第十話 日常へ

 クイーンから告げられた内容はレンを思考停止に陥らせた。


 ここまでの悪行が浮き彫りになったシャドーだから、なにか裏もあるのだと予測をしていたが、まさかここまでインパクトの強いものだとは思っていなかったからだ。


 でも、この言葉は夢でも幻でもない。


 物理的なダメージはないが、精神的なダメージを強烈に浴びせてくる。その事実が、レンの怒りの導火線に火をつけた。


「どういうことだ」


 感情に任せて怒鳴りはしない。しかし、内側には憤りしか湧いてこない。


 その言葉を聞いて、クイーンは涼しげに言う。


「そのままの意味よ。それ以上はない」


「だから!なんで俺の勝利が確定しているかって聞いてるんだ!」


 言葉の意味など理解している。肝心なのは中身だ。だが、クイーンはレンの質問には答えてくれなかった。


「理由がわからないなら協力はしない。今日はもう落ちる」


 この場で自分の答えを突き付け、レンはメニュー画面からログアウトした。それに続き、ナナ、リンもログアウトし、今日はお開きとなった。



 次の日。


 気分が優れないまま蓮は登校する。


 正直、昨日の出来事が非日常過ぎて、学校すら行く気もしないが、一応学生の義務なので、そこはしっかりと努めておく。


「おっはー。昨日は楽しかったねー」


 凛が隣に並び、軽快に話しかけてくるが、蓮は今は誰とも話したくない。たとえそれが世界一の美女であっても。


 だから、凛の一方的な話を聞くだけになる。


 うるさいだけの雑音が脳内に響き、気分が悪くなる。しかも、凛は意外にも声域が高いのだ。だから、耳鳴りのような現象も同時に起き、頭痛も発症する。


「マジでやめてくれ!」と、言いたいが、凛の強気な態度に押し負けて話を聞く結末になるので、言うだけ無駄に終わる。


 結局、凛の戯言を聞きつつ、ようやく学校に辿り着いたが、凛とは同じクラスなので、授業が始まるまでこの地獄は終わらない。


 机に着くが、女子と二人きりで登校していたところを陽キャに見られ、からかわれるという始末。それについては凛も反論していたが、最悪だ。


 机にうつ伏せになり、目を瞑る。


 ようやく凛の拘束から解除され、心が楽になった蓮は昨日の会話を振り返った。


 『DEO』の勝者はレンに決まっている。クイーンはそう述べていた。つまり、それは『DEO』自体がレンの為に作られたゲームと言っても過言ではないことを示していた。


 なら、なぜシャドーの社長はレンのためのゲームなど作ったのかが疑問点になってくる。


 社長の顔は蓮が一方的に知っているだけで、会ったことはない。当然、電話やメールなどで連絡をしたこともなく、提供者と消費者という関係以外の接点は一切ない。


 だが、何の理由もなく、レンの為のゲームなど作るものか。


 そういった物を作ったと言うことは蓮の何かを知っていることになるが、全てが謎だ。だから、頭を悩ませる。


「蓮くん、蓮くん」


 突如、落ち着いた雰囲気の声が鼓膜に響いた。


 その声を聞いて、蓮は顔を上げる。周りを見ると、クラス全員の視線が自分に集まっている事に気づく。


「蓮……居眠りとはいい度胸だな」


「あれ……先生?」


 どうやら考え事をしている間に寝てしまっていたらしい。そして、寝ている間に時間は刻々と過ぎ、ホームルームが始まってしまっていた。


 その後、蓮はこっぴどく叱られ、一時限目の授業は見張られっぱなしだった。


「はぁー、疲れた。鬼塚の野郎、あそこまでしなくてもいいだろ」


「ハハ、学校一の名教師だもんな」


「もっと良い意味で名を轟かせとけよ」


 学校以外ではどうなのかわからないが、皆の嫌いな先生第一位。それが鬼塚という先生だ。


 その実態に呆れつつ、蓮は次の授業の準備をする。


 正直眠いが、これ以上居眠りをして鬼塚の耳に入ると最悪なので、表面上だけはやる気を作っていく。そんな時……


「木山蓮君であってる?」


 聞き慣れない声に名前を呼ばれ、声の聞こえた方へと振り向く。そこには……メガネ姿でいかにも真面目そうな女が立っていた。


「あってるけど……誰です?」


「言葉遣いがなってないですね。先輩には敬語を使いなさい」


 急に指摘されて困惑する蓮だが、女はそのことを隅へと追いやり、話を次へと進めていった。


「私は西垣真希。この学校では生徒会長を務めてるものです」


 と、簡潔に自己紹介をしていく。それを聞いて、


「その生徒会長さんが俺になんの用でしょうか?」


「単刀直入に言います。『DEO』について、お話があります」


 真希は真剣な表情でそう言ったのだった。

 

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