に襲ってくる。
その姿を見て、三人は一斉にお互いを信じて各相手を引きつけて散り散りになった。
空中を移動する事ができる一番厄介な相手──ヘスを最強のプレイヤーレンが引き受ける。不穏な雰囲気に囲まれる街を走り、二人から距離を取るようにしていく。
走る途中で武器を銃に変換し、空中移動している相手でも仕留められるようにしていく。
追いかけてくるヘスへ照準をしっかりと合わせ、発砲。しかし、元々銃撃戦が得意ではなかったレンは命中させる事ができない。
今の一撃で、ヘスの怒りを買ってしまい、相手も空中からの素早い突撃をしてきた。
二十メートルを超える巨体に、時速六十キロを超える速度が乗せられているため、この攻撃は相当な衝撃を誇る。
まともに直撃してしまえば、敗北は免れない。
あまりの速度にレンは避けられない事を察知。ユニークスキル──『
重い一撃が盾へと直撃し、レンは吹き飛ばされそうになるが、気合いで足を踏ん張ってその場に止まる。
レンに触れた事により『
この隙に、急いでスキルで剣に変換し、
「一体……」
突然起きた謎現象にレンは思わず言葉を漏らしてしまう。
手応えはあったはずだが、破壊するまでには至らなかった。
危険を察知したヘスは、大きな翼を羽ばたかせて空中へと逃走する。
様子を伺っているのか、一向に下降してこない。むしろ、今いる場所から相手を仕留めることを考えているかのように感じられ、レンとしてもやりづらくなってくる。
人であるレンは空中へ移動することはできないので、仕方なく得意ではない飛び道具を使用する選択をする。
スキルで銃へと変更していき、空に向かって構える。
動きが早く、熟練のスナイパーでも当てることは難しいだろう。だが、それでもレンは自分の実力を疑わない。
今まで
ヘスもレンの放っている雰囲気から、ただならぬモノを感じたのか、警戒体制に入り、いつでも攻撃できるように準備を整えた。
両者が睨み合う。険悪なムードがこの空間一帯を支配し、お互いの第二回戦が開始した。
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