第十四話 アナザーアカウント
消えゆくレンを『
彼に討たれた者はユニークスキルが使用できない。それは、邪道のスキル『コンティニュー』ですら例外ではない。
意識が朦朧としていき、あらゆる器官が機能していかなくなる。最初は体を動かせなくなり、次に呼吸が苦しくなっていく。最後に脳機能も作用しなくなり、その影響で五感と呼ばれる神経系が全て遮断され、レンは何もない空間に放り出される。
しかし、それでも完全に息絶える事はなく、虚無の時間が数秒続く。そして、レンの意識は徐々に遠のいて行き、ゲーム内から完全に消えた。
「うわー!」
静電気のような微弱な電流が脳に感じて、レンは強制的に現実世界に引き戻された。
しかし、突然の出来事にレンは意識が戻っていなかった。そのせいで、五感がうまく作用しず、レンは周りから何も感じることができなかった。だが……
「くそ!」
しばらくして現実に意識も戻ってきたので、レンは近くの壁を叩きつける。
悔しい。ゲームに負けた事もそうだが、無名の人間に呆気なく敗北させられたことが、レン自身のプライドに傷をつけた。
その事実が認められないレンは、VRゴーグルを被り、もう一度ログインを試みるが……
『コネクションエラー。このプレイヤーのアカウトは存在しておりません。規約違反により、十秒後に微弱な電流を流します。速やかな退場を』
その様なアナウンスが流れ、レンはVRゴーグルを外し、ゴーグルを投げ捨てる。
他のゲームであれば、報復と言う方法を取ることができるのだが、このゲームは敗北したら、もう二度と復活ができない。だから、この悔しさを直接ぶつける事ができないのだ。
だが、起きてしまったことは変えられない。悔しさは残るが、一度深呼吸して、レンは状況を整理することにする。
まずは、敗北した理由だ。
おそらく、ユニークスキルを無力化するスキルを持っていたのだろうが、ここはまだレンにも理解できた。
最弱のユニークスキルがあるなら、無敵と言われるユニークスキルも存在する。これは因果という絶対に切り離せないものなので、仕方のないことだ。
だから、ゲームバランスを崩さないために、力自体を無力化するスキルが実装されていてもおかしくはない。
しかし、この状況の中にクイーンが発した言葉を含めると、話の内容は百八十度変わってくる。
クイーンは『DEO』はレンの勝利が確定しているゲームだと言っていたのだ。
なら、それはもうプログラミングされている決定事項になり、それ以外の行動は起こせないということになるのだが、結果は違った。
レンは敗北し、今、アカウントを奪われた。つまり……
「あの女の言っていたことは嘘だったってことか……」
そう結論するしかなかった。
クイーンは嘘をついた。そうまでして、レンを事件に絡ませたかったらしい。なら、それはなぜなのか。次は、その部分が気になってしまった。
「まぁ、そこについては明日、瑠璃にでも聞いてみるか」
サイコメトラーではないレンには人の心を読むことはできない。だから、そのことについては考えても無意味なので、賢明な選択を取ることにする。
「マキ……」
レンと同じで奇しくも敗北した少女。現実での死には繋がらないので、おそらく、自宅で意識を覚醒させているだろうが、初めてプレイヤーキルにあった経験は彼女へとトラウマを植え付けただろう。
『DEO』がきっかけで精神を病み、学校に来なくなるかもしれない。それだけが気がかりで、マキにも後日会って話そうと思う。
「くそ!くそ!くそ!」
現実での死には繋がらなかったとしても、カオルの蛮行は許せなかった。
仇を討ちたい、あの男に敗北の味を与えさせたい。そんな感情がレンの内側に込み上げてきて、VRゴーグルをもう一度装着する。
声が聞こえる。このままでは先程と同じ電流を浴びせさせられ、レンは強制退出させられる……と思ったが、VRゴーグルの電源が急に点灯した。その事にレンは驚きを見せる。
『木山蓮。今、シャドーはメタバース空間を乗っ取ろうとしている。しかも、社長の
「吉良……」
VRゴーグルから流れたアナウンスに導かれ、レンはゴーグルを手に取り、もう一度被って見る。すると……
『ようこそ!『DEO』の世界へ。木山蓮、アナタにもう一度ログインする資格を差し上げます。この特別な代物、『アナザーアカウント』を』
いつものアナウンスからそう言われ、レンは再びゲーム内への立ち入りを許可された。
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