第二十九話 覚醒

「ハハハハ!」


 何かに取り憑かれているかのように、影山白は狂っている。


 その姿はもう人間ではないと誰もが感じ、近づき難い。だが、レンはこんな状態の白であろうとも救う事を目標とする。


 理由は、敗北してしまったユキとの約束を果たすため。そのためであれば、レンはどんな強敵にも立ち向かっていける……のだが、


(『コンティニュー』をどうするか……)


 自身が使用していた最大のユニークスキルを懸念する。


 敗北しても復活し、使用制限は無制限という、まさしくチートを体現した代物。


 攻略方法がない相手を前に、レンは最大限に頭を使っていくのだが……埒が開かないと思い突進する選択をする。


 どう考えても勝つことはできない。なら、とりあえずハクにダメージを与えて隙を作り、彼女が持っているプログラムから、スキルを無効化するしか方法がなかった。


 一気に間合いを詰め、素早い剣戟けんげきで相手のふところに潜ろうとするが、突然、地面が波のように不安定になっていく。


 上手く移動できなくなったレンは、一旦距離を取り、再度体制を立て直していこうとするが……


「ありゃ、おかしいぞ」


 今、起こった出来事を口にした。


「どういうこと?」


 レンの言葉にナナは疑問を浮かべる。


「ハクはなにもしてない。なのに、スキルが発動されたんだ。つまり、アイツは暴走してる。莫大な力を前に、自分の理性を抑えられなくなったんだ」


 今の出来事にそう結論を出す。


 ハクは今、全てのプレイヤーのスキルを使用できる。だが、得られるものはメリットばかりではなかった。


 ひとつ、ひとつがプレイヤーのゲーム内での才能。そんな代物をたった一人の人間に強制的に注ぎ込めば、どうなるかは考えるまでもないだろう。


「それでもスキルを使うだけはできるか。あるいは……」


 オート発動の可能性をレンは浮かべた。


 もし、レンの思った通りなら状況は最悪だ。危険を察知しただけでスキルが発揮され、近づくのすらも阻害される。完全に攻略は不可だ。


「でも……やるしかねぇ」


 目の前の狂人を見据え、覚悟を決める。


 もう一度剣を構えてハクの元へと進んでいく。先程の地面の変化を危惧しながらの進撃だったが、次は何も起きない。


(オートでもラグがあるか)


 スキルの発動タイミングを持ち前の技術で観察していく。


 何も起きないのであればこっちのものだ。レンは攻撃を仕掛けていき、肉眼では捉えられないほどのスピードでハクの各部位を斬り刻んでいった。


 並の攻撃とは比べられない程のダメージが大量に蓄積されていくのだが、狂者の体はスキルですぐさま回復。何事もなかったかのようにその場に立ち尽くしている。


「ハハハハ!」


 奇声を上げながら、次の攻撃に移る。


 オート発動で完全にランダムなスキルが飛んでくる。今度は雷を発生させる力を発動させたらしく、音速でレンの元まで直行する。


 飛んできた雷を軌道を読み、ギリギリで回避。ユニークスキルを使用して、こちらも飛び道具へと武器を変換させていく。


 よく狙って発砲。女社長の肩の部分に銃弾が直撃するが、直撃と同時に回復していき、


「くそ!隙を突くどころか、傷ひとつ付けられない!」


 レンは歯噛みする。


「私達も行くよナナちゃん!」


 今まで見ているだけだったナナとリンも、攻撃体制に入っていく。


 リンが『瞬間移動テレポート』で一気に相手へと近づき、日本刀を抜く。当然、オート発動されるランダムなスキルを警戒しながらだったが、何故かスキルは発動せず、リンは簡単に攻撃をできた。しかし、攻撃が開始された直後にハクが目の前から消え、リンの奇襲は失敗に終わる。


「まぁ、想定内の出来事だけどね!」


 簡単に傷を付けさせてくれないとは思っていたため、驚きを見せる事はしない。次はナナの攻撃。冷静に矢を放っていき、ユニークスキル──『隔離パラレル』を発動させようとする。


 ハクが移動しきった直後で、隙ができて回避行動にも移れない数秒を狙い、見事直撃するが、傷も直ぐにえていく。


「やっぱダメなの」


「いや、お手柄だ!」


 今の状況を見て、レンが言う。その発言を聞いて、リンはレンに言葉を浴びせた。


「何がお手柄なのさ!ダメージ与えられてないじゃん」


「いや、そういう問題じゃなくて、奴の弱点を見つけたからだ」


「弱点?」


 レンの言葉にナナが首を傾げる。


「あぁ、どう発動してるか不明だったんだが、どうやら、自分が危険に陥ってるってコンピュータが判断しなきゃ発動できないらしい。現にリンが奴に近づいたのに発動しなかっただろ?」


「確かにね……」


 リンが自分の顎に手を当てレンの解説に頷く。


 回復もそういう原理だ。傷を負っているとコンピュータが判断して、初めて傷を癒す。なら、コンピュータを狂わせてしまえば、ダメージを与えられるだろう。


「それに、『コンティニュー』も消せるはずだ。でも、どうすれば……」


 わかっていても方法がない事に、レン達はなす術がなくなる。そんな時、途端にレンの体がまばゆい光に包まれていった。咄嗟の出来事に、周りにいた二人も目を瞑り、それが終わると……


『ユニークスキルのアップデート完了。今までの『武器変換チェンジ』に『侵入スラッシュ』を追加します。レン様、よろしくお願いしますね』


 最後に完全な私情を挟んだアナウンスの声が、レンの頭の中にのみ流れた。


「アップデート?追加?」


「何があったの?」


「いや、アップデートがどうとか……」


 声を聞いていない二人に今、言われた事を説明していく。


 だが、言われた本人すら言葉の意味に理解が追いつかず、レンはユニークスキルを使用してみた。しかし、何か起きるわけでもなく、ますます理解に苦しむ。


 そうしていると、別世界へと隔離されていたハクがこの世界へと戻ってきた。


 何が起きたのはのかわからないが、戦わざるを得ない状況に持ち込まれたレンはもう一度ハクへと攻撃を仕掛けていく。


 危険を察知して、スキルを発動するという仕様なら、リンに飛ばしてもらえば接近できるため、レンはリンにユニークスキルを使用してもらった。


 一瞬でふところまで潜り込め、レンは剣を抜刀。


 先程起きた現象を信じ、謎のスキル『侵入』を使用しながら剣を振るった。それと同時に危険を察知したハクがユニークスキル『城壁』を発動。レンの攻撃が防がれた。


 攻撃失敗。危険人物と判断されたレンに追撃がくるため、レンはコンピュータに察知されない距離を保とうと回避行動に移るが……スキルは発動されなかった。


 更に理解に追いつけないレンだったが、この隙は見逃さないように攻撃していく。が、今度はスキルが発動され、攻撃を防がれる。


(そういうことか!)


 今の現象を見てレンは何かを感じ取り、一旦距離を取った。


「まさかあれって!」


 ナナがレンの行動を見て声を出す。


「知ってるのか?」


「『侵入スラッシュ』。プログラムに侵入して、多少のタイムラグを起こさせるスキル。確か、実装する予定だったはずだけど、ゲーム性を考慮して廃止されたものだったはず」


 ハクに起きた現象を見て、ナナは知りうる知識を言葉にする。


「そうか。やっぱ、俺の思った通りだったってわけか」


 ゲーム経験から予測した事へ、担当者の娘からお墨付きをもらえてレンは笑みを浮かべる。そして、ユニークスキル──『武器変換チェンジ』を使用して、銃を装備した。


 これならハクを突破できる。一度攻撃を当てなければスキルが発動しないと踏んだレンは、遠距離から攻撃を仕掛けていった。


 一発目。その攻撃は発動されたスキルに防がれる。だが、問題はここからだ。


 先程と同じ現象が起きるのであれば、次のスキル発動までに多少のタイムラグが発生する。その時間を利用して、武器を剣に変換して接近していった。


 案の定、スキルは発動されず、レンは簡単にハクのふところへと潜り込めたが、レンが剣を振るったのと同時に剣戟は敵へと届かず、謎のバリアに防がれる。


「だが、本命はこっちだ!」


 一発目は防がれるのは目に見えていた。なら、二発目を当てる。そうすれば、おそらく……


「ダメージも入るだろ?」


 タイムラグがあるのなら、攻撃された直後にはスキルは発動されない。


 レンの攻撃が直撃。しかし、あれ程脅威だった一瞬の回復は発動されず、ハクに傷がついた。


「よっし!」


 傷がついたハクを見て、リンがガッツポーズ。そして、


「これで形成逆転だな。ついでに目も覚まさせてやるよ、影山白」


 そう言葉を紡ぎ、レンの反撃が開始した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る