第三十話 決着の果てに
攻略不可と思われていた無敵の存在を、謎のスキル──『
こんなスキルがなぜ、突然現れたのかは謎だが、今の状況を作れている事実があれば、今はそれだけで十分だ。
レンが銃を構え、相手を見据える。
『
しかも、このスキルもオート発動で重ねがけが可能だ。ただ攻撃するだけで、発動してくれるため、余計な頭をスキルに割く必要がないのもメリットと言える。
相手の隙を突くために一発、発砲。
危険を察知したプログラムは、地を
だが、この攻撃は囮。発砲と同時にレンは武器を剣に変換させて相手の
一度『
このチャンスを生かそうと、レンは各部位を斬り刻んでいく。
もうすぐプログラムが正常に戻るだろうが、レン程のスピードであれば、大ダメージを与えられる。そして、危険を察知した時にスキルが発動されるのであれば、
(傷をつけた直後しか回復は発動しない!)
現にレンがつけた肩の傷が、そのままの状態で残っているのが証拠だ。
大ダメージを受けた白はよろめく。この隙に……
「くらえ!」
レンはゆっくりと剣を引き抜く。同時に、白がうつ伏せで倒れた。
「やったか?」
息を切らしながら、倒れた敵に意識を集中させる。
レンの見立てでは、『
「一応、もう一度!」
そう思った途端……レンは頬に鋭い感触を感じる。
「くそ!」
『コンティニュー』は作動していた。一度後退し、距離を取る。すると、相手はスキルを使用してこなくなる。
「レン!」
「やりづらいぜ。プログラムと戦うってのは」
やられた頬を手で触れる。
『
あのタイミングでもダメなら、最初から
「そう簡単にやらせてくれねぇ。スキルも厄介だが……あの女自身も厄介だ」
さすがはゲーム創作者。意識はなくとも、潜在的な部分でゲームについて把握している。だから、レンに重要な一歩を踏み出させるのを
「協力してくれねぇか?」
「レン?」「レン君?」
「俺も自分の力には自信あったんだがな……でも、アイツには勝てない。一人じゃな。だから、頼む!」
レンが二人に心の奥底からお願いする。
「頼むも何も、私たち仲間じゃん!OK以外の返事はないっつうの!」
「そうだよ。一緒に勝とうよ。そして、ユキちゃんに報告しよ」
「お前ら……」
二人の優しさにレンは、心の奥底から感情が込み上げてきた。
表面にも出そうになったが、カッコ悪いところは見せたくなかったため、必死に
「くるよ!」
先ほどまで、自主的に攻撃には参加してなかった白だが、今度は仕掛けてきた。
唯一の弱点である、レンは攻撃できない点も、プログラムに支配されている今では関係なかった。
やられた分をやり返すかのように、真っ先にレンを標的にしてくる。
危険を察知したらスキルを発動させる仕様になっているはずだが、自分から攻撃した際はどうなるのかと、レンは少しだけ恐怖が湧いてきた。
結果は直ぐにスキル発動。雷を飛ばす力を使用してくるが、持ち前の技術力で攻撃を回避。その後、反撃に移り、プログラムにラグを作りに行った。
言ってしまえば、一発目は囮だ。なら、遠距離から攻撃できた方が有利だと考えたレンは、ユニークスキルで銃に変換し、発砲していく。その後、
「ナナ!」
的確に指示を出していく。
レンの指示をナナも瞬時に理解し、矢を放つ。ラグのある今なら、他の人間の攻撃も絶大な威力を発動するだろう。
「リン!俺を飛ばしてくれ!」
次は自分が白の
プログラムを起動し、全ての人間に『アナザーアカウント』を注いで、ユキを、マキを、敗北してしまった全てのプレイヤーを救い出す。
その希望をこの一撃に込める。
リンがレンに触れ、一瞬で白の目の前へと飛ぶ。
今の状態では攻撃は通らない。だが、
「あと、一秒」
スキルが切れるタイミングを計っていき……スキル解除と共に、剣を
「それでいいんだよ!」
レンが剣を隆起した土に突き刺していく。
プログラムの異常により、土はその場に固まる。そして、レンの行動を予測していた幼馴染──リンは、もう一度レンに触れ、瞬間的に移動させる。
「次は必ず通る!さよならだ、影山白」
白の
剣が突き刺さった核から、強力な稲妻が発生し、白は奇声とは違う大声を上げる。
「冬也……」
今までプログラムに犯されたいた白が言葉を発し、その場に倒れる。
「はぁ、はぁ、今度こそ……」
終わった。
これで復活してきたら、もう勝てない。
安堵か、疲労か不明だが、レンは一気に脱力した。尻餅を突き、立ち上がるのすらも
「やった!」
今度はリンが疲れているレンに抱きついてきて、
「おい、離れろよ!」
「勝ったんだよ!私たち、勝ったんだよ!」
「これで、皆さん元に」
「あぁ、最後の仕事がある。アイツのアカウントに侵入して、全員に『アナザーアカウント』を注いでやらねぇとな」
元々の目的を思い出し、レンは立ち上がった。
重い足取りを必死に動かし、白の元へと向かっていく。
「冬也……私の……」
「まだ言ってんのかよ。大した奴だ」
ここまでこれば、呆れを通り越して、尊敬してしまうほどだ。
社長の前で前屈みになる。彼女の手を無理矢理に動かし、相手のメニュー画面を強制的に開かせ、操作させる。
「どう?」
「パスワードがな。多分、一〇八であってると思うが……これじゃなきゃ、さっぱりだ」
一〇八。とうや。この女ならこのパスワードに設定する可能性が高い。
予想を信じて、パスワード欄に打ち込んでいく。すると……
『認証完了しました』
と、アナウンスが流れ、彼女のアカウントを操作できるようになった。
「よっし!あとは……あった。『アナザーアカウント』。これで……」
全てが終わる。そう思い、『一斉送信』のボタンを押そうとした時……
「冬也!」
女社長が叫び、レンに覆い被さった。
突然の行為にレン、リン、ナナは状況に追いついていけないが……白の背中を白い矢が貫いているのを見て、なんとなくだが状況を理解し始めた。
攻撃されたのだ。だが、この場所には、攻撃してくる者など存在しない。だが、
「おや、おや、ダメじゃないか。今ので死んでくれなきゃ。でも、まぁいいか。このアカウントは僕がもらうから」
突如声が聞こえ、レン達は辺りを見渡すと……衝撃的な人物が視界に飛び込んできた。そこにいたのは、
「矢澤薫!」
黒髪のミディアムに、男女共に虜にできるであろう面差しをした、このゲームを狂わした張本人──レンの因縁の相手が立っていた。
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