第三十話 決着の果てに

 攻略不可と思われていた無敵の存在を、謎のスキル──『侵入スラッシュ』のおかげで追い詰める事に成功したレン。


 こんなスキルがなぜ、突然現れたのかは謎だが、今の状況を作れている事実があれば、今はそれだけで十分だ。


 レンが銃を構え、相手を見据える。


 『侵入スラッシュ』は一度攻撃を加えないと力を発動できないが、一度力を発動してしまえば、相手に多少のタイムラグを与えられるスキルだ。故に、遠近両用の攻撃方法を用いる事のできる『武器変換チェンジ』とは、相性抜群。


 しかも、このスキルもオート発動で重ねがけが可能だ。ただ攻撃するだけで、発動してくれるため、余計な頭をスキルに割く必要がないのもメリットと言える。


 相手の隙を突くために一発、発砲。


 危険を察知したプログラムは、地を隆起りゅうきさせて土の壁を作る。同時に、硬度を鉄並にも変える。


 だが、この攻撃は囮。発砲と同時にレンは武器を剣に変換させて相手のふところへと潜っていた。


 一度『侵入スラッシュ』に犯されたプログラムは、正常に機能しなくなる。そのおかげで、レンは相手に剣を振るって傷を負わせることに成功した。


 このチャンスを生かそうと、レンは各部位を斬り刻んでいく。


 もうすぐプログラムが正常に戻るだろうが、レン程のスピードであれば、大ダメージを与えられる。そして、危険を察知した時にスキルが発動されるのであれば、


(傷をつけた直後しか回復は発動しない!)


 現にレンがつけた肩の傷が、そのままの状態で残っているのが証拠だ。


 大ダメージを受けた白はよろめく。この隙に……


「くらえ!」


 コア穿うがち、トドメを刺し、このふざけたゲームを終わらせる。


 硝子がらすが割れるような甲高い音がした。


 レンはゆっくりと剣を引き抜く。同時に、白がうつ伏せで倒れた。


「やったか?」


 息を切らしながら、倒れた敵に意識を集中させる。


 レンの見立てでは、『侵入スラッシュ』の発動内にコア穿うがったはずだが、あの力がどのくらいの時間作用するかを計っていないため、確証はない。


「一応、もう一度!」


 そう思った途端……レンは頬に鋭い感触を感じる。


「くそ!」


 『コンティニュー』は作動していた。一度後退し、距離を取る。すると、相手はスキルを使用してこなくなる。


「レン!」


「やりづらいぜ。プログラムと戦うってのは」


 やられた頬を手で触れる。


 『侵入スラッシュ』のおかげなのか、このゲームの仕様である重くなる作用もない。


 あのタイミングでもダメなら、最初からコアを狙っていくしかない。だが、


「そう簡単にやらせてくれねぇ。スキルも厄介だが……あの女自身も厄介だ」


 さすがはゲーム創作者。意識はなくとも、潜在的な部分でゲームについて把握している。だから、レンに重要な一歩を踏み出させるのを躊躇ちゅうちょさせる。そのせいで、レンは隙を作るので精一杯だ。


「協力してくれねぇか?」


「レン?」「レン君?」


「俺も自分の力には自信あったんだがな……でも、アイツには勝てない。一人じゃな。だから、頼む!」


 レンが二人に心の奥底からお願いする。


「頼むも何も、私たち仲間じゃん!OK以外の返事はないっつうの!」


「そうだよ。一緒に勝とうよ。そして、ユキちゃんに報告しよ」


「お前ら……」


 二人の優しさにレンは、心の奥底から感情が込み上げてきた。


 表面にも出そうになったが、カッコ悪いところは見せたくなかったため、必死にこらえる。


「くるよ!」


 先ほどまで、自主的に攻撃には参加してなかった白だが、今度は仕掛けてきた。


 唯一の弱点である、レンは攻撃できない点も、プログラムに支配されている今では関係なかった。


 やられた分をやり返すかのように、真っ先にレンを標的にしてくる。


 危険を察知したらスキルを発動させる仕様になっているはずだが、自分から攻撃した際はどうなるのかと、レンは少しだけ恐怖が湧いてきた。


 結果は直ぐにスキル発動。雷を飛ばす力を使用してくるが、持ち前の技術力で攻撃を回避。その後、反撃に移り、プログラムにラグを作りに行った。


 言ってしまえば、一発目は囮だ。なら、遠距離から攻撃できた方が有利だと考えたレンは、ユニークスキルで銃に変換し、発砲していく。その後、


「ナナ!」


 的確に指示を出していく。


 レンの指示をナナも瞬時に理解し、矢を放つ。ラグのある今なら、他の人間の攻撃も絶大な威力を発動するだろう。


「リン!俺を飛ばしてくれ!」


 次は自分が白のふところに潜入。スキルが切れた瞬間を狙い、今度こそコアを破壊する。それで、この呪われたゲームもおしまいだ。


 プログラムを起動し、全ての人間に『アナザーアカウント』を注いで、ユキを、マキを、敗北してしまった全てのプレイヤーを救い出す。


 その希望をこの一撃に込める。


 リンがレンに触れ、一瞬で白の目の前へと飛ぶ。


 今の状態では攻撃は通らない。だが、


「あと、一秒」


 スキルが切れるタイミングを計っていき……スキル解除と共に、剣をコアに突き刺していくが、当然、『侵入スラッシュ』の効果も切れているため、プログラムが始動し、白を守る行動を取る。


「それでいいんだよ!」


 レンが剣を隆起した土に突き刺していく。


 プログラムの異常により、土はその場に固まる。そして、レンの行動を予測していた幼馴染──リンは、もう一度レンに触れ、瞬間的に移動させる。


「次は必ず通る!さよならだ、影山白」


 白のコアをしっかりと狙い、思いっきり穿った。


 剣が突き刺さった核から、強力な稲妻が発生し、白は奇声とは違う大声を上げる。


「冬也……」


 今までプログラムに犯されたいた白が言葉を発し、その場に倒れる。


「はぁ、はぁ、今度こそ……」


 終わった。


 これで復活してきたら、もう勝てない。


 安堵か、疲労か不明だが、レンは一気に脱力した。尻餅を突き、立ち上がるのすらもだるい。


「やった!」


 今度はリンが疲れているレンに抱きついてきて、鬱陶うっとうしい。


「おい、離れろよ!」


「勝ったんだよ!私たち、勝ったんだよ!」


「これで、皆さん元に」


「あぁ、最後の仕事がある。アイツのアカウントに侵入して、全員に『アナザーアカウント』を注いでやらねぇとな」


 元々の目的を思い出し、レンは立ち上がった。


 重い足取りを必死に動かし、白の元へと向かっていく。


「冬也……私の……」


「まだ言ってんのかよ。大した奴だ」


 ここまでこれば、呆れを通り越して、尊敬してしまうほどだ。


 社長の前で前屈みになる。彼女の手を無理矢理に動かし、相手のメニュー画面を強制的に開かせ、操作させる。


「どう?」


「パスワードがな。多分、一〇八であってると思うが……これじゃなきゃ、さっぱりだ」


 一〇八。とうや。この女ならこのパスワードに設定する可能性が高い。


 予想を信じて、パスワード欄に打ち込んでいく。すると……


『認証完了しました』


 と、アナウンスが流れ、彼女のアカウントを操作できるようになった。


「よっし!あとは……あった。『アナザーアカウント』。これで……」


 全てが終わる。そう思い、『一斉送信』のボタンを押そうとした時……


「冬也!」


 女社長が叫び、レンに覆い被さった。


 突然の行為にレン、リン、ナナは状況に追いついていけないが……白の背中を白い矢が貫いているのを見て、なんとなくだが状況を理解し始めた。


 攻撃されたのだ。だが、この場所には、攻撃してくる者など存在しない。だが、


「おや、おや、ダメじゃないか。今ので死んでくれなきゃ。でも、まぁいいか。このアカウントは僕がもらうから」


 突如声が聞こえ、レン達は辺りを見渡すと……衝撃的な人物が視界に飛び込んできた。そこにいたのは、


「矢澤薫!」


 黒髪のミディアムに、男女共に虜にできるであろう面差しをした、このゲームを狂わした張本人──レンの因縁の相手が立っていた。

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