第十一話 動き出す影

『DEO』。蓮がプレイしているゲームだ。


 これだけであれば何の問題もないのだが、このゲームの真実を知ってしまった今では、この単語を聞くだけで、嫌な予感が頭をよぎる。


 この女はどこまで知っているか。もしかして、内通者なのではないかなど、疑いの目ばかりかけてしまう。


 蓮は息を呑んで次の言葉を待つ。


 その表情に生徒会長も黙り込み、心理戦のようなものが始まってしまった。


 先に言葉を言わせる。下手に変な言葉を発して、ボロを出さないようにする。そう思いながら、次の行動を思考していると……


「キャー!本物ですか?私、ファンなんですよ。もしよかったら、今度一緒にプレイしません?」


 予想外の返答が来て、蓮はついていけなくなる。


「あのー、大丈夫ですか?」


 心配そうな顔を浮かべて蓮を覗き込んでくる。


 真剣な表情をしている時は気づかなかったが、緩むとかなり可愛い顔立ちをしている。黒色のロングヘアーから、フローラルのようないい匂いもして、蓮は胸の鼓動が早くなっていった。


「顔赤いですよ」


 自分の可愛さが蓮を狂わせている事に気づかない真希は、キョトンとした表情を浮かべる。


「いや、もう大丈夫。君のお願いだけど、俺でよければ大丈夫だよ」


「本当ですか!ありがとうございます」


 声からもテンションが上がっている事がわかり、蓮はちょっと引き気味だったが、自分がこんな美女に好かれていると言う事実には嬉しさが隠せなかった。それに……


「気分転換にはいいかもな」


 昨日一日のことだが、現実離れした所にいて心が摩耗していた。それを回復させるには、この状況は最高かもしれない。


「あちゃー!」


 真希と約束を取り付けた蓮のいる教室へ、謎の奇声を発しながら誰かが入ってくる。その声に教室にいた全員が振り向いた。


 そこにいたのは一人の少女だった


 焦げ茶のツインテール、誰がどう見てもおてんばな性格だ。


 身長が百五十センチ前半くらいしかなく、幼い顔つきをしているため、可愛らしさが垣間見えるが、この場にいるということは高校生なので年相応の行動とは言い難い。


「あー!蓮でしょ!蓮だよね」


 不覚にも目が合ってしまい、少女に狙いを定められた。


 急いで席を立とうとするが、真希が「待ってください!」と手を掴んできて、逃げられない。


 その隙に少女は急いで距離を詰め、蓮のところまでやって来る。


「ちょっと話があるんだけど……」


「嫌だ!今は誰とも話したくないんだ!」


「私とは話してくれたじゃないですか」


「君は俺の好みだったし……」


「人を見た目で判断しちゃいけないんだー」  


 本当は面倒ごとに巻き込まれたくないからなのだが、真実を隠しつつ、昨日の事を上手く説明するだけの会話技術が蓮にはない。


 だからこそ逃げるのだが、この少女達が思った以上にしつこい。しかも、お互いがお互いを引っ張っており、二人が蓮を取り合っているみたいな光景になっている。そんな時……


「蓮……その両手に花はなんなんだよー!」


 女の子に迫られている状況(側から見たらそうなっているだけ)を裕也に見られ、勘違いされる。それを急いで否定し、この騒動は一旦幕を閉じ、蓮とおてんば娘──鳴海瑠璃は二人きりになった。


「話ってなに?」


 落ち着きを取り戻した蓮は、瑠璃に先程の内容を問う。


「あれ?志保ちゃんから聞いてない?」


「志保?誰だ?」


 急に聞いたことのない名前を出されて困惑する。


「もしかして、志保ちゃん名乗ってない?」


 蓮の返答に瑠璃は驚きを見せる。これでは話が全然先に進まないため、瑠璃は志保という人物について簡潔に説明する。


「本名は佐山志保。まぁ、『クイーン』って異名が有名になり過ぎて、本名を知ってる人の方が少ないんだけどね」


「『クイーン』……」


 その言葉を聞いて蓮は俯いた。


 今、この名前は一番聞きたくなかったからだ。しかも、この少女の口からその名が出たということは、彼女が話したいと思っている内容は、おそらく天上世界絡みだろう。


 その話が一番したくない蓮は、 


「悪い。やっぱ話はなしだ」


 そう言って瑠璃を追い返すように手を振るった。


「そう。じゃあ、職務質問って事にしようか。『SSP』の権限を使って」


「お前……」


 瑠璃の突然の発言に蓮は愕然とする。


 見た目からは想像もできない経歴だったからというのもある。だが、蓮が驚愕したのは、そこではない。


 『SSP』は基本的には極秘で動いている。組織なのだが、異名やコードネームを使って活動しており、誰が在籍しているかはわからない様になっているのだ。


 だから、志保を知っていて、『SSP』という事は……


「お前、志保のパートナーだな」


「せいかーい」


 あのGPSを送った人物だ。なら、こちらからも聞きたいことがある。だから蓮は……


「どうして、俺を選んだんだ」


 そう言って、話の深くまで踏み込んでいくのだった。



 一方、メタバース内では一人の男が活動を再開していた。


 黒色のセミロングに中世的な顔立ちをしていて、現実にいれば確実にモテるであろう外見だ。


「っく、『スコーピオン』の奴、やられやがって」


 ため息を吐きながら、呆れた口調で言葉を漏らす。


「僕が尻拭いしなきゃいけないじゃん。まぁ、『クイーン』に『最弱の王』なら仕方ないっちゃ仕方ないか」


 やられた時の情報を見ながら、『スコーピオン』の戦績を確認していく。


「それにしても……『コンティニュー』ね。こりゃ厄介だわー。でも……」


 男は取り柄ともいえる中世的な顔立ちには似合わない不敵な笑みを浮かべ、


「僕なら殺せるよ。この『才能殺しスキルキラー』を持つ僕ならね」

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