第六話 迫り来る悪夢


「ヤッホー」


 メタバース空間でリンが手を振ってレンとナナがいるところまで走ってくる。


 黒髪の左側に明るい橙色のメッシュが入っている。


 レンと同じで、現実の自分とは違うアバター姿をしており、豊満な胸、細身の体とかなりスタイルがいいようにキャラメイクしたようだ。


 その全身を上から下までじっくりとレンは眺めた。


「でも、その服装はないと思うぞ」


「そうか?私らしくていいだろ?」


 ジーパンにサラシ姿のリンにレンは指摘するが、凛は自分らしいスタイルだと蓮の言葉を跳ね返す。


「まぁ、アバターなんですし、それぞれ好きな姿をすればいいと思いますよ」


「そうだろ!ほら、ほら!」


「ナナは優しすぎるよ」


 一通りの会話が終わり、三人は『DEO』のファンタジー世界へと入る。


 一瞬での転移で、視界に映る景色が変わる。

その様子に慣れているレンとリンは通常通りだったが、ナナは驚きを見せた。


 その後、少しだけ時間を置き、三人は歩き出す。


 まずクエストに行くために、教会のような集会場に行く。


 前と同じように参加者がたくさんいるが、初回よりは集会場が混雑していない。その光景を見て、やはり、ゲームオーバーになった人もいるのかとレンは心中思い、自分の『ユニークスキル』に初めて感謝した。


「まぁ、とりあえず昇格クエストに挑戦できるようにしよっか。私もレンも特に目標とかないから、ナナちゃんのお手伝いしてあげるよ」


「ありがとうございます」


 リンの気遣いに素直に感謝を述べ、三人はクエストを選んでいく。


 昇格クエスト。各クエストに設置されているもので、キークエストと呼ばれる特定のクエストをいくつかクリアしていくと挑戦できるようになる。


 そして、そのクエストをクリアすると、ひとつ上のクエストに挑戦できるシステムだ。


 前回攻略したイノーもキークエストのひとつだ。しかも、星一クエストの一番の難所であり、プレイヤーが躓く可能性が高い場所である。


 星一のキークエストはあと二つ。


 『クエの収穫』と『花園の女神』というクエストをクリアすればいい。


 早速、クエストを受注しようとするのだが……


「『花園の女神』って何ですか?」


「さぁ?俺もわからないんだよ」


「私も」


 二人も『DEO』は初心者なので、クエストの内容は理解していない。だが、前者のクエストは名前からして、魚か何かを取ればいいと推測できるが、後者のクエストは名前からして謎でしかない。


 それでも、受注しなければ上のクエストには行けないので、謎のクエストを受注してみる。


 難しそうなのから攻略しようとするのは、レンの癖だ。そのせいで、二人は巻き込まれるが、ナナは優しいし、リンはやる気満々なので、拒否されることはなかった。


 謎のクエスト『花園の女神』が行える場所の地図が表示される。


「西か……」


 今いる場所はマップの中心地なので、東西南北どこに行こうとしても距離的には変わらない。しかし……


「西は山に登らないといけないからな……面倒だぜ」


 現実と同じ感覚を得られるゲームだからこそ、疲労感もセットだ。それにレンはため息をつく。


「レンも運動しなきゃ。いくぞ!」


 そう言って、リンは子供のようにはしゃいで先に行ってしまった。


 しかし突如、リンの左胸が何かに射抜かれ、地面にうつ伏せに倒れた。


「リンさん!」


「隠れろ!」


 突然倒れたリンの元へ駆け寄ろうとしたナナをレンがが止める。


 何かがおかしい。ここは街中だ。それなのに、敵に攻撃された。しかも、武器による攻撃だ。なら……この攻撃は人間によるものと考えて間違いないだろう。


 このゲームの敵として設置されているのは、基本的には亜人だ。


 一番人の姿形に近い魔王であっても、亜人の部類に入れられる。なら……


「プレイヤーキルしてる奴がいるのか」


 もし、レンの言葉通りならゲーム内の禁忌を破っているプレイヤーがいることになる。


 何故なら、これは規約違反だからだ。


 シャドーのゲームは、現実のようにプレイヤーが他のプレイヤーを襲うことができるようになっている。


 だが、そんないざこざが起きるのは会社的にも困るのか、プレイヤーキルをしたものには厳重なペナルティが用意されている。


 この規約により、今日までシャドーのゲームは秩序を保ち、ゲーム業界で並々ならぬ功績を収めてきたのだ。


 街にいるプレイヤーが次々とやられていく。それを側から見ているのがナナは辛くなり、敵を探そうと隠れている場所から出ようとするが、レンがその行動を止める。


 見た感じ、敵は見えないため、遠距離射撃である可能性が高く、下手に外に出れば一発でやられる可能性もあった。


 よく周りを観察し、敵の場所を探っていこうとするが、敵もプロだからか、一向に見つからなかった。


(くそ!相当のプレイヤーだぜ)


 レンの見立てでは、プレイヤーキルをしている人物は世界ランク二十位くらいには入っていると思われる。


 下手に出てやられないように、慎重に移動していく。


 後ろにいるナナに手だけで合図し、やられても大丈夫な自分が一歩外へ出る。


 パッと見は敵はいない。やはり、予想通り遠距離射撃で、レンは敵を探すために辺りを見渡ていると思う。


 周りを見渡し、敵を探そうとしているレンの左胸の辺りに鈍い感触が走り、それがわかった途端に近くの建物へと隠れて、何とか『コンティニュー』を回避する。


(くそ!どうすれば……)


 遠距離狙撃がわかったが、敵が見えない。レンも望遠鏡のように、遠くを見れるものが無いので、敵を探すこともできない。そんな時……レンの前に自動でメニューが開かれる。


 それを見て、メッセージが届いたのだと経験者のレンは即座に理解する。


 しかし、アカウント番号で表示されたので、知り合いではないものからの着信だ。それを取る。


「『最弱の王』であってる?」


 女の声が聞こた。それに「あぁ!」と伝え、女は言葉を続ける。


「今、プレイヤーキルしている奴がいる。コイツらを止めないととんでもないことになる」


「運営が対応してくれるだろ?逃げてれば大丈夫じゃ……」


「これは運営が行なっている行為だよ。だから、ペナルティは受けない」


 女が衝撃的なことを言ってくる。


 その言葉にレンは頭が追いつかなかった。


 運営が自分で決めたルールを運営自らが破っているのだ。詳細を知らないものなら、混乱するのも無理はない。


「まぁ、突然こんなこと言われても反応は難しいね。詳しいことは後で話す。だから、今は協力して欲しい」


「お前は一体……」


 女の正体がわからないので、レンは通話の相手に質問する。そして……


「『クイーン』そう呼んでくれるといいよ」


 女はレンの質問に答え、通話を切ったのだった。

 

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