第十二話 刺客

 学校から帰宅した蓮は、早速『DEO』の世界に入った。


 昨日の件があるため、本当は『DEO』に触れたくないが、こうでもしないと、レンは憂さ晴らしすることができなかった。


「ふざけんなよ……」


 レンは学校での瑠璃との会話を思い出す。



「なんで俺を選んだんだ?」


 ずっと気になっていたことだ。


 『クイーン』はピンポイントで木山蓮という人物にコンタクトを取ってきた。最初からレンに協力要請するつもりだったのだろう。だが、自分が選ばれた理由がわからなかったのだ。


「君が強いからだよ。それ以外に理由はない」


「はぁ?」


 レンは思考停止に陥る。完全に予想外の回答。


 回らない頭で精一杯に考えるが、行き着く結論は、「理由などない」と言われているようなものだった。


 瑠璃の回答にレンは内心怒りが込み上げてくる。自分じゃなくても、世界ランクを持っているプレイヤーであれば、誰でもよかった。それが、『SSP』の答えだ。


 ただ唯一、レンはだっただけだ。それが、決定打となり、今回の騒動に巻き込まれたのだ。


「どう?協力して……」


「無理だ」


 静かに言う。


「でも……」


「無理だって言ってんだろ!」


 自分が馬鹿にされた気分になり、レンは思わず怒鳴ってしまっていた。突然の怒声に、教室にいた全員がレンのいる方向を見る。向けられる視線に、レンは恥ずかしくなり、瑠璃は焦りを見せる。


「この話はまた今度」


 面倒事に巻き込まれたくない瑠璃は急いで教室を飛び出して、この話は幕を閉じた。



「はぁー、変に思われてないだろうか……」


 急に大声を出した事で同じクラスの人への目線がすごく気になる。ため息を尽きながら、教室での出来事をゲーム内で反省していると……


「レンさん!」


 約束していた相手が走ってくる。


 黒色のロングヘアーにメガネ姿、それに加えて高身長と現実と全く同じ外見をしている。いかにも初心者のようなキャラメイキングだが、レンとしてはレクチャーしてあげられるので嬉しい。


「本当に一緒にクエストに行けるとは……」


「言ったじゃないですか。私、レンさんのファンだって。今日はたくさん手解きしてもらいますからね」


 最高潮に気分が高まっている西垣真希は、レンが今まで抱いていた真面目ま印象がなくなっている。


 二人はこれからクエストだ。真希は星一のキークエストが二つクリアできていないらしく、レンは手伝ってやろうと思った訳だ。


 そのクエストは『クエの収穫』と『女神の花園』だ。


 難しそうなのをクリアしても良かったが、マキの実力と今日の人数から考えて、簡単なクエストがいいと思ったレンは、悩んだ挙句に『クエの収穫』を選択することにした。


 早速出発しようと今いる機械的な世界を移動する。すると、中世の街並みが広がる場所に視界が切り替わる。


「まずは教会だな」


「そうですね」


 クエストをするにも受注しなければいけない。それは常に教会で行われる。

 マキがレンの手を取ってきて、レンは胸が高鳴った。


 仮想空間なのにフルダイブ形式のゲームのせいか、現実のように感じる。特に、つきたての餅のような柔らかさは今まで一度も体験した事のない感覚だ。


「私のユニークスキルって、音で相手の調律を惑わすものなんですけど、レンさんのはどういったものなんですか?」


 マキから質問をされるが、その声はレンの耳には入らない。


 ボーッとしているレンを見て、心配したマキはまた顔を覗き込んでくる。


「あのー」


「はい!」


 必要以上に大きな声を出し、マキの言葉に返答したが、マキも今のには驚いたらしく、握っていた手を離してしまっていた。


「もしかして……緊張してます?」


 手と手を合わせながら、モジモジとしてレンに問う。その時にマキも頬を赤らめさせていたので、レンは一度深呼吸した。


「君も緊張してたんだね」


「まぁ……」


 マキも同じ状況である事を知り、少しだけ肩の荷が降りた。その後、


「手、繋ぐ?」


「いいんですか!」


「あぁ!」


 先ほどまで繋いでいた手をもう一度取り直して、二人は集会場に向かった。


 目的地に到着し、中に入ると意外にも人が沢山いた。それだけでなく、星二や星三のクエストを受注している人たちもいた。


「先こされちゃったな」


 陽気な声で言葉を発するが、レン的にはとても悔しい。自分が運営絡みの事件に巻き込まれている最中に他のプレイヤーは、着々とゲームを攻略して行っていたのだ。


「でも、挽回すればいいだけですよ」


「そうだな」


 マキの言葉に肯定し、当初の目的──『クエの収穫』を受注していく。


 クエスト内容は予想通り、『クエ』という魚を五匹獲ってくるだけ。初心者が操作に慣れるようにやるチュートリアルクエストだ。


 目的地は東の海園エリア。


 教会から特別送迎の馬車が走ってるらしく、なにからなにまで優しいクエストになっている。


 レンとマキはお言葉に甘えてその馬車に乗った。乗客人数は二人だけだったが、おそらく、他のプレイヤーはほとんどこのクエストを終えた後なのだろう。


 馬車に揺られて数分移動すると、ビーチのような場所が見えて馬車が止まる。


「到着しました!クエストが終わり次第、報告お願いします」


「待っててくれるのか?」


「はい!」


 溢れんばかりの眩しい笑顔でガイドが答える。その笑顔に卒倒しそうになるが、気合いでなんとか耐える。


「あっ!そうそう。濡れるとダメなのでこれに着替えてください」


 そう言ってガイドが謎のプログラムを始める。そうすると……二人の服装が水着に早変わりした。


 突然の変化にマキは体を隠そうとする。


「可愛いですよ」


「でも、よりにもよってビキニなんて……」


 フリルスタイルの白いビキニ姿に変えられて、マキは赤面しながら恥ずかしがる。しかし、


「それは、アナタたちの脳内データを元に作られてるんですよ。だから……」


「これが俺たちが望んだ姿だってのか」


「はい!着たことなくても、そういうのが着たいって願望があるって証拠です」


 レンは鮮やかな青色のサーフ型の水着に上半身は裸。要は一般的なスタイルだ。


「クエストが終わるまでその姿なので早くお願いしますね。それと、装備はここで預かりますので、シャーには気をつけてください」


「了解」


 ガイドの念押しにレンは一言返答する。そして、二人は『クエ』と呼ばれる魚の収穫に向かっていった。


 『クエ』の見た目はここに来る道中で見せてもらったため、わかっている。


 支給された専用のアイテムで『クエ』捕えていく。


 現実と同じ見た目をしているが、現実と違って収穫しやすいように調整されており、小学生が虫を捕まえるくらいの勢いで捕まえていくことができている。


「よっしゃー」


 レンが目的数を捕獲でき、叫ぶ。それと同時にマキも目的を達成する事ができ、二人は無事にクエストを攻略できた。


 ミッションコンプリートの文字と共に元の服装に変わっていく。


「なんか、『イノーの討伐』とはえらく難易度が違いますね」


「まぁ、こういうのもあるだろう」


 シャーというサメ型のモンスターと遭遇しなければ、危険度すらもゼロに近しいクエストにマキは感じたことを率直に言った。


 しかし、難易度とはあくまで目安であって、その中でも上下はある。それに、人によって難易度というのは変わってくるので、星で難しさを図ることは一概にはできない。


「それでは装備をお返ししますね」


「あぁ」


 ガイドがレンたちに預かっていた装備を渡そうとする。だが……


「テメェ……」


 レンの持っていた剣をレンのコアに突き刺す形で返却してきた。


「返しましたよ。まぁ、資格と引き換えにですけどね」


 ガイドの謎の行為にレンはその場にうつ伏せに倒れた。徐々に意識も遠のいていき、五感は失われていく。そして、完全にレンの意識は途切れて……

 

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