第四十話 最終決戦⑤
無の空間。
名前の通り、何もない場所で、全ての司令塔──『
そんな地に『特殊条件』を備えたレンは、今降り立った。
目的は目の前の光の水晶玉を破壊し、『
「でけぇ……」
光り輝く『
通常の
確かに、この大きさであれば、ネットを構築するプロバイダーの役割を果たせても納得できる。
世界崩壊まで時間が限りなく少ないため、レンは早速行動に移る。しかし……
「ッ!」
向かい合うだけで本能が
目の前の物質とは絶対に相対してはならない、関わってはならないと、全身にビシビシと伝わってくる。
まだ何もされていないのに全身から汗が流れ、息を呑む。
だが、レンは目を閉じ、自分に命運を託していった仲間達を思い浮かべた。そうする事で、恐怖心を押し殺す事に成功し、なんとか向き合う資格を得ることだけはできた。
それでも、魔王や四獣などが赤子に思えるほどの威厳を放っている。
「大丈夫だ!俺ならやれる!」
一歩だけ足を動かし、相手の懐に入っていく準備をする。
押し潰されそうな圧力のせいで、足取りが重くなるような錯覚を覚えるが、接近しなくても攻撃できる飛び道具──銃に変換していき、攻撃を開始した。
的は相当な大きさで、一切動きはしない。子供や銃の腕が未熟な初心者でも当てられるため、直撃は必至だと思われたが……光の隕石に触れた途端に銃弾が灰と化す。
「嘘だろ!」
触れた攻撃を無かったことにする光景を見て、レンは思わず声を上げてしまっていた。
あんなのどうやって対応すればいいのだ。得意の
たった一回の攻撃で絶望という言葉を植え付けられ、レンは歯噛みする。
『第一神経を無効化してください』
脳内にアナウンスの言葉が流れる。
「第一神経?」
『はい。『
「で、第一神経ってのは何を担ってるんだ?」
「この世界の基礎的な部分です。プレイヤー達が攻撃、防御、移動などの行動を取れるのは、この第一神経のおかげなのです」
「なら、破壊したら……」
「えぇ、『
「賭けになるってわけか」
「はい」
アナウンスが肯定する。
下手したら動けなくなるかもしれないのは少し怖いが、第一神経を破壊しなければ、活路は見いだせない。なら、言われた通りに行動に移すしかあるまい。だが、
「防御神経が働いてるのにどうやって破壊するんだ?」
単純な疑問が生じた。しかし、
「簡単です。第一神経には別に
「そこを狙えばいいんだな」
アナウンスの言葉に返答し、無言の肯定をしてもらえる。
これだけ強大な物質から特定の物を探すのは苦労するが、残り時間が二分を切っているため、悩んでいる時間はない。
第一神経なる『
それにしても、大きな物質だと思う。これだけのものに、全プレイヤーの記憶、才能、力が宿っているのだから、感慨深い。
(くそ!)
表から裏まで全てを凝視して確認していくが、極小の物質を巨大な物質から見つけるのは困難を極めた。
制限時間が刻々と過ぎていき、同時に焦りがレンの内側に芽生え始めた。
相手は何もしてこないが、待っているだけで勝利が確定する。自爆が成功してしまえば、レン達は無限の地獄を体験することになる。だが、
「アイツは多分、再生できる。じゃなきゃ、自爆なんて方法取らないだろうしな」
レンは自分の仮説を述べていく。
しかし、その仮説は正しいかもしれない。なぜなら、『
その目的だけは絶対に阻止しなければならない。そのためには残り二分は絶対に自分のものにしなければならないのに……
「見つからねぇ!」
まだ二つの神経を破壊しなければならなというのに、レンは最初の段階すらもクリアしていない。
まもなく一分を切る。床や壁の揺れが激しくなっていき、空間も
『お兄ちゃん!』
脳内にユキの声が聞こえた。
何かに縋りたいと思うレンの弱さが声になった幻聴だったかもしれない。だが、ユキの声がレンの瞳に闘志を再び宿してくれた。
「見える!」
『
ルリの力を最大限に使用し、レンは第一神経の位置へと猛スピードで接近していく。
もちろん、使用するのは『
第一神経の『
冬也のユニークスキル──『
「ユキ、力借りるぜ」
リンが一度やっていた『
しっかりと狙いを定めて『
硝子が割れるような甲高い音が無音の空間に響き、神々しい光が放たれる。その後、『
「くっ!」
この世界の防御機能を失ったため、レンの胸は締め付けられるような苦しみを感じる。だが、歯を食いしばって必死に堪え、次の攻撃に移っていく。
第二神経の破壊。
この世界の
ルリとシホの力をかけ合わせ、次なる標的へと向かっていく。しかし、防御機能を破壊された『
そこからユニークスキル──『電撃波』が作られ、明確な攻撃を仕掛けてきた。
だが、今のレンに速さで勝てるものはいない。
光速に近い攻撃をいとも簡単に回避していき、目的地へと到着する。
第二神経がある場所は核の上部だったため、空中に浮くしか方法がなかったが、リンの『
第二神経にも近づかれ、人工知能も危険を察知したらしい。またも違うスキル──『空気弾』を使用して、レンを撃ち落とそうとしてくる。
「あまい!」
空気弾の軌道を読み切り、盾を生成し、ナナのユニークスキル──『
発生された空気弾が水の膜に覆われていき、この世界では意味のないものになる。そして……十分な間合いをとったレンは第二神経に双剣を突き刺した。
甲高い音と激しい稲妻が発生し、レンは体から力が抜けていく感覚を覚えた。
黒いオーラに包まれた時と同じ
「まだ終わってねぇ」
重い体を必死に動かし、世界を司っている最後の第三神経を見据える。
自分が磨き上げてきた技術に誇りを持ち、最後の攻撃に移っていく。
もう残り時間がない。
この攻撃が本当に最後になり、失敗すれば全てが終わる。
それでもレンに恐怖はなかった。
自分の力を信じているというのもあるが、それ以前に、仲間と一緒に戦っているような感覚になったからだ。
体全体が暖かく感じ、皆が側にいてくれるようだった。
「ありがとう」
この場には仲間はいないため、あくまでレンの錯覚なのだが、お礼を口ずさむ。そして、
「俺は『最弱の王』!世界一スキルに恵まれない男だ!」
そう『
暗い空間全てを神々しい光が包み込み、レンは目を瞑る。それと同時に、空間に地響きと暴風が発生し、レンは吹き飛ばされた。
しばらくして光が引いていった。
「どうなった?」
光が消え、隕石のような物質は灰と化し、朽ちていく。
最後はただの炭の山のようになってしまい、この世界を支配していた物質の面影は完全になくなった。
「終わったのか……」
レンが呟く。
『はい、終わりました』
レンの言葉にアナウンスが答えた。
「まだ最後の仕事が……『アナザーアカウント』を」
『大丈夫ですよ』
レンの言葉に、アナウンスが安心させる答えを提示する。その後、灰の山となっていた『
『これで皆、元に戻ります。レン様ももうすぐ……』
「この世界から消えるってことか……」
『はい』
レンの言葉に肯定し、その後、
『ありがとうございました。アナタのおかげでこの世界は救われた。私も……』
「お前は消えちまうんだろ?」
『そんな事はありません。私はプログラムなので、また別のゲームで復活できますよ』
「そうか……色々世話になったな」
『いいえ。私こそ……』
アナウンスが泣きそうな声で言う。その後、レンが
「最後に話しときたい奴がいるんだ」
『えぇ。矢澤様ですね』
「あぁ」
そう言って、レンは倒れているカオルの元へと向かっていく。だが、振り返り、そこに姿のないはずのアナウンスに向かって、
「ありがとう。さようなら」
感謝とお礼の言葉を述べた。その言葉にアナウンスは心が揺さぶられた。そして、
『こちらこそありがとう……レン君』
と、レンを助けるためにゲーム内に入った人物──吉良七海が一言呟き、彼女は現実世界へと戻っていった。
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